銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第6話:皇国再興への道

#15

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 話は惑星リケに戻ってトゥ・キーツ=キノッサ。この男がデュバル・ハーヴェン=ティカナックの住居を日参するようになって、一週間が過ぎている。

 人の懐に入るのが特技と言ってもいいキノッサは、ハーヴェンがその日の自分の体調を計るのを兼ねて日課としている、朝の林の散策から帰る時間を見計らって、それより僅かに早く来訪。二人の連れと共に、ハーヴェンの子供デュカードをあやしながら、待っているという毎日を繰り返していた。
 しかもハーヴェンが帰って来ても、するのはウォーダ家への勧誘ではなく、戦術論・戦略論から今の銀河皇国に関する世間話ばかり。そのうえどちらかと言うと、意見を述べ合うのではなく、ハーヴェンの見識に教えを乞う構図となっている。

 そして今朝もキノッサはカズージ、ホーリオと並んで、ハーヴェンからカガン宙域のイーゴン教徒と、総本山であるイシャー・ホーガンとの関係について、話を聞いていた。

「…なるほど、カガンの民主政府はイシャー・ホーガンと無関係を装って、実際は裏で繋がっている、というわけですな」

 何度も頷きながら感心した様子を見せるキノッサに、ハーヴェンは四人の真ん中に展開した、小振りなホログラムスクリーンに幾つかのグラフを映し出して、自分の所見の続きを説く。

「そうです。カガンのGDPからすれば、国家予算はもっとあっていいはず。それがこの程度でしかないとなると、かなりの額がオ・ザーカ星系へ流れていると、考えていいでしょう」

 オ・ザーカ星系はセッツー宙域内にあって、イーゴン教総本山のイシャー・ホーガンを有する自治星系であった。ただ同じ自治星系のザーカ・イーのように、星系自体の産業経済力は高くない。となると各宙域の信徒からの寄進が、予算編成の要となって来る。中でも信徒が直接統治するカガン宙域からの“寄進”は、莫大な額になるはずだ。ハーヴェンはさらに言葉を続ける。

「それほどまでに主要な財源であるなら、カガンの政府自体もイシャー・ホーガンの指示で動いていると、考えるべきでしょうね」

「つまり傀儡政権ですか?」とキノッサ。

「傀儡と言うより、代理政権でしょう。信徒が統治している事には、変わりありませんから」

「しかしそう考えると、イーゴン教もまた思い切ったものですな。幾ら領主のトーガス家が弱体化していたとはいえ、宙域そのものを奪い取るとは」

「もしかするとカガンの占領は、今後イシャー・ホーガンが宙域統治を行う際の、モデルケースにするためかも知れません」

 ハーヴェンが事も無げに言うと、キノッサの双眸はギラリと光った。
 
 イーゴン教はこれまでにも何度か述べたように、古来からある宗教ではなく、ヤヴァルト皇国が銀河に進出する頃から確立された、新興の宗教である。
 ただその信仰は古来からある一神教や多神教などのように、神というものを信仰するものではなく、宇宙真理の探求が教義となっており、そのために科学の発展を第一としていた。

「モデルケースという事は、いずれは他の宙域も信徒達に統治させ、さらにそれを背後から支配するのが、イシャー・ホーガンの真の目的って事ですか?」

 真剣な眼差しでキノッサが問うと、ハーヴェンはゆっくりと頷いて応じる。

「科学のさらなる発展を望む彼等にとって、その停滞が続く現在の皇国の状況は、受け入れ難いのです。特に今は戦乱の世。“オーニン・ノーラ戦役”以来このおよそ百年、皇国の科学技術は大した進歩も無いまま。イシャー・ホーガンが自らの手で、この状況を打開しようと動き出していても、おかしくはありますまい」

 ハーヴェンの解説に、キノッサはカズージとホーリオの二人と視線を交わし、僅かに身を乗り出してハーヴェンに尋ねた。

「しかしです、ハーヴェン殿。我等ウォーダ家が入手している情報では、イーゴン教は『アクレイド傭兵団』とも繋がりがあるとなっています。その『アクレイド傭兵団』は、戦乱を長引かせようとしているミョルジ家と、協力関係にある…お話が矛盾しておりませんか?」

 ハーヴェンはそれも承知の上で、意見を述べようとする。

「一見矛盾しているような関係も、裏側を知れば理解できるものです―――」

 ところがここでキノッサは「なるほどそうですな」と言って、ソファーから立ち上がった。それに従いカズージとホーリオも立ち上がる。話を続けようとしたハーヴェンだったが、席を立たれたのでは口をつぐまざるを得ない。

「いや。今日も有意義なお話を伺いました。ありがとうございました」

「いえ。なんのもてなしもせず」

 頭を下げるキノッサは達に、ハーヴェンも立ち上がって軽く会釈する。そして応接室を出ようとしたところで、ハーヴェンの妻のエルナと鉢合わせした。エルナは手焼きのクッキーを盛ったトレーを両手で支えている。

「これはエルナ様」

「あら、もうお帰りですの?」

「はい。すっかり長居してしまいまして、申し訳ございません」

「残念ですわ。ちょうどクッキーが焼けたところですのに」

 すっかり気を許した様子でエルナは告げた。するとキノッサは持ち前の人懐っこい笑顔で言う。これもキノッサの巧妙さだ。

「それでは遠慮のない話ですが、包んで頂けますか? ホテルに持ち帰って三人で頂きたく思いますので」



 キノッサ達がホテルへ帰ると、住居の中は静かなものである。これも今や、この一週間の日常となっていた。キノッサ達を見送ったハーヴェンは応接室へ戻り、付けっぱなしであったホログラムスクリーンを停止させると、ふと苦笑いを軽く浮かべた。話し足りない自分を感じ取ったからだ。

 今しがたのキノッサを思い返し、ハーヴェンは“なるほど不思議な御仁だ…”と、納得した。おそらく計算高い面と純粋な面の両方が、嘘偽りなく同時に存在しているのだろう。呼んでもいないのに毎朝訪れはするが、嫌な気分にはならない。むしろその逆で、話を始めるとこちらから語り続けたくなる。こちらがどんな事を話しても、興味深そうに目を輝かせて聞き入ってくれるのである。つまりは話し甲斐のある相手という事だった。そうであるから、“もう来るな”とは言えない自分がいるのだ。

 そんな思いでいるハーヴェンのところへ、妻のエルナがやって来た。キノッサ達に出していたコーヒーの片付けるためだ。ハーヴェンは片付けを手伝いながら、半ば独白のように告げる。

「困ったものだ…」

「何がですか?」

 静かに問い掛けるエルナ。陶器のカップが、カチャリと軽く音を響かせる。

「ん?…うん」

 返事を濁したハーヴェンだったが、エルナは良人の心情を正確に見抜いていた。

「あなた…」

「ん?」

「ご自分のお心に、従って下さい」

「!?…」

「私はミノネリラの武将、モリナール=アンドアの娘です。これでも武人の気持ちは、解しているつもりです」

「エルナ…」

「父は今でも私や母のために、ドゥ・ザン様を裏切らねばならなかった事を、後悔しております。あなたには父と同じ思いを、して欲しくはありません」

 そう言ってエルナは目を伏せる。彼女が口にしたのは七年前に起きた、ドゥ・ザン=サイドゥと嫡男ギルターツの争いについてだ。あの時は“ミノネリラ三連星”をはじめとした、ドゥ・ザンの武将の大半がギルターツによって、本拠地惑星バサラナルムに置いていた妻子を人質にされ、寝返らざるを得なかったのだ。
 アンドアはノヴァルナがミ・ガーワ宙域の、ミズンノッド家救援に出兵する際、惑星ラゴンの防衛を任されるほど、ドゥ・ザンから信頼されていただけに、寝返った事を今でも人一倍気に病んでいたのである。
 それを知るエルナは、余命を隠居として家族と暮らそうとしている夫が、武人としての本意を隠したまま、生涯を閉じてしまうのを惜しんだのだ。少しの間を置いたハーヴェンは、穏やかな微笑みを妻に向けて礼を言った。

「ありがとう、エルナ」



▶#16につづく
 
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