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第5話:ミノネリラ征服
#04
しおりを挟む「問題は、あの艦隊にノヴァルナ公がいるかどうか…だ」
半ば独り言のように言ったイディモスの言葉に、傍らの艦隊参謀が反応する。
「例の人物は現在、ミノネリラ宙域側の艦隊にいるようですが」
「うむ…」
艦隊参謀が口にした“例の人物”とは、先月の“ドボラ宇宙城攻防戦”の直後から、ウォーダ家に出現した正体不明の“仮面の男”の事であった。その名をヴァルミス・ナベラ=ウォーダといい、人前では狐をモチーフにした仮面を被って顔を隠している。
仮面には変声器も仕込まれているらしく、元の声は不明だが、情報部の分析によると、二十代前半の男性の声らしい。
メディアを集めた公式発表の場ではノヴァルナ自ら隣に座り、その出自と合わせて、ヴァルミスの紹介をした。
「こいつはウォーダの傍流の、そのまた支流。いわば“遠い親戚”って奴で、いい才能を持ってるんで、近くに置く事にした。よろしくな」
ノヴァルナ流のぶっきらぼうな発表だったが、詳細については一切明かされず、それでありながら、すぐに前線へ出て、まるでノヴァルナの分身のように部隊指揮を執り始めたため、その正体について、今も数々の憶測が飛び交っている。
そしてその中で最も有力とされているのが、ノヴァルナによる“悪ふざけに近い影武者”説であった。ヴァルミス・ナベラ=ウォーダなる人物など実在せず、その辺にいる誰かに仮面を被せ、時と場合によってノヴァルナ自身が仮面を被って入れ替わっているのではないか、というのだ。
その根拠が、ウォーダ一族を末端まで調査しても、ヴァルミス・ナベラ=ウォーダに該当すると思われる人物がいないこと。同じ仮面を被っていても、僅かに体形が違うケースが複数あること。
さらにその裏付けとされるのが、星大名家嫡流にのみ銀河皇国から付与される、NNLシステムへの限定的制御権を、ヴァルミスが有していることだ。これは宙域統治に直接かかわるものであり、当主以外では親・子・兄弟姉妹といった、ごく近い遺伝子を持つ者にしか、分け与える事が出来ない仕組みとなっている。つまりノヴァルナは自分の都合に合わせて仮面の人物、ヴァルミスを演じているのではないか、という話である。
ではそうまでするノヴァルナの目的はというと、やはり“イチ姫の輿入れ”に、ノヴァルナ自身が護衛についているのかどうかを、惑わせるためであろうというのが、ロッガ家の見方だった。
中身はノヴァルナかもしれない仮面の人物ヴァルミスが、ミノネリラ宙域との国境付近にいるウォーダ艦隊で指揮を執っている…その情報だけでも事実、ロッガ家当主ジョーディー=ロッガは、戦力分散を強いられているのだ。
イディモスが語った、ヴァルミス・ナベラ=ウォーダなる仮面の人物はこの時、ウォーダ軍宇宙艦隊総旗艦『ヒテン』の艦橋にいた。
「全ての艦隊が、所定の位置につきました」
久々に本来の第2戦隊旗艦『ローバルード』に座乗した、ナルガヒルデ=ニーワスが報告を入れて来る。現在の彼等は第1・第3・第4・第7・第8・第10艦隊の六個艦隊が、ミノネリラ宙域内のオウ・ルミル宙域との境界面に展開している。ヴァルミスは『ヒテン』から、この六個艦隊の指揮を執っていた。
「ありがとう、ナルガ。あとはこちらの命令を待ってくれ」
落ち着いた口調で礼を言うヴァルミス。体型的にはノヴァルナと似てはいるが、言葉の物腰は柔らかい。「御意」と応じ通信を終えるナルガヒルデの表情からは、ヴァルミスの正体を知っているかどうかを、推察する事は出来ない。ヴァルミスは艦隊参謀を振り向いて告げる。
「オウ・ルミルの宙域内で、アーザイル艦隊が交戦状態に入ったら、我々もオウ・ルミル内に進出する。ただしロッガ艦隊と戦闘状態になっても、BSI部隊の使用は極力控えるように」
この発言も穏やかなものである。ただこちらの艦隊参謀はナルガヒルデと違い、表情に何処か違和感あった。ヴァルミスの素性に思う所があるのだろう。その証拠というわけではないが、発言の直後のヴァルミスは司令官席で、まるでノヴァルナがするように、行儀悪く姿勢を崩した。
事実、艦隊参謀だけでなく、『ヒテン』の艦橋全体にも違和感が漂っている。これもやはり、突然ウォーダ軍の副将格として出現したヴァルミスに対する、様々な憶測によるものだろう。不謹慎と知りつつ、隣り合った手空きのオペレーターの男女が、ヴァルミスの正体について小声で言葉を交わす。
「ねぇ。どう思う? このヴァルミス様」
「ノヴァルナ様が、仮面被ってるんじゃないか、って事か?」
「ええ。やっぱり、あの喋り方…演技なのかしら?」
「分からないなぁ。ノヴァルナ様は相変わらず、なにを考えておられるか、読めないところが多いし…でも、ニーワス様をナルガ呼びするのは、ノヴァルナ様だけだけどなぁ」
普段から奇行の多かったノヴァルナであるから、身近にいる『ヒテン』の乗員ですら、今この艦橋にいる仮面の人物が、ヴァルミス・ナベラ=ウォーダと名付けられた誰かなのか、ノヴァルナが仮面を被ってヴァルミスを演じているのか、判断がつかないでいる。そうであるから、“イチ姫輿入れ作戦”をノヴァルナが陣頭指揮している事を、ロッガ家は確定できていなかった。
▶#05につづく
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