銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

文字の大きさ
168 / 526
第6話:皇国再興への道

#20

しおりを挟む
 
「なに?…ミディルツ・ヒュウム=アルケティだと?」

 問い直すノヴァルナの眼が、それまでのハーヴェンとの会話で見せていた、穏やかなものから一転してギラリと輝く。
 ミディルツと初めて逢ったのは八年前、通信スクリーンとヘルメット越しの、短い時間のやり取りではあったが、非常に理性的・知性的な印象の男であった。今回の訪問はそれ以来となるが、そのような男がアポイントメントもなしに訪れるには些か時間が遅く、翌日にすべきだろう。

 ノヴァルナの問いに通信ホログラムスクリーンの中のランは、「はい」とだけ答える。そんな彼女の視線は、ハーヴェンの方を向いていた。意を察したノヴァルナは、ランに命じる。

「構わん、ラン。アルケティの用件を言え」

 主君の許可を得て僅かに背筋を伸ばし、ミディルツの言葉を伝えるラン。

「は! 前星帥皇テルーザ・シスラウェラ=アスルーガ陛下の弟君、ジョシュア・キーラレイ=アスルーガ様の特使として、ノヴァルナ様にお会いしたいとの事に、ございます」

「!!??」

 テルーザの弟ジョシュアの特使…さすがにこれは、ノヴァルナにとっても予想外の話であった。反射的にハーヴェンと顔を見合わせ、同時に“こいつは簡単な話なんかじゃねーぞ…”と警戒感を露わにする。

「わかった。ここへ通せ」

 表情を引き締めてノヴァルナが命じると、向かい側に座っていたハーヴェンが席を立とうとした。

「では私は、これにて…」

 しかしノヴァルナは、軽く右手を掲げてそれを制する。

「いや。丁度いい、お前も同席してくれ。あとで意見を聞きたい」

「宜しいのでございますか? 私はまだ新参者にて…察するところ機密情報と成り得る、かなり重要な案件であると思われますが」

 ハーヴェンもジョシュアの名前が出た事で、“これは只事ではない”と感じ取ったのであろう。常識的に考えるなら、キノッサの家臣…つまりノヴァルナにとっては直臣じきしんではなく陪臣ばいしんで、しかも今日、正式にウォーダ家へ参加したばかりの人間が、居ていい場所ではない。ところがノヴァルナは、いい意味でそういった事には無頓着だった。

「こまけー事は気にすんな!」

 あっけらかんと言い放って、不敵な笑みで続ける。

「百年前から居ようが、さっき入ろうが、俺の家臣に変わりはねーよ」

 これを聞いて思わず微笑むハーヴェン。おそらくこういったノヴァルナの些細な言動が、キノッサをはじめとする家臣団の心を惹きつけて止まないのだろう。
 
 それから十分ほどして、入念なボディチェックを終えたミディルツが、ランに案内されてノヴァルナの執務室を訪れた。

 ミディルツ・ヒュウム=アルケティは、皇国暦1530年生まれの今年で三十三歳。ノヴァルナより八歳年上のヒト種であり、細い眉と切れ長の眼が色白の顔と相まって、剃刀のような印象を与える。
 アルケティ家は、元はミノネリラ宙域のカーニア星系を領有する独立管領で、旧領主のトキ家の支流にあたる。かつてドゥ・ザン=サイドゥが、主筋のトキ家をミノネリラ宙域から放逐して支配権を奪った際、ドゥ・ザンの支持に回って領地を安堵された。またドゥ・ザンの後妻であったオルミラは、アルケティ家出身であり、ドゥ・ザンの娘でノヴァルナの妻であるノアは、ミディルツとは従兄妹となる。

 本来であれば、アルケティ家当主となるはずのミディルツであったが、自分のさらなる可能性を追い求め、皇国暦1552年に家督を叔父に預けて出奔。自分磨きと、それに相応しい主君探しの旅に出ていた。

 そしてノヴァルナとの最初の出逢いは、八年前の皇国暦1555年6月。傭兵を使って、氏族会議中のキオ・スー城へ宇宙から、鉱物精製プラント衛星を落下させようとした、イル・ワークラン=ウォーダ家の企みをノヴァルナに知らせたのが、このミディルツなのである。

「ノヴァルナ様。アルケティ殿をお連れ致しました」

 ミディルツを斜め後ろに控えさせたランの言葉で、ハーヴェンと話し込んでいたノヴァルナは席を立ち、声を掛ける。ハーヴェンと話し込んでいた…というのは、演技である。

「おう。久しぶりだな、アルケティ殿」

「長らくご無沙汰しておりました。ご壮健そうで何よりにございます」

 恭しく頭を下げるミディルツ。対するノヴァルナは一足飛びに、いきなり質問を投げかける。

「アルケティ殿。泊まる場所は決まっているか?」

「は?…いえ。お話をさせて頂きましたのちに、市内で探します」

 すると一つ頷いたノヴァルナは、即座にランに命じた。

「ラン。城内の宿所を用意しろ。食事も。それとノアに、声をかけておいてくれ。こっちの話が済んだら、呼ぶからってな」

「御意」と頷くラン。

 矢継ぎ早に次々と指示を出すノヴァルナに、「あの…」と戸惑うミディルツ。さらにノヴァルナは陽気に声を掛けて来る。

「泊まる場所が決まってねーなら、ここに泊まれ。あんたも懐かしいだろ。ノアも会いたがってたしな」

「は…はい」

 このやり取りを静かに聞いていたハーヴェンは、ノヴァルナ流とも言える斜め上からの主導権の握り方に、眼を細めた。
 
 柔らかだが、有無を言わせぬ口調でミディルツに告げたノヴァルナは、さらに自然な仕草でソファーを勧める。そこにはハーヴェンがおり、歩み寄るミディルツに軽く会釈する。ミディルツは探るような眼でハーヴェンに問い掛けた。

「ご貴殿は、確か…」

「デュバル・ハーヴェン=ティカナックにございます。以後、お見知りおきを」

「おお、噂に名高かったティカナック家の…お体の方は宜しいのか」

 ハーヴェンの名は、ミディルツがいた頃のサイドゥ家でも、神童としてすでに広く知られていたのだ。併せて生まれつき、不治の病に冒されている事もだが。

 はい…と応じるハーヴェンの脇をすり抜け、ノヴァルナは、これまで座っていたハーヴェンの向かい側ではなく、斜め右のソファーに腰を下ろした。

「今のハーヴェンはウチの家臣だ。今後の事を相談していた」

 そう言うノヴァルナだが、これは嘘であった。ハーヴェンは家臣になったばかりで、ここにいるのは、その挨拶に訪れただけなのだ。しかしこれも駆け引きの内であり、それを理解したハーヴェンも、何も言わずに頷くだけだった。すると上手い具合に、如何にもノヴァルナの懐刀的存在感が出て来る。

「さようですか」

 ノヴァルナの嘘を、額面通り受け取ったらしいミディルツは、ノヴァルナの向かい側へ座る。

「七年…いや、八年ぶりかミディルツ殿。だが直接会うのは初めてだな。その節は世話になった」

「いえ。あの時は失礼致しました」

「色々と話したい事もあるが、それはノアが来てからにしよう。まずは特使とやらの用件を聞かせてくれ」

「そうですね」

 もとより異論はないミディルツは、ノヴァルナを見据えて、ここへ来た目的を述べ始める。

「ノヴァルナ様」

「おう」

「ジョシュア・キーラレイ=アスルーガ様におかれましては、新星帥皇を騙るエルヴィスとこれを奉じるミョルジ家を打倒し、正統星帥皇となるべく上洛をご決意。つきましては前星帥皇にしてジョシュア様の兄たる、テルーザ陛下の刎頚ふんけいの友であったノヴァルナ様に、そのお力添えを頂きたいと思し召しになり、その使者として、私が遣わされた次第にございます」

 明確な物言いで、口上を伝えるミディルツ。ただその内容の大半は重要さにおいて、ノヴァルナの興味を引かないものであった。一か所を除いては。

「新星帥皇を騙る…と言ったが、アルケティ殿はエルヴィスが何者なのか、正体を知っているのか?」

 ピンポイントで問い質すノヴァルナに、ミディルツは硬い表情で頷いた。

「はい。おそらくは間違いなく…」



▶#21につづく
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...