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第6話:皇国再興への道
#21
しおりを挟む「では訊く。エルヴィスとは何者だ?」
ノヴァルナの問いに、ミディルツは静かに答えた。
「おそらくテルーザ陛下を模した、バイオノイド…と思われまする」
「バイオノイド?」
探るような眼になるノヴァルナは、“何か知っているか”と尋ねるかの如く、その視線をハーヴェンへ移す。これを受けてハーヴェンは、自分の知識から引き出した情報を口にした。
「バイオノイド…確か、クローン技術を応用した、“合成人間”の呼称だと思いましたが?」
「その通りです」とミディルツ。
バイオノイドとはハーヴェンが言ったように、既存のクローン人間製造技術から発展したものである。そしてクローンとの違いは、クローンは受精卵→胎児→幼児期→少年期→成人…と、普通の成長過程を経るのに対し、バイオノイドは素体となる人間の現在の細胞状態、言い換えれば加齢状態のまま、肉体組織を合成するのである。
つまりノヴァルナのクローン猶子のヴァルターダは、ノヴァルナが五歳の時にクローン培養されたため、五歳の年齢差があるのだが、これがバイオノイドであった場合、年齢差の無いオリジナルのノヴァルナと同い年となるのである。
これが正しいのであれば、確かにエルヴィスがテルーザと年齢差も無く、瓜二つとなっているのも説明がつく。
だがハーヴェンはむしろ、怪訝そうな表情であった。
「しかしながらバイオノイドの製造技術は、およそ百年前に封印された、“禁じられた技術”のうちの一つのはず。その封印を解くには皇国科学省の許可と、開封作業が必要だと聞き及んでおりますが?」
ハーヴェンの疑念は尤もである。星帥皇室直轄機関である皇国科学省が、星帥皇のバイオノイドを製造するための許可や、技術開封を行うはずがない。こういった危険な存在と成り得る、バイオノイドの濫造を防ぐため、技術を封印したからだ。
「それについては実は、私も以前から探っておったのですが、どうやらこの技術…科学省からではなく、別ルートが関わっていると思われます」
「別ルート?」
ノヴァルナが不審そうに問い質す。
「はい。この三年…私は友人である星帥皇室直臣の、フジッガ・ユーサ=ホルソミカらと、密かに調査を進めておりました。どうやらテルーザ陛下のバイオノイド…つまりエルヴィスを製造したのはミョルジ家。そしてミョルジ家に対して技術供与を行ったのは、『アクレイド傭兵団』の可能性が高まっていたところでした」
「アクレイドの連中だと!?」
ノヴァルナの表情が、サッ!と引き締まる。
そこからのミディルツの話によると、ミョルジ家は本来の領域であるアーワーガ宙域の、セッツー宙域との境界近くにある、アヴァージ星系にバイオノイド製造装置を設置し、ここでバイオノイド:エルヴィスを作り出したらしい。
バイオノイドは身体こそ成人の状態で合成されるが、記憶や知識は空白のままである。そこで元来は教育プログラムの一つであった、記憶インプラント技術を応用し、エルヴィスに、自分がテルーザの双子の弟なのだという、疑似記憶を植え付けたのであろう。脳が空っぽの空白状態であれば、それこそ無意識領域から洗脳していく事も可能に違いない。
「…ただ、これらは全て、ミョルジ家の交信データを解析して得たもので、公にしてミョルジ家の不正を訴えるだけの、物的証拠に欠けております」
そう口惜し気に言うミディルツ。確かに解析データだけでは、偽造したものだと反論されても、再反論できはしない。
「なるほど…バイオノイドってーのが、そういうモンだってんなら、色々と腑にも落ちるってもんだな」
ノヴァルナはため息混じりに、ソファーへ上体を沈める。
「それで? あんたはテルーザ陛下が戦死した時、どうしていたんだ?」
「はい。物的証拠を得るため、アヴァージ星系へ潜入しようと考え、フ・シーミ星系でフジッガ殿と共に準備をしておりました。しかしキヨウへ向かうには距離があり過ぎ、もはや間に合わないと考えて、比較的距離の近いヤーマト宙域のジョシュア様を、お救いする事を選択しました」
「ふーん。あんた、冷静だな」
ノヴァルナの反応を聞いて、今度はミディルツが緊張する。テルーザを見捨てて保身に走ったと思われたのではないと、考えたのだ。ただどうやらそれは、ミディルツがどういった行動原理で動くか、見極めたものであったらしい。
「その判断は間違っちゃいない。ロッガ家の領域外周を通って、エテューゼ宙域まで逃れたのも理解できる」
「ありがとうございます」
「で?…なんで俺なんだ? いや、さっきの“刎頸の友云々”なんて、上っ面の理由なんざ要らねーからよ」
やや端折り気味に問うノヴァルナ。要はエテューゼ宙域に逃れたなら、アザン・グラン家に上洛支援を要請するべきで、それを自分に要請して来る本音を言え、というわけである。
先のミディルツの要請にあまり興味を示さなかったのは、無駄な美辞麗句は無用というノヴァルナの流儀を、ミディルツが今ひとつ理解できていなかったからだ。
ノヴァルナに真の理由を求められ、ミディルツは自分達の実情を打ち明けた。
再三再四アザン・グラン家に、上洛軍の編制と出陣を要請しているものの、保守的な当主のウィンゲートは非常に腰が重く、のらりくらりと躱すばかりで、当分…おそらく数年は動き出しそうにない。
対する新星帥皇エルヴィスは、即位に反対する上級貴族達との不要な衝突を避けるため、いまだトルダー星系第五惑星ガルンダにある『ハブ・ウルム・トルダー』に居るが、NNLシステムの制御権を失った上級貴族達が、エルヴィスとミョルジ家に膝を屈し、中央行政府『ゴーショ・ウルム』へ迎え入れてしまうと、エルヴィスは名実ともに星帥皇の座を手にする事となる。
そのエルヴィスはミディルツの推測するところ、記憶インプラントと併せた深層心理操作により、ミョルジ家の言いなりとなっていると思われ、とどのつまりミョルジ家による、銀河皇国支配が確立してしまうのである。
「エルヴィスを通したミョルジ家による皇国支配はいずれ、自分達に従う宙域と星大名家にのみNNLの使用を許可し、絶対的権力を生み出す事になりましょう」
「………」
ミディルツの言葉にノヴァルナは、無言で複雑な表情をする。つい先日、妻のノアが言った皇国暦1589年の世界で、関白となっていた自分が、皇国を支配するために行ったNNLシステムの独占支配と、同じだという話を思い出したからだ。
「ノヴァルナ様?」
怪訝そうに呼び掛けるハーヴェンに、ノヴァルナは「いや…なんでもない」と応じて、再びミディルツに問い掛ける。
「…つまりは、手遅れになる前に、ジョシュア様を星帥皇の正統な後継者として、その座に据えたい、そういう事だな?」
「仰せの通り」
「だがどうする?…俺が上洛軍を起こしたとして、ミョルジ家の連中にNNLシステムを止められたら、キヨウへの進撃もままならないが」
「それについては、策がございます」
「へぇ。どんな?」
ノヴァルナが突っ込んで訊こうとすると、ミディルツは軽く眼を伏せ、「それは今ここでは、申せません」と拒絶した。当然である。まだノヴァルナからは、何の承諾も得ていないのだ。そしてそれは無論、問うたノヴァルナ自身も承知の上だ。いつものべらんめえ口調になって、さらに畳みかける。
「そりゃそうだろうな。しかしなアルケティ殿…何の担保も無しに力を貸せたぁ、少々虫が良すぎるんじゃねぇか? 俺もこう見えて、多くの将兵の命を預かってる身なんだぜ。納得できねぇ話で大事な家臣達を、危険な目には遭わせらんねぇってもんさ」
担保と言われてミディルツは返答に困った。星帥皇の正統な後継者と言っても、ジョシュアとその直参家臣団は、アザン・グラン家に匿われ、養われているのが実情である。
「…されば、ジョシュア様が星帥皇となられた暁には、ノヴァルナ様には皇国関白の座を、ご用意させて頂くのでは如何でしょう?」
これを聞いてノヴァルナは途端に嫌な顔をした。さも自分が銀河皇国関白になる事が、逃れられない運命であるように思えたからだ。不快げな口調で吐き捨てるように言う。
「そんな空手形は要らねー」
「は…申し訳ございません」
これはしまった…という様子で詫びを入れるミディルツ。しかしミディルツはノヴァルナの、関白という地位への考え方を知らないのであるから、過失というものではない。それにそもそも、担保に出来るようなものなど、ジョシュア側に何も無い事はノヴァルナにも分かっていた。ただ双方の立場は対等ではなく、ノヴァルナ側が上であるのを明確にしておきたかったのだ。
“エルヴィスとかいう奴が、ミョルジ家の言いなりにしかならねぇ、バイオノイドだってんなら、連中の分断は難しい。となるとジョシュアって神輿がどんな神輿であっても、担ぐしかねーか…”
出陣のタイミングが重要な事は、ミディルツ同様…いや、豊富な実戦経験からミディルツ以上に理解しているノヴァルナだ。「ふん…」と鼻を鳴らすと、いつもの不敵な笑みを浮かべて言い放つ。
「いいだろう…話に乗ってやるぜ」
「ま、まことにございますか!?」
このままでは話が不調に終わりそうだと感じていたのか、ミディルツは幾分驚いた表情で問い質す。
「だがあんたらがジョシュア様を連れて、ミノネリラまで来る事。それとアザン・グラン家との軋轢が起きないよう、あんたらで筋を通しておく事。そして以後は、全て俺の指示に従う事…これが担保代わりの条件だ」
バッサリと斬り込むように宣するノヴァルナの声には、“嫌なら帰れ”という強い響きがある。ただこれを聞いてミディルツは、むしろ安堵したような光を双眸に湛えて、深く頭を下げた。
「かしこまりました。必ずやそのように致します」
そして三日後、旧サイドゥ家を含むウォーダ家のすべての重臣に対し、極秘裏に皇都惑星キヨウ上洛作戦準備の命令が、ノヴァルナから発せられた。ミノネリラ宙域を手に入れたノヴァルナの、新たな戦いの始まりである………
【第7話につづく】
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