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第6話:皇国再興への道
#14
しおりを挟むキノッサがハーヴェンの住居に毎日訪れるようになった頃、彼等がいるのと同じエテューゼ宙域の中心部でも、動いている者達があった。戦死した前星帥皇テルーザの実の弟ジョシュア・キーラレイ=アスルーガを、ミョルジ家の手から逃した星帥皇室直属の家臣達が、エテューゼ宙域の領主ウィンゲート=アザン・グランのもとを訪れていたのである。
アザン・グラン家の本拠地は、ファンク・イー星系第五惑星イージョン・ダニーにあった。
ファンク・イーはヤヴァルト銀河皇国の中でも、初期に開拓された植民星系で、十五億人の人口を抱えた第五惑星イージョン・ダニーは、“エテューゼ宙域のキヨウ”と呼ばれるほど栄えている。
またアザン・グラン家自体も、イマーガラ家などと同じく貴族の家系で宙域総督が星大名化したものであった。国力的にも高く、そのため他宙域への侵攻による領域拡張はほとんど行わない。ただ隣接するワクサー宙域やカガン宙域の敵対勢力に対しては、攻勢に出る場合がある。
アザン・グラン家当主、ウィンゲートの居城イージョン・ダニー城は、首都トノイの北側にある峡谷を塞ぐような形で建造されていた。城を要に扇状に広がったトノイの市街地は、高層建築が立ち並び、まさに皇都惑星キヨウを彷彿とさせる。
少人数用の第二謁見室に通された旧星帥皇室幕臣は、フジッガ・ユーサ=ホルソミカとその異母兄のトーエル=ミッドベル。“コーガ五十三家”でロッガ家から離反したコレット=ワッダー。そして幕臣ではないが、フジッガの友人でミノネリラの浪人ミディルツ・ヒュウム=アルケティの四人。
対するウィンゲートは四十五歳で、黒髪で肌は色白、目尻の下がったのっぺり顔の男だった。着衣は貴族趣味に走って豪華、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラと通じるものを感じさせる。
そのウィンゲートは玉座に座り、難しい顔をして指先で顎を撫でていた。印象よりやや甲高い声で、来訪者達に口を開いた。
「…貴殿らの訴えは、我もよう分かっておる。しかしなぁ、今はカガンのイーゴン教徒どもから、この宙域を防衛せねばならん時。ここは待ってもらわねば」
フジッガ達がウィンゲートに訴え出ているのは、ジョシュア・キーラレイ=アスルーガを正統な星帥皇として擁し、皇都キヨウへの上洛軍を起こす事であった。だがそれに対するウィンゲートの反応は薄く、これまでに何度も訴えたものの、のらりくらりと躱されているのが現状だ。
エテューゼ宙域に隣接するカガン宙域は、今から二十年ほど前に、武装蜂起した新興宗教のイーゴン教徒達によって、星大名のトーガス家当主が追放され、現在はいわゆる“イーゴン衆の持ちたる国”となっている。
政治体制はこの時代のヤヴァルト銀河皇国には珍しく、議会制民主主義をとっていたが、かつてノヴァルナが批判したように、宙域内の一般領民に議員立候補権もなければ、イーゴン教に入信していない者には選挙権もないという、極端な偏りを見せていた。
さらにカガン宙域は徴兵制を敷いており、アザン・グラン家の統治するエテューゼ宙域、ウェルズーギ家の統治するエティル・ゴア宙域へ、民主主義革命を促すためと称して軍事侵攻を繰り返している。民主主義イコール平和主義という意味ではないのを示す一端だ。
このような状況であるから、ウィンゲート=アザン・グランが上洛軍の編制を渋るのも、尤もであるとは言えた。ただこれは明らかに“言い訳”だ。アザン・グラン家は国力に見合うだけの強大な軍事力を保有しており、宙域の防衛戦力を残して上洛軍を編制出来ない事は無い。
また新星帥皇エルヴィスとミョルジ家に対して、皇国星大名の大半が批判的であるのだから、例えばウェルズーギ家と協力し合えば、ウェルズーギ家がカガン宙域のイーゴン教徒軍を牽制する事で、上洛軍の戦力を上乗せする事も可能なはずだ。
それでありながらウィンゲートの腰が重いのは、国力が豊かであるがゆえの、現状維持を好むアザン・グラン家の家風と、当主ウィンゲートの保守的な性格が大きい。またやはり、エルヴィスとミョルジ家にNNLの統括権と、超空間ゲートの制御権を握られているのも、二の足を踏んでいる要因だった。
フジッガはウィンゲートの性格も理解した上で、さらに説得を続ける。
「ご懸念は理解致しますが、ウェルズーギ家のケイン・ディン様は、“正義の守護者”を標榜されており、ジョシュア様の正統性を示して説得に当たれば、必ずやお力添え頂けるでしょう」
「それはそうかも知れぬが…必ずと、言い切れるものでもあるまい」
首を捻りながら応じるウィンゲートに、フジッガの友人のミディルツも、上洛軍進発の時期が今であると訴えた。
「進発が遅れれば遅れるほど、ミョルジ家の支配体制が整ってしまいます。それで皇国の秩序が安定すれば良いでしょうが、彼等の支配体制は戦乱状態を放置して、各宙域の国力を低く抑えておく事…いわば戦国の維持であって、終息ではありません。これを打開できるのは、ウィンゲート様のアザン・グラン家を置いて、他にありません」
ミディルツの分析したところ、ミョルジ家の目的はヤヴァルト宙域やセッツー宙域、カウ・アーチ宙域といった自分達とその従属者の勢力圏のみの国力を高め、あとは戦乱状態を放置して、国力を上げさせない事にあると見ていた。
おそらく最終的には、NNLの統括権と超空間ゲートの制御権を人質にし、ミョルジ家に忠誠を誓って、支配下となる事を受け入れた星大名のみが、NNLや超空間ゲートの使用を許されるようになるだろう。そうなってしまうと、巻き返しはかなり難しくなってしまう。ミョルジ家側の体制が完全に整ってしまう前に、上級貴族と図ってジョシュアにも星帥皇の資格を与え、エルヴィスとミョルジ家による銀河皇国の独占支配を崩さなければならない。
だがウィンゲートには、そこまでの覚悟は無いようであった。エテューゼ宙域の地政学的有利さを恃んで、考え方の端々に“どうにかなる”という、ある意味楽観的展望が見え隠れしているのだ。
「アルケティ殿の言は我も正しいとは思う。しかしここは慎重にも、慎重を重ねて動くべきであろう。下手に早まって、ジョシュア様にもしもの事があれば、取り返しのつかぬ事になりかねんからな」
そう言うウィンゲートは、おそらく出兵そのものには、反対ではないのだろう。そのはずである。もしジョシュアの上洛が成功すれば、功績による銀河皇国でのアザン・グラン家の地位は、一気に高まるからだ。ただその根幹をなすのは、先に述べた国力を恃んでの、“どうにかなる”という慎重さと楽観の入り混じったものである。
しかしそれでは遅いのだ…とミディルツは思う。“兵は拙速を尊ぶ”とは、なにも戦場での戦い方だけの至言ではない。どのような物事にもタイミングを見極めるのが、重要となるのだ。
その後もフジッガ達の交渉は続いたが、双方の思いは平行線のままで、今回も不調に終わる事となった。ただし一応は、今後も妥協点を見つけるべく、会談を行っていくという確約はウィンゲートから得ている。
イージョン・ダニー城から引き上げる車の中で、後部座席に座るミディルツは、隣に座るフジッガに告げた。
「フジッガ殿」
「なんであろうか?」
「私はこれから、ミノネリラ宙域へ向かおうと思う」
決意を込めた眼で言うミディルツに、フジッガは眉をひそめる。
「ミノネリラ…故郷に、帰られるつもりか?」
「心配なさるな。卿らを見捨てはせぬよ」
探るような表情で「では?」と尋ねるフジッガ。ミディルツはかねてから頭の中にあった、人物の顔を思い浮かべながら応じた。
「一度、ノヴァルナ様にお目通りを願う」
▶#15につづく
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