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第5話:ミノネリラ征服
#25
しおりを挟むオルグターツに言われるまでも無く、当然イースキー軍もウォーダ軍へ反撃している。惑星バサラナルム上で、ウォーダ軍の宇宙艦隊への攻撃が可能な火器は、全てが動員されてビームや誘導弾を撃ち上げており、地表でもウォーダ軍の降下部隊と、イースキー軍の地上部隊が激しく砲火を交えていた。
しかしイースキー側は、惑星そのものを守る防衛艦隊が、逃走した一部を除いてすでに降伏。自動兵器の迎撃衛星も失って、制宙・制空権をウォーダ軍に奪われている。こうなるともはや唯一の勝利の可能性は、別の増援部隊が到着し、背後からウォーダ軍を攻撃する事であるが、“ミノネリラ三連星”をはじめとするベテラン武将達は皆、ウォーダ側へ寝返って、自分達の領地の植民星系へ引き籠っており、完全に見捨てられた状況であった。
するとやがてイナヴァーザン城は、『ヒテン』以外のウォーダ戦艦からも、艦砲射撃を受け始める。『ヒテン』の属する第1艦隊の攻撃が、イナヴァーザン城周辺の火器制圧を完了したのだ。城のあるキンカー山に主砲のビームが、光のシャワーのように天から絶え間なく降り注ぎ、それに抗するエネルギーシールドが白く、眩く輝き続ける。現在の城のある位置はバサラナルムの夜の面であったが、天と地の光の奔流で、辺りは昼間のように明るく、上を見れば青空すら広がっていた。
それは遠目に見るとある種、美しさすら覚える光景であったが、城内にいる者からすれば、地獄の窯の蓋が開いたようなものである。僅かでもシールドが破られてしまうと、すべては一気に崩壊し、地下総司令部はともかく、地上部分は溶けてなくなるであろう。
「うわァ! うわはァッ!! だ、誰か何とかしろォ!!」
司令官席にしがみついて狼狽の声を上げるオルグターツ。そこに背後から切迫した声が強い口調で掛かる。筆頭家老のトモス・ハート=ナーガイだった。旗艦を脱出し、隠し通路から戻って来たのである。トモスはオルグターツの親衛隊の隊長を引き連れていた。
「オルグターツ様!」
振り返ったオルグターツの両眼は血走り、顔は蒼白だ。
「ナッ! ナーガイか! 何とかしろ!!」
この期に及んでも他力本願か…と、トモスの眼は諦観するような、そして憐れむような色を帯びた。そして妙に冷めた口調で、武人の誇りも覚悟も無い主君に告げる。
「もはやこれまでにございます。ノヴァルナ公に停戦の申し入れ…いえ、降伏の申し入れを行いましょう…」
「降伏?…降伏だとぉォォォ!!??」
脊髄反射的に“降伏”という言葉に反応して、叫ぶオルグターツ。
「この俺がァ、ノヴァルナなんかにィ、降伏だとォ!!!!」
喚いた勢いそのままにのけ反り、司令官席からずり落ちるという醜態を演じたオルグターツは、起き上がると同時に、怒りに任せてトモスに掴みかかろうとした。それを止めに入ったのは親衛隊長だ。デュバル・ハーヴェン=ティカナックが謀叛を起こし、イナヴァーザン城を一時的に占領した際、オルグターツを隠し通路から逃がしたあの男である。親衛隊長はオルグターツを背後から、半ばねじ伏せるようにして、動きを制した。
「どうぞお鎮まりを、殿!」
「いッてェッ! なにすんだァ!!」
主君としての威厳も無く、もがくオルグターツ。その間にも、イナヴァーザン城へのウォーダ軍の艦砲射撃は続き、彼等のいる地下総司令部は揺れたままだ。そこに響く女性参謀の声。
「エネルギーシールド、負荷率212パーセント。このままでは、あと五分も持ちません!」
「殿下!!」
もはや猶予はない。詰め寄るトモス。だがオルグターツは目線を逸らして、「俺はァ……俺はァ………」と呟くのみ。そんな主君の姿を見てトモスは、“ああ、これも星大名家の滅びの一つか…”と不意に感じた。
威風堂々、自ら敵と相まみえて死するのも星大名の最期なら、家臣と領民達の安堵と引き換えに、自ら死を選ぶのも星大名…その一方で、敗北の意味も知らず、醜態をさらして家を滅ぼしてゆくのも、また星大名なのだろう。
膝を屈したオルグターツに、トモスも身を屈め眼の高さを合わせると、諭すように告げる。もっとも虚ろな眼をオルグターツが、その言葉をちゃんと聞いているかは、分からないが。
「オルグターツ殿下。もはやこれまでにございます。この上はノヴァルナ公のお慈悲を乞い、ミノネリラの支配権は譲渡しても、イースキー家の命脈は保てるよう、わたくしがこの身に替えても取り計らいまする…それで、宜しいですな」
トモス・ハート=ナーガイは、とんだ貧乏くじを引いたものだ…と思った。オルグターツ=イースキーに取り入り、筆頭家老の座を得たのは、佞臣ビーダ=ザイードとラクシャス=ハルマ亡きあとのイースキー家を立て直し、自らも権勢を振るいたいがためであったのだ。それがこのように使えない主君のために、身を挺する事になろうとは…
返事の無いオルグターツを親衛隊長に預け、トモスは通信参謀に、ノヴァルナの乗る総旗艦『ヒテン』との通信を申し入れるよう命じた………
▶#26につづく
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