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第5話:ミノネリラ征服
#03
しおりを挟む皇国暦1562年12月16日早朝、ウォーダ家の“イチ姫輿入れ艦隊”は中立宙域を抜け、ロッガ家の支配するオウ・ルミル宙域へ入った。ここからアーザイル家の勢力圏までは、直線距離でおよそ1000光年。高速の『クォルガルード』型戦闘輸送艦でも二日半はかかる。ロッガ家に動きがあるとすれば、ここから先の話であろう。
艦橋中央に展開した航宙用ホログラムが、『クォルガルード』のオウ・ルミル宙域進入を表示する。それに合わせてオペレーターが報告。
「これよりオウ・ルミル宙域内です」
司令官席に座るノヴァルナは軽く頷いて、落ち着いた口調で命じる。
「全艦、速度上げ。第二種戦闘態勢」
「速度上げ。第二種戦闘態勢」
各部署で復唱の言葉が響き、ノヴァルナは司令官席の背もたれに預けた上体に、艦の加速を僅かに感じた。そこへ通信を入れて来たのが、元『ホロウシュ』筆頭であり、現在は第1艦隊直掩BSI隊『トルーパーズ』隊長の、トゥ・シェイ=マーディンである。マーディンは今回、フェアンの護衛第二隊として、一時的に第1艦隊から異動されていたのだ。
「前衛哨戒隊を発艦させます」
マーディンの言葉に、「おう。頼まぁ」と応じるノヴァルナ。通常なら複数の駆逐艦などを前哨部隊として前方展開させるのだが、中立宙域を航行するために軍艦の護衛はついておらず、代わりに『トルーパーズ』のBSIユニットを、使用しようというわけである。
“次のDFドライヴまで、二時間てところか…”
航宙用ホログラムに表示されている、艦隊の現在位置と予定航路を見詰めて、ノヴァルナは胸の中で呟いた。とりあえず最初のDFドライヴまでに、敵の襲撃がある可能性は低いはずだ。そして航路の情報を、別モニターで幾つかピックアップ。一番襲撃の可能性が高いと思われる箇所を絞り込む。
ジャルミス暗黒星雲―――
オウ・ルミル宙域中央部に広がる、超巨大暗黒星雲ビー・ワン・コーの支流ともいうべき、渦を巻いて長く伸びた暗黒ガスが、まるで絡み合う蛇の群れを思わせ、不吉な印象を与える暗黒星雲であった。迂回コースを取れない事もないが、そうなるとアーザイル家勢力圏まではさらに二日は必要で、危険度は増すばかりとなる。
ただジャルミス暗黒星雲が、BSI部隊の運用に適しているのも確かで、護衛艦隊のいないノヴァルナにとっては、ジャルミスでの襲撃は望むところだ。航宙用ホログラムを見詰めるノヴァルナは、むしろ闘志に双眸を輝かせた。
その二日後となる皇国暦1562年12月18日。ノヴァルナの予想通り、ロッガ家の待ち伏せ部隊は、ジャルミス暗黒星雲の星間ガスが作り出す、雲海の間に潜んでいた。
ただこの暗黒星雲は本当に真っ暗闇というわけではなく、誕生してまだ数億年の若い恒星がいくつか存在し、まるで闇夜を照らす月のように、青白い光を黒い雲間に浮かべている。
戦場の環境としては、この若い恒星達が放つ強烈な電磁波が、宇宙艦の各種センサーの感知精度を低下させ、敵の発見と遠距離での射撃を困難にすると思われる。
その恒星の一つが放つ青白い光の差し込む雲間。上下を広大な暗灰色の雲海に挟まれた空間に、その小艦隊はいた。
六隻の宇宙空母、四隻の巡航戦艦、四隻の重巡航艦、八隻の軽巡航艦、そして二十二隻の駆逐艦、その全てが外殻に黒い艶消し塗装を施し、ロッガ家の所属を示す『四ツ目星団紋』も、僅かに艶のある黒色で塗り分けられたのみである。この黒色艦隊こそが、コーガ星系恒星間打撃艦隊。ロッガ家の特殊BSI部隊“コーガ五十三家”の母艦部隊であった。
“コーガ五十三家”はロッガ家の直臣ではなく、コーガ星系を領有する独立管領である。彼等はおよそ百年前に起きた“オーニン・ノーラ戦役”の直後の一時期、皇国中央と対立状態となったロッガ家が、皇国軍の侵攻を受けた際、マガリア星団で行われた攻防戦、“マガリアの陣”においてロッガ家に味方し、皇国軍を撤退に追いやった。この時の功によってコーガ星系には、莫大な開拓費が贈与され、特に有力な六家にはロッガ家重臣の地位が与えられたのだ。
また戦術としては、BSI部隊による集団戦法・ゲリラ戦法を得意としており、今回のように、イチ姫の拉致を目的とした作戦にはうってつけであった。
五隻の駆逐艦を雁行陣で先行させ、そのあとに続く宇宙空母。両側を四隻の巡航戦艦が護衛するその空母が、コーガ星系恒星間打撃艦隊旗艦『ビエザス・イジャ』である。通常型宇宙空母よりひと回り以上大きく、BSIユニットを九十機搭載可能となっていた。
その艦橋に腕組みをして屹立しているのが、司令官のイディモス=モティガン。四十代前半のヒト種男性で、自身もBSHO『ザンゲツMI』を有し、パイロットの筆頭を務めている。ウォーダ家で言えば、カーナル・サンザー=フォレスタのような位置づけであろう。
「イチ姫のいるウォーダ家艦隊の位置は?」
静かにオペレーターに尋ねるイディモス。答えるオペレーターの声も静かだ。
「あと約ニ十分で、最初の襲撃ポイントです」
▶#04につづく
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