77 / 526
第3話:スノン・マーダーの一夜城
#35
しおりを挟む“一夜城”のエネルギーシールドが完全復活した事は、イースキー艦隊の司令官であるセレザレスらも知っていた。しかし突如出現した、ウォーダ軍BSIの大部隊による戦場の大混乱に、手一杯となっている。
「敵BSI部隊の一部に、取り付かれました!」
「各戦艦より直掩機の発進完了!」
「対BSI迎撃戦闘!」
「各艦の間隔を詰めろ!」
「ウォーダ軍BSHO『レイメイFS』接近!」
“鬼のサンザー”ことカーナル・サンザー=フォレスタの専用機の接近に、緊張した面持ちでセレザレスは命令を下す。
「戦隊直掩機を全部回せ! それでも近付くようなら、誘導弾一斉発射だ!」
セレザレスの旗艦の周囲から、十六機の親衛隊仕様『ライカSS』が急加速し、『レイメイFS』の迎撃に向かった。対するサンザーは、今年のはじめに配備が始まった新型機、親衛隊仕様『シデン・カイXS』五機を引き連れて突撃して来る。
立ち向かって来る『ライカSS』十六機を、サンザーはイルミネーターですべてに照準、超電磁ライフル一弾倉分八発をまず連射。そして目にも止まらぬ早業で弾倉を交換し、さらに八発を連射。十六機すべてのコースを乱して機先を制す。その間に五機の『シデン・カイXS』は散開。コースを乱した敵の親衛隊機へ、ドッグファイトを挑んだ。
双方とも親衛隊仕様機。だが『シデン・カイXS』は最新鋭であり、パイロットもサンザーの直掩を務める歴戦の手練れ揃いである。一方のセレザレスの直掩部隊は技量は高いものの、新編制・再編制を繰り返したイースキー軍第9艦隊のため、司令官同様に実戦経験が乏しく、直掩部隊としての訓練時間も足りているとは言い難い状況だった。
その差が『レイメイFS』の牽制射撃で瞬時に露呈する。サンザーと歴戦のパイロット達は、敵機の回避運動とその直後の対応ぶりを見て、どのくらいの技量を有しているかを見抜いた。個々の動きは悪くないが、直掩隊としての連携は今一つと想定、数は敵の方が多くとも、僚機との連携で打破できると踏んで二機一組、さらに三つの組がそれぞれに支援し合う形を取った。
そしてそれは、死の舞踏会とも呼べる様相を呈する。『レイメイFS』と五機の『シデン・カイXS』が互いを支援し、舞うように円を描いて機動、超電磁ライフルを射撃した。
「なっ!…なんだ!? うわぁああああ!!!!」
不慣れな連携を切り離され、想定外の位置から別の『シデン・カイXS』による射撃を喰らったイースキー軍の『ライカSS』は、次から次へと各個撃破されていく。
「直掩機隊、被害甚大! 突破されそうです!!」
口調に焦燥感を帯びたオペレーターの報告に、セレザレスは「ぬあああっ!!」と忌々しそうに声を上げ、艦長へ命令を出す。
「艦長。急いで艦を後退させろ。距離を取るんだ!」
これまでの“一夜城”への戦術で、過度に慎重な面が見え隠れしていたセレザレスは、保身に走りだしたのか、さらに傍らの艦隊参謀へも大声で指示した。
「旗艦と『レイメイFS』の間に、護衛艦を入れて壁を作れ!!」
急速後退を始めた旗艦の艦橋でセレザレスは、「クソッ!!」と悪態をついて自身の疑念を声にして出す。
「どういう事だ!? なぜ上流側に敵艦隊がいた!? しかもフォレスタが司令官の艦隊だと? 情報と違うじゃなないか!!」
セレザレスが複数の疑念を抱くのも無理はない。“一夜城”の到着が実は予定より半日遅れで、サンザー艦隊の方が先に到着していたのであり、またヴァルキスのアイノンザン=ウォーダ家からもたらされたスパイ情報では、サンザーの艦隊はノヴァルナの第1艦隊とともに、基地建設に成功したあとの後詰めとして、まだこちらへ向かっている途中であるはずなのだ。
「艦隊の配置情報に齟齬があったのでは?」
セレザレスの傍らにいる艦隊参謀がそう意見を述べると、別の参謀が異論を口にする。
「いや。ノヴァルナ殿の艦隊がもう一個の艦隊と共に、この空隙に向かっているのは確認されています。そうなるとウォーダ軍の艦隊の総数が、データより一つ多くなります」
「むう…」
考える眼をしたセレザレスだが、それ以上余計な事を考えている余裕は、すぐに無くなった。イースキー軍の直掩隊を蹴散らしたサンザーの隊が、護衛艦の壁をものともせずに、二隻の軽巡と三隻の駆逐艦を行動不能にして、こちらへ迫って来たからだ。
「敵BSHO、なおも接近!」
「迎撃せよ!」
オペレーターの報告に叫ぶ艦長。単縦陣を組んだ、セレザレスの旗艦を含む五隻の戦艦が、一斉に誘導弾を発射し、CIWSのビーム砲を連射し始める。しかしサンザーと五機の部下は止まらない。雨あられと飛んで来る誘導弾やビームを、まるで撃たれる前から射線が分かっているような回避で躱しつつ、距離を詰める。
「弾種、対艦徹甲」
コクピットの全周囲モニターを、覆い尽くすほどの敵の迎撃火箭など、気にも留めるふうもなくサンザーは部下達に命じる。眼前で急激に大きさを増して来る、セレザレスの旗艦の横腹。一瞬後、サンザーは航過しながらトリガーを引き、ありたけの対艦徹甲弾を叩き込んだ。
セレザレスの第9艦隊旗艦は全長が五百メートル以上あるが、サンザーの『レイメイFS』と五機の『シデン・カイXS』がら、連続して対艦徹甲弾を撃ち込まれて、ドカドカドカとサンドバッグのように揺さぶられた。セレザレスは司令官席に座っていられず、床に突っ伏す。
「第6,第7、第11、第14区間に多数被弾!」
「主砲塔2番から5番、旋回不能!」
「重力子ノズル中破。加速率25パーセントダウン!」
「左舷シャトルポート使用不能!」
オペレーターの損害報告が続くと、さらに大きな振動。艦橋の数箇所からスパークが噴き出して、火災も発生し騒然となった。眼の前に晒された死の現実に、セレザレスは覚悟の無さが露呈する。所詮はイースキー家のビーダとラクシャスの子飼いの武将として目を掛けられただけの、出世欲に塗れた者であり、己の命を賭してまで任務を果たそうという決意はない。
「き!…旗艦を移す! シャトルを用意しろ!」
臆病風に吹かれたセレザレスの発した自己保身の命令に、消火と応急修理を始めていた艦橋のスタッフ達は、唖然とした顔を向けた。
サンザーの部隊の直接攻撃を受けたセレザレスの艦隊より、比較的損害状況が少ないラムセアルとバムルの艦隊は、セレザレス艦隊を盾にする形で、“一夜城”へ向けての攻撃を再開した。
「味方への誤射撃に注意し、城への攻撃を最優先として前進!」
その命令にラムセアルとバムルの指揮下にある各艦は、主砲を放ちながら陣形を整えようとする。しかし“一夜城”はエネルギーシールドを完全回復させており、大きなダメージを簡単には与えられ無くなっていた。
するとその時、ラムセアルの旗艦のオペレーターが、新たな報告を告げた。
「空隙の下流方向より、急速接近するものあり。艦隊と思われます」
「下流方向? 味方の防衛艦隊か?」とラムセアル。
「確認中」
星間ガス流の中に形成されたここ『スノンマーダーの空隙』には、自分達が呼び寄せた恒星間防衛艦隊三個が流れの下流側にいて、ウォーダ軍の築城部隊二個艦隊を足止めしている。その一部が現状を察知して、応援に来てくれたのかも知れないと、ラムセアルは考えた。そうなるとまた、状況は好転するに違いない。
ところがラムセアルの期待は、次のオペレーターの言葉で、大きな衝撃によって打ち砕かれた。
「接近する艦隊らしきものは二個…そのうち一つは、ウォーダ軍第1艦隊。ノッ…ノヴァルナ・ダン=ウォーダの直率艦隊です!!!!」
▶#36につづく
0
あなたにおすすめの小説
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる