銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第8話:皇都への暗夜行路

#01

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 皇国暦1563年5月2日。ウォーダ家上洛軍は最初の目的地、ク・トゥーキ星系に到着した。

 妨害を図ったロッガ家が敗北した事で、ミョルジ家と『アクレイド傭兵団』の艦隊が、阻止に現れるのではないかと警戒したウォーダ軍であったが、そのような事も無く、ク・トゥーキ星系艦隊の出迎えを受けての到着である。

 ク・トゥーキ星系を治める独立管領ク・トゥーキ家は、星系防衛艦隊の他に強力な恒星間打撃艦隊を三個も保有している。これはク・トゥーキ星系に例のNNLシステムのハブステーションが置かれているためであり、これを防衛するために強力な戦力が必要だったからだ。恒星間打撃艦隊三個と星系防衛艦隊一個は、一つの恒星系が保有するには、予算的に相当な負担となるのだが、これに対しては星帥皇室とロッガ家から、支援金が出されていたらしい。

 星系首都は第三惑星ハール・ザム。上洛軍が出迎えのク・トゥーキ艦隊と邂逅したのは、第五惑星近辺だった。ウォーダ軍総旗艦『ヒテン』に座乗するノヴァルナのもとに、ク・トゥーキ艦隊旗艦から通信が入る。

「お待ちしておりました。ク・トゥーキ家当主、モーテス・ヴォクス=ク・トゥーキにございます」

 通信ホログラムスクリーンの中で名乗るモーテスは、まだ十四歳。奇しくも、つい先日ノヴァルナの事務補佐官となり、今も傍らに控えているジークザルト・トルティア=ガモフと、同い年であった。短い黒髪で、ジークザルトが知的な印象であるのに対し、こちらは行動的な印象だ。
 また同じ十四歳ながら、モーテスはすでにク・トゥーキ家の家督を継いでいる。ただこれは父親が早くに戦死したためで、実際には祖父ネッツァートの後見を受けていた。そのネッツァートはモーテスと席を並べて座り、眠っているようにすら見える。長めの白髪の老人だった。データでは今年で七十八歳になるはずである。

「お初にお目にかかります。ウォーダ家当主、ノヴァルナ・ダン=ウォーダと申します」

「御高名はよく拝聴しております」

 硬い笑顔を返すモーテスは、緊張しているらしい。ノヴァルナは穏やかに頭を下げて告げた。

「ジョシュア・キーラレイ=アスルーガ様におかれましても、ク・トゥーキ家の支援には多大な感謝をされておられます。回線をお繋ぎ致しますので、まずはお言葉を賜られるが宜しいでしょう」

 これを聞いてモーテスの緊張はあからさまに高まったのが見え、しかも隣で眠っているようだった、祖父のネッツァートまで突然顔を上げて、背筋をしゃんと伸ばす。驚いて祖父を振り向くモーテス。その様子に笑い出しそうになるのを堪え、ノヴァルナは通信回線をジョシュアに切り替えた。四回りも小さくしたホログラムスクリーンに、ジョシュアとモーテスのやり取りを映し出して、また笑い出しそうになる。
 ジョシュアは明らかに、側近のトーエル=ミッドベル辺りから用意されたと思われる、原稿を棒読みしており、一方のモーテスの方も、隣にいる祖父が受け答えを囁いているらしく、応答に変な間が開いていたからだ。

「なにやってんだか…二人とも、緊張しっぱなしじゃねーか」

 苦笑いしながらそう言うノヴァルナに、ジークザルトはすまし顔で応じる。

「お互いの立場からすれば、こうなるのも当然でしょう」

「その点、おめーは全然緊張しねーのな」

 からかうノヴァルナの言葉にも、ジークザルトは動じない。

「そう見せてないだけですし、今の環境を言うなら、もう慣れました」

 事務補佐官に登用してまだ二日だが、ジークザルトは早くも主君の性格と、自分の立ち位置を理解したようであった。

「それで? 今回のク・トゥーキ家の動きを、どう思う?」

 ジークザルトの才を試すノヴァルナの問いである。新星帥皇を名乗るエルヴィスを擁する、ミョルジ家が事実上支配するヤヴァルト宙域と、そのミョルジ家と協力関係を結ぶようになった、ロッガ家に挟まれる形となったク・トゥーキ星系は、普通に考えるなら、エルヴィス側につくべきであろう。それを今回、ジョシュア側についたのには、相応の理由があるはずだった。ノヴァルナはその理由を、ジークザルトがどう捉えているか尋ねたのだ。

「おそらく、ク・トゥーキ家なりの、打算があるのでしょう」

「そりゃそうだろう。それで?」

「このままではエルヴィスの勢力に飲み込まれ、ミョルジ家なりロッガ家なりの、一家臣にまで格下げされる…さらに、NNLシステムのハブステーションも解体される可能性を恐れて、現状の存続を条件にジョシュア様側と、交渉したのだと思います。またこれには同じく、その存在が薄れるのを恐れる、上級貴族達の思惑も絡んでいるはずです」

「ジョシュア様よりもまず、独立管領としての立場か」

 ノヴァルナがそう応じると、ジークザルトは軽く頷く。たぶん、この若い事務補佐官の見立てに、間違いはあるまい。しかし相手の立場を利用しようとしているのは、ノヴァルナも同じである。「ふん…」と鼻を鳴らし、司令官席に身を沈めるノヴァルナにジークザルトは問い掛けた。

「私の意見、間違っていますか?」

「いや正解だ。俺もそう思ってたからな。だが正解だからこそ、俺も含めてみんな胡散臭ぇばかりで、面白くねぇ話だって事さ」



▶#02につづく
 
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