銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第6話:皇国再興への道

#19

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 その後、キノッサを下がらせてハーヴェンと二人だけになると、ノヴァルナは穏やかな表情でハーヴェンに声を掛けた。

「キノッサの野郎を、面倒見てやってくれ。宜しく頼まぁ」

 ハーヴェンは「はい」と応じながら、あらためてノヴァルナという若者を、観察してみる。自分より僅かに年上…女性的な顔立ちも自分と近いが、眼つきの鋭さは格段に違う。ただその眼つきの鋭さは、意志の硬さに根差したものであるらしく、攻撃的な性格を示しているものではないように思われる。

「まぁ…俺も最初から、おまえをキノッサの与力にするつもりだったが、おまえの方から同じ話を持って来たんなら、手っ取り早くて助かるってもんさ」

「そうでしたか」

 これを聞いてハーヴェンは安堵した。ノヴァルナの方でも同様の考えを持って、自分をキノッサの与力にしようとしていた事が知れたからだ。今しがたはキノッサに怒って見せたが、おそらくノヴァルナにすればこうなる事も、織り込み済みだったに違いない。

「ノヴァルナ様はキノッサ様を殊更高く、ご評価されているようですね」

 ハーヴェンがそう尋ねると、ノヴァルナは苦笑いしながら肯定した。

「あのヤローには、ぜってー言うなよ。すぐ図に乗りやがるからな」

 そう前置きして、言葉を続けるノヴァルナ。

「アイツはまぁ、俺の切り札みてぇなもんだ」

「切り札…に、ございますか?」

 ハーヴェンの問いにノヴァルナは、不敵な笑みで言い放った。

「ああ。アイツはな、最後に俺を殺しに来るヤツだからな」

「!!!!」

 思いも寄らぬ理由。それはまさにキノッサがハーヴェンに明かした、ノヴァルナに対する覚悟そのものである。それと同じ言葉が、ノヴァルナ自身の口から出た事に、さしものハーヴェンも度肝を抜かれた。珍しく心の動揺を隠して、取り繕うように言う。

「そのようなご冗談を…」

 しかしノヴァルナは、「冗談じゃないさ」とハーヴェンの発言を遮り、不敵な笑みのまま告げた。

「アイツは俺が、“頭の上がらない相手”でいる限りは、自分の野心を剥き出しにするより、俺に忠義を尽くすだろうって事だ。逆に言やぁ俺はアイツにとって、常に“頭の上がらない相手”で、居続けなきゃなんないって寸法だ」

 ほう…と言いながらもハーヴェンは、背筋に冷たいものが流れるのを感じる。ノヴァルナはキノッサの秘めた野心など、とうに承知しており、その上で重用しているのだと知ったからだ。つまりかつてのダイ・ゼン=サーガイや、クラード=トゥズークのようにいつ“獅子身中の虫”となるか分からないキノッサを、あえて身近に置いて、自分自身に緊張感を持たせている事になる。このような真似は、将として余程の器量が無いと出来ないだろう。
 
“これは…私はノヴァルナ公の器量を、過小評価していたのかも知れない…”

 ハーヴェンがそう思っていたところに、ノヴァルナは可笑しそうに言う。

「あのヤロウなぁ、俺に噓つくんだぜ」

「嘘…ですか。ご主君に?」

 「おう」と応じたノヴァルナは以前、ミノネリラ宙域を攻略する際にキノッサに命じた、周辺星系の独立管領達への寝返り工作で、キノッサを試した時の事を口にした。例の寝返りを申し出たウネマー星系の領主、ジローザ=オルサーを処刑するよう、説得にあたったキノッサ自身に命じるという、ノヴァルナが理不尽な行動を取った件である。

 自分の信念と忠誠心の板挟みになって、心理的に追い詰められた結果、キノッサは主君からの納得のいかない命令に対し、オルサーを故意に逃がしておいて、自分のミスで逃げられてしまったと、ノヴァルナへ報告して来たのだ。明らかに厳罰ものの、主君への背信行為であった。

「それはまた…さぞかし厳しく、罰せられたのでしょう?」

 ハーヴェンが慎重に尋ねる。ところがノヴァルナの反応は思いのほか適当だ。

「えーと…何日間か、謹慎させたっけかな。あんま憶えてねーや」

「些か軽いように、思われますが…」

「そりゃまぁ、あのヤローが最終的にどう動くか、試しただけの話だからな。性格診断テストみたいなもんだ」

「面白い事をなさるのですね。ノヴァルナ様は」

 ハーヴェンが興味深そうな眼で言うと、ノヴァルナは「ふふん」と鼻を鳴らして応じた。

「いろんなヤツが部下にいた方が、おもしれーからな」

 これを聞いてハーヴェンは、やはりノヴァルナは凡百の星大名とは、違うのだ…と感じる。二宙域を支配する大身ともなると、重臣であっても、つい自分が扱い易い人間で固めてしまいがちである。それをノヴァルナはキノッサのような、面従腹背の危険性を内包した人間など、些か個性の強すぎる家臣も揃える気でいるのだ。

 するとそこへ通信機が呼出音を鳴らし、ノヴァルナの間近に、小ぶりな通信ホログラムスクリーンが立ち上がった。ノヴァルナが指を触れさせると、副官のラン・マリュウ=フォレスタの顔が映し出される。

「ノヴァルナ様、よろしいでしょうか」

「おう」

「警備部より連絡がありまして、城の正門に訪問者があり、ノヴァルナ様へお目通りを願い出ているようです」

 このような連絡が警備部から入るという事は、身分の低くない誰かがアポイントメント無しに、ノヴァルナへの面会を求めていることを示していた。ノヴァルナはスクリーンの隅に表示されている、21:32の時刻表示に眼を遣ってランに尋ねる。

「訪問者? 誰だ?」

 そしてランの答えに眉をひそめた。

「ミノネリラの浪人、ミディルツ・ヒュウム=アルケティを名乗っております」




▶#20につづく
 
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