銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第6話:皇国再興への道

#16

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 そして翌日。キノッサ達の日参が始まって九日目。この日の朝もオートタクシーを飛ばして、三人は朝からハーヴェンの住居を訪れた。しかしこの日、キノッサ達が到着すると、ハーヴェンは林の散策に出掛けておらず、応接室で三人を待ち受けていたのだった。玄関で応対に出たエルナが、にこやかさの中にも真剣な眼差しを交えて出迎える。

「本日もよくお出で下さいました。今朝は主人の方から待っておりますので、応接室へどうぞ」

 ハーヴェンの方から待っているという言葉もだが、それ以上に出迎えのエルナの纏う空気感から、これは今までと違うぞ…と感じ取ったキノッサだが、あえてこれまで通りの愛想の良さを通す。

「そうですか。では遠慮なく、お邪魔させて頂きます」

 礼を述べて応接室へ向かうキノッサ達。扉をノックし、ハーヴェンが中から「どうぞ」と応じると、キノッサは緊張を解くため軽く咳払いをして扉を開ける。同時に明るい声で挨拶の言葉を発した。

「おはようございます!」

「おはようございます。さぁどうぞ」

 立ち上がってソファーを勧めるハーヴェンに頭を下げ、キノッサ達は向かい側に腰を下ろす。先に口を開いたのはキノッサだ。

「今朝はお出かけに、ならなかったのですな」

「はい。雨になりそうでしたので」

 と言うものの、応接室の窓から見える空は薄曇りではあっても、雨が降りそうには見えない。しかしキノッサはツッコミは無用と思い、「なるほど」とハーヴェンに同調した。するといつも通りの時間にキノッサ達が来ると思い、すでに用意してあったらしい人数分のコーヒーが、エルナの手で運ばれて来る。

「いやぁ。それにしてもここは気候の穏やかな、いい場所ですなぁ」

「今の季節が一番いいそうです。ただ冬は、かなりの降雪量になるとか」

「そうですか。今年はあまり、厳しくならないといいですな」

 エルナがコーヒーの注がれたカップを各人の前に置く間、キノッサとハーヴェンは、当たり障りのない会話をしていた。だがそれを終えたエルナが応接室を退出すると、ハーヴェンは真剣な眼差しをキノッサに向ける。それを見てキノッサも口元を引き締めて、心の中で身構えた。

「さて…そろそろ結論を出すべきだと、考えるのですが」

 そう切り出すハーヴェンに、キノッサもごく自然な感じで、「そうですな」と応じる。初日に断られて以来、戦術論や戦略論、そして世間話ばかりして来たが、キノッサの目的はハーヴェンをウォーダ家へ、スカウトする事は変わっていない。
 
「まずはじめに申し上げると、キノッサ様は小狡こずるいお方ですね」

 いきなりハーヴェンから、批判的な言葉を投げかけられるキノッサ。しかしこれを聞いたキノッサは、気分を害するふうもなく、むしろ誉め言葉を貰ったかのような顔で、照れ臭そうに「いやぁ~」と言いながら手指で頭を掻いた。ハーヴェンはさらに述べる。

「毎朝訪れては、私の話を聞く…それは私自身に、世俗への未練を植え付け、より大きくするためのものでありましょう」

 そう言われて、キノッサは隠し立てせず「はい」と応じ、素直に頷いた。

「ハーヴェン殿は総大将と言うより、総大将に知恵や戦略を授ける軍師型の方とお見受けしました。そのような方ならば、教えを乞いに来た者は、放ってはおけないはず…そしてそれはハーヴェン殿ご自身に、誰かへ知恵や戦略を与える事を、喜びに感じる気持ちを呼び起こすきっかけになる。こう考えた次第です」

 この辺りがキノッサの巧妙なところだ。初対面でハーヴェンという人物は押しては動かず、引いた方が動いて来ると感じ取ったキノッサは、世間話と言う形でハーヴェン宅を日参するようになり、説得ではなく話を聞く事にした。
 事実これには効果が現れた。毎日キノッサとその従者に、自分の知識を開陳していくうちに、ハーヴェンは自分から知識を与える事を望むようになったのだ。

 それにホーリオが言った、“本当に世捨て人なら、世情には興味も無いはず”という、ハーヴェン評も関係がある。健康上の理由もあろうが、まだ若くして隠居生活を送らねばならないハーヴェンの意識の根底には、いまだ自分が武人として為したい事が他にあるのを示唆していた。キノッサが足しげく毎日訪問して話を聞いていたのは、ハーヴェンにあらためて、自分の本心と向き合わさせるためであったのである。

 ただ無論、このやり方にはトゥ・キーツ=キノッサという若者の、人柄が何より重要な要素となっていた。
 嫡男はすっかり懐き、妻も気を許したキノッサであるから、ハーヴェンも不思議とキノッサ達の日参を拒むという選択をしなかったのだ。そして話を聞き始めるとキノッサは熱心に聞くだけでなく、驚くほどこちらの言っている事を吸収した。つまり“教え甲斐のある生徒”というわけである。

 そして昨日、キノッサに話を途中で切り上げられた時、一種の物足りなさに囚われたハーヴェンは気付いたのであった。


この方には、まだまだ伸びしろがある………と。




▶#17につづく
 
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