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第6話:皇国再興への道
#05
しおりを挟む遡ること皇国暦1563年1月10日17時00分―――
宇宙空間へ出たところで、バックパックに取り付けてある、二基の大気圏離脱用重力子ブースターをパージした、BSHO『ライオウXX』と近衛隊の八機の『サキモリCX』の前には、雲霞の如くBSIユニットとASGULがいる。
BSIユニットは、ミョルジ家の新型機『シラツユ』と、同盟軍ウーサー家の『サギリ』、そして皇国軍などで広く使用されている『ミツルギ』。ASGULはミョルジ家とウーサー家が共同開発した『ラシェラム』及び、皇国軍でも採用している『ヴァン・ツー』の混成部隊だ。おそらく五百機以上はいるであろう。さらにその向こうには、空母部隊を伴う、ミョルジ軍の宇宙艦隊の姿もある。
「随分と…丁重な出迎えだな」
テルーザは視界を埋め尽くす敵の大部隊をグルリと見渡し、苦みを含んだ笑みを浮かべた。焦燥や諦めといった表情ではない、達観というべき表情であろうか。通信回線を開いて全周波数帯モードに切り替え、ミョルジ艦隊へ呼び掛ける。
「星帥皇テルーザ・シスラウェラ=アスルーガである。ミョルジ家の総大将はおるか? おるなら今回の暴挙を行うにあたり、まず口上を述べよ」
しかしスピーカーは何も言わず。その代わり接敵センサーが、敵の包囲陣の一部に接近の動きが始まった事を示す。それに合わせ、星帥皇を守る近衛隊の『サキモリCX』が、『ライオウXX』の前面へ展開する。
「話も通じんとは、無粋なもんだな…」
苦笑いを大きくしたテルーザは、軽く指を動かしておいて、『ライオウXX』の操縦桿を握り直した。
次の瞬間、接近しつつあった敵BSI部隊が一気に加速をかける。数は七十ほどだ。親衛隊仕様機も幾つか混じっていた。これに対しテルーザを守る八機の『サキモリCX』が、一斉に超電磁ライフルを放つ。
かつては三個中隊三十六機あった近衛隊の『サキモリCX』だが、七年前に星帥皇室がミョルジ家と“和解”し、その事実上の庇護下に入った際、典礼用に八機を残して、すべて廃棄処分されてしまっていた。そのため正確無比な射撃で二機、三機と敵を撃破しても、半数以上が接近戦の間合いまで距離を詰めて来る。四十機ほど残った敵のBSIユニットは、ポジトロンパイクを手にして、テルーザの近衛隊との近接格闘戦に入った。
一方テルーザの『ライオウXX』の方へは、敵部隊から新たな部隊が向かい始めている。簡易型BSIユニットのASGULを主体に三百機ほど。一人の相手にしては過剰なほどの数字に思える。だが、それだけの数で当たらねばならないほどの実力を、テルーザと『ライオウXX』は備えているという事だった。
敵の先手部隊と近衛隊の交戦区域を、回り込むようにして接近して来る大部隊を解析したテルーザは、敵の大半―――ほぼ全てのASGULが、音声通信ではなく暗号データ通信のみで交信しているのを知り、AI制御の無人機だと理解する。
“なるほど、正しい判断ではあるな…”
星帥皇の命を奪うために、AI制御の無人機を差し向けて来る…ある意味、戦国武将として不遜極まりない行為だ。しかし無駄に兵員の損耗を避けるという点で、ミョルジ家の判断は正しいと言える。なぜなら七年前の第一次キヨウ侵攻の際にテルーザは、『ライオウXX』単機で軽巡3、駆逐艦5、BSIなどの艦載機47という驚異的な戦果を挙げており、しかもまだ余力を残していたからである。
「ただ…無人機相手ならば、こちらも遠慮は無用というもの」
そう言ってテルーザは左脇のコンソールパネルを指先で操作し、操縦桿と一体化したように取り付けられた、小さなレバーを指先で前へ倒した。するとコクピットを包む全周囲モニターに“AES起動”の文字が表示され、三枚、四枚と小ぶりなホログラムスクリーンが新たに立ち上がる。それと同時に『ライオウXX』のバックパック両側が開き、七つの金属球体が射出された。『ライオウXX』を中心に、円を描いて回転を始めるそれは、七年前の戦いでも大きな戦果を得た、オプション兵器のAES(アサルト・エクステンデッド・システム)である。
テルーザの『ライオウXX』から射出された金属球体は、直径がおよそ三メートル。その三分の一が赤い透明金属でできており、三十二基の小型ビーム集束機が円形に並んでいる。それぞれが『ライオウXX』から遠隔操作され、攻防両方に利用できるオプション兵器であった。
ただしその消費エネルギーは膨大であり、『ライオウXX』だけでは賄えず、エネルギーの転送供給機能を持つ大型艦などが随伴する必要がある。今回の場合は宇宙艦ではなく、眼下の皇都惑星キヨウの星帥皇室行政府、『ゴーショ・ウルム』から供給を受けており、出力は最高レベルとなっていた。
またこのエネルギー転送技術は例の“フォルクェ=ザマの戦い”において、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラのBSHO『サモンジSV』が運用した、超空間狙撃砲『ディメンション・ストライカー』にも転用されたものである。
ノヴァルナが現在使用している『D‐ストライカー:サモンジ』は、威力と射程の低下と引き換えに取り回しの良さを優先させるため、このエネルギー供給を転送ではなく、エネルギーを充填したパックの交換方式に変更されている。
回転を始めた七基の金属球体―――AESライナーが機体前方へ、薙ぎ払うように赤いビームを発射する。円錐状のビーム弾幕によって、三十近い閃光が一斉に瞬き、AI制御のASGULが粉微塵に砕け散った。残る敵機群は素早く散開。その直後、敵BSI部隊の背後にいたミョルジ家の重巡航艦と思しき宇宙艦が、『ライオウXX』を主砲で狙撃して来た。これをまともに喰らえば、いかに『ライオウXX』であってもひとたまりもない。
しかし一瞬早く、七基のAESライナーは回転したまま『ライオウXX』の前方へ飛び出し、描く円の直径を大きくする。そして透明箇所の向きを内側に変えて、ビームを広範囲放射で放った。するとそれはビームシールドと化して、敵艦からの主婦射撃を受け止める。
さらに次の瞬間、全てのAESライナーは向きを196度変え、最大出力でビームを発射した。遠方で焦点が合わさり、一本の太いビームとなったそれは、重巡航艦のアクティブシールドを貫いて、艦の舷側で爆発を起こす。
「デモンストレーションは、これぐらいでいいだろう…」
落ち着き払って呟いたテルーザは、操縦桿を引いた。ここまではAESしか動いておらず、『ライオウXX』自体は微動だにしていない。加速を掛けた『ライオウXX』は瞬時に敵機群の中心まで移動し、連装超電磁ライフルを放った。
テルーザの銃撃を受けたのはASGULではなく、親衛隊仕様『シラツユEG』だった。多数のAI制御ASGULに紛れて、『ライオウXX』との距離を詰めようとしていたのであるが、テルーザには通用しない。ASGULへの対処はAESに任せて、一番の脅威となり得る親衛隊仕様機を次々と狙撃していく。無論、敵のASGULも無数のビームや誘導弾を撃って来るが、『ライオウXX』の神懸かった回避運動と、必要に応じ個々に扇状のエネルギーシールドを展開する、AESライナーの防御に、命中弾を得る事ができない。
ただ敵の数はまだ途方もなく多い。しかもセンサーの解析情報によれば、後方に控えていたミョルジ家の空母部隊から、新たな艦載機部隊が発艦を開始したようである。第二陣がいたのだ。量産型BSIが主体となっていると思われる事から、こちらが本隊らしい。テルーザは視線を鋭くして独り言ちた。
「ふ…今のは前座、これからが本番という事か」
▶#06につづく
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