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第3話:スノン・マーダーの一夜城
#34
しおりを挟むそして“”一夜城のシャトル格納庫では、頭部を爆破されて床に横たわる、カマキリ型機械生物の傍らで、機能を停止しかけているP1‐0号へ、キノッサが転がり込むように駆け寄っていた。仰向けに倒れている上半身を抱え起こし、表情を強張らせて呼びかける。
「ポッ!…PON1号!! しっかりするッス!!」
シャトルの外殻をも引き裂く、カマキリ型機械生物の大鎌の斬撃を喰らったP1‐0号の上半身は、右の側頭部が大きく損壊し、胸部も中央付近まで大きく抉れていた。微かだが破損箇所の中からは紫色の煙が上がり、不安定なリズムの異音が聞こえて来る。キノッサの呼び掛けにP1‐0号は、赤から緑に戻っていたセンサーアイの光を、弱々しく明滅させて応じた。
「誰が…PONやねん…」
普段通りの返しに、機械生物の影響下から脱した、元のP1‐0号だと分かる。
「怪我はないかい?…お猿…」
そう尋ねるP1‐0号に、キノッサは絞り出すような声で応じた。
「大丈夫ッス…」
「そうか…ならいい。さぁ…早く任務を…続けるんだ…」
「おまえを置いては、行けないッス!!」
強く言うキノッサ。意識を取り戻したホーリオとカズージが、視界の向こうで起き上がり始める。キノッサが視線を戻すと、P1‐0号はセンサーアイの縁から洗浄用のオイルを滲ませていた…まるで涙のように。つられてキノッサも涙腺を緩ませる。言葉の真偽は分からないが、P1‐0号は諭すように告げた。
「勘違いするな、お猿…これはセンサーアイの洗浄機能が…損傷で誤作動しただけだ…泣いているわけではない…アンドロイドに感情移入は無用だ…」
現在の銀河皇国で使用されるアンドロイドが、外見や態度を必要以上に人間へ寄せられていないのは、こういった喪失の事態に人間側が過度の感情移入をしないがためだ。しかしそれでも―――
「勘違いすんのも当たり前じゃないッスか!! 俺っち達は友達なんスから!!」
それを聞いてP1‐0号の無機質な顔が、まるで微笑んだように思えた。
「しょうがないな…お猿は………」
次の瞬間、P1‐0号の側頭部の破断箇所から、バチン!…と火花が飛んで、センサーアイが激しく瞬く。明らかな異変―――最期の時の訪れに、キノッサの表情は蒼白となる。停止しつつある言語機能を振り絞るP1‐0号。
「…気に病む…要はないさ…なぜ…ら…アンドロ…ドの…僕…に………」
P1‐0号の言葉はそこで途切れ、センサーアイは光を失った。喪失感で崩れ落ちそうになる上体を、拳を握った両腕で支えたキノッサは、口を真一文字にして、床の上にはらはらと涙を滴らせる。
「キノッサぞん…」
ホーリオに肩を抱えられて近寄って来たカズージが声を掛けると、キノッサは手首で涙を拭い、自分自身に言い聞かせるように告げた。
「今は戦闘中ッス。中央指令室へ戻るッス!!」
中央指令室へ駈け込んで来たキノッサは、大声で問い掛けた。
「状況はどうなってるッスか!!??」
カマキリ型機械生物が機能を停止した直後辺りから、自分達のいる“一夜城”を揺さぶる被弾の震動が減った事には気付いていたが、外で何が起きているかは把握できていないキノッサだ。
身振り手振りを大きくして指揮を執っていたハートスティンガーは、キノッサの声に司令官席から振り返り、「おお。戻ったか!」と言って状況を知らせた。
「カーナル・サンザー=フォレスタ殿の部隊が来てくれた! 敵がBSI部隊を発進させるのを雲海の中で待っていたんだろう。この城の周囲で機動戦に持ち込んだおかげで、敵艦隊からの艦砲射撃が弱まった」
頷くキノッサ。ハートスティンガーの部下やその協力者達に、少なからず損害が出るのを放置していたサンザーの冷徹とも言える戦術だが、第6艦隊だけでイースキー家の三個艦隊を相手にするには、必然的な判断だと理解する。
「それで、対消滅反応炉の方は!?」
ハートスティンガーは「まだだ」と応じながら首を振った。そこへカズージを肩で支えたホーリオも遅れて到着する。
「機械生物の親玉だった『パルセンティア』を破壊して、ロックは外れたが、再プログラムに時間が掛かる。ギリギリだって事に変わりはねぇ!」
ハートスティンガーがそう続けると、キノッサは「分かったッス!」と告げる。そして急ぎ足でオペレーター席へ向かいながら、ホーリオに指示した。
「ホーリオ。俺っちと一緒に、プログラム再構築の並行処理をやるッス!」
「了解」
短く言葉を返したホーリオは、近くの空いている席にカズージを座らせて、自分も動力システムのオペレーター席へ急いだ。大きな体をオペレーター席へ押し込むように座ると、素早く準備を整え、キーボードを叩き始める。
驚くべきはホーリオの処理速度だった。隣で作業中のハートスティンガーの部下が、ふとホーリオのモニター画面に眼を遣り、思わず二度見するほど、猛烈な速度でプログラムが再構築されていく。キッパル=ホーリオという若者の、才能の一つだった。その速度は先に並行処理を始めていたキノッサを軽く抜き去り、メインで再構築処理を行っていたオペレーターをも上回って行く。
「こいつは凄い…」
ハートスティンガーが唸るように言うと、早くも対消滅反応炉のプログラム再構築が完了した。別に自分の手柄にするつもりはないが、キノッサは画面を確認すると顔を上げ、ハートスティンガーに告げる。
「再構築完了。対消滅反応炉を再起動して、エネルギーシールド全力稼働ッス!!」
▶#35につづく
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