銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

文字の大きさ
75 / 526
第3話:スノン・マーダーの一夜城

#33

しおりを挟む
 

そして状況はさらに急転する―――

 同じ頃、“一夜城”の外側では、艦砲射撃を続けるイースキー軍の艦列を、後方から発進したBSI部隊が航過しようとしていた。

 三個艦隊の宇宙空母から発進した機数は、BSIユニット、ASGUL、攻撃艇合わせておよそ五百。エネルギーシールドと迎撃砲火の威力が、艦砲射撃でかなり低下した今の“一夜城”にとって、決定打となるはずだ。

 “一夜城”との距離を詰めていく、イースキー軍BSI部隊の指揮官の一人が、母艦のCC(コマンドコントロール)へ報告を入れる。

「こちらモルグリーダー。これより攻撃を開始する」

 自らが乗る親衛隊仕様BSI『ライカSS』の、照準装置の明度補正を手動で行いながら、指揮官は攻撃目標の“一夜城”をモニターの拡大映像で確認した。解析フィルターを通して見る“一夜城”は、所々でエネルギーシールドの出力が不安定になっており、そこを狙われて本体に戦艦主砲の直撃を喰らった箇所には、大穴が開いている。

 まるでハリボテだな…と指揮官は思った。こんなものを、いつの間に造ったのかは知らないが、桁材を組み合わせただけのような構造は、不細工なだけであって、宇宙城―――要塞としての機能を全く有していない。それに防衛戦力も重巡が三隻以外は、建造資材を運んで来たと思われる武装貨物船ばかりで、BSI部隊も配備されていないとは、正気の沙汰ではない。


 だが、すぐにケリをつけてやる…と、照準ディスプレイの明度を、自分の好みに再調整し終えた指揮官が、操縦桿を握り直した直後であった。BSI部隊の大編隊の右側、『ナグァルラワン暗黒星団域』の星間ガス上流方向で、大量の閃光が一度に瞬き、狼狽した味方機の通信が一遍に流れ込み始める。

「敵だ!! 敵だ!!」

「うぁあああああ!!!!」

「てッ!…敵のBSIの大群が!!」

「立て直せ! 立て直せ!!」

 敵のBSI部隊!?…何が起きたと眉をひそめる指揮官に、母艦のCCから緊急連絡が入った。

「モルグリーダー、こちらコマンドコントロール。緊急警報! 方位038から、093にかけての星間ガス流内より、ウォーダ家BSI部隊が出現。機数はおよそ五百」

「五百!?」

 思わず聞き返す指揮官。約五百と言えば、自分達三個艦隊と同じ規模だ。しかし母艦のCCはそれには応じず。さらに背筋が凍るような事を告げた。

「敵編隊の中にBSHO『レイメイFS』のシグナルを確認」

「『レイメイFS』!?…“鬼のサンザー”か!!!!」
 
 “鬼のサンザー”こと、カーナル・サンザー=フォレスタが指揮を執る、ウォーダ軍第6艦隊は、三十隻以上の空母を集中運用する空母打撃群であり、搭載機の総数は五百四十四機…つまり通常編制の基幹艦隊三個分にも相当する。

 その第6艦隊は、実はキノッサの“一夜城”が、『スノンマーダーの空隙』へ到着するよりかなり早く、先着していたのである。いや、正確に言うと“一夜城”の方が、作戦のタイムスケジュールより半日遅れで到着したのだ。

 このためサンザーは独自の判断で、探知用のステルスプローブを複数基敷設した上で、麾下の艦隊を『スノンマーダーの空隙』の周囲を流れる、星間ガス流の上流側に潜ませた。これには空隙内部を定期哨戒する無人探査機に、察知されるのを避けるという目的もある。
 そしてキノッサの“一夜城”が遅れて到着し、イースキー艦隊との戦闘が始まると、サンザーは敵艦隊がBSI部隊を発進させるのを待った。イースキー側の武将セレザレスが考えた通り、BSI部隊を大量に投入するする事は、戦場の趨勢を決定づけると同時に、戦場が荒れる事に繋がる。そうなる事で、BSI部隊による機動戦に特化した第6艦隊は逆に、勝機を呼び込める可能性が高まるのだ。

 無論、イースキー艦隊の攻撃をまともに受ける“一夜城”には、相当数の損害とそれに比例した死傷者が出るだろう。だがそれを見越した上で、勝利を掴み取るのが…時には非情とならねばならないのが、軍司令官に求められるものであって、キノッサが身に着けて行くべきものだった。

 ただ一方でサンザーの真骨頂は、自らがパイロットとして戦場へ出る事である。非情な判断の結果を部下や仲間に強いた分、サンザーの闘志は烈火の如く燃え上がるのだ。今も初手から専用機『レイメイFS』を駆り、敵に突っ込んで行く。不意を突かれて怯んだ敵にも容赦はない。

「全機突撃! 敵を擦り潰せ!!」

 そう言うが早いか、狙いを定めて超電磁ライフルを一連射。三機のASGULを一気に仕留めると、残る敵ASGUL中隊は後続の僚機に任せ、おっかなびっくりで立ち向かって来た量産型『ライカ』を、自慢の大型十文字ポジトロンランスで瞬時に串刺し。速度を落とす事無く再びライフルを連射。二機の『ライカ』の機体を撃ち抜いた。ついて来る護衛は僅か五機。後方ではBSI部隊同士が、壮絶な機動戦を展開し始めている。

 現場の指揮は、各隊長に執らせれば良い…サンザーはそして加速を掛け、イースキー艦隊の中心部へと向かって行った………



▶#34につづく
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...