銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第8話:皇都への暗夜行路

#02

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 ク・トゥーキの星系首都第三惑星ハール・ザムに降り立つと、そこにはノヴァルナをさらに不機嫌にさせる人間達がいた。ヤヴァルト銀河皇国の上級貴族団だ。

 人数は全部で十二人。彼等は星帥皇と同じく“トランサー”能力を有し、これを使って星帥皇による銀河皇国のNNLシステム制御を、補佐するのが役目である。ただ最終制御権は星帥皇自身にしか付与されておらず、彼等だけで皇国のNNLシステムを完全運用する事は、不可能となっていた。

 だが銀河皇国の長い歴史の中で、彼等上級貴族は自分達の領分を越えて、権勢の伸張を図るようになり、逆に行政の停滞を生み出すようになる。この上級貴族と、有力武家階級がそれぞれに勢力を二分し、星帥皇の継承権を巡って争ったのが、百年前の“オーニン・ノーラ戦役”であり、今の戦国の世を招いたのである。
 そうであったからこそ、前星帥皇のテルーザはノヴァルナと協力し、こういった上級貴族の改革にも、乗り出すつもりでいたのだ。そのような意味では今回のジョシュアの上洛で、上級貴族達の力を借りなければならないのは、ノヴァルナにとって悪い冗談以外の何物でもない。


 夜の闇の中にライトアップされたク・トゥーキ城の、シャトル発着場に降下したジョシュアとノヴァルナ一行は、壁面の大半が透明アルミニウムで造られた、円形の広い迎賓ホールで上級貴族達と顔を合わせた。

 モーテスと祖父のネッツァートの案内でジョシュアと側近達、そしてそのあとをノヴァルナとノアに一部の重臣達が続き、ホールへ入って行くとひと固まりになっていた上級貴族達が、一斉に振り向く。全員が豪華な衣装を身に着け、如何にも贅沢に慣れている雰囲気を醸し出していた。

「ジョシュア・キーラレイ=アスルーガ陛下のご到着です」

 先導するモーテスが、硬い口調で告げながら歩み寄って行くと、五十代後半で太い眉が特徴の肥満気味の男が、殊更大袈裟に両腕を広げてみせて応じる。

「おお。お待ちしておりましたぞ、陛下」

 この男が上級貴族のトップで、貴族院議員筆頭の地位にあるバルガット・ツガーザ=セッツァーだった。かつては摂政のハル・モートン=ホルソミカと結託し、テルーザの父ギーバル・ランスラング=アスルーガのもとで、皇国の政治を欲しいままにしていた大貴族である。
 今回のジョシュアへの協力は無論、ミョルジ家に奪われた権力を取り戻し、昔のような地位に返り咲きたいという、思惑のためであった。
 大きな声を上げながら近づくセッツァーに、ジョシュアはまた緊張した様子を見せる。代わりに応じたのは、側近のミッドベルであった。この辺りもジョシュアは人任せらしい。

 そして幾度か言葉を交わしたセッツァーは、透明アルミニウムの壁の一画を指さして、愛想のいい表情で何かを言う。指をさした先には、緑色の光を帯びた、巨大なピラミッドのような施設が夜景に浮かび上がっていた。あれがおそらくNNLのハブステーション、『ハブ・ウルム・ク・トゥーキ』であろう。
 あれをジョシュアが制御できれば、オ・ワーリ宙域やミノネリラ宙域に掛けられている、NNLのメインシステム凍結を解除する事が出来る。またウォーダ家と共同戦線を張っている事が露見した、トクルガル家のミ・ガーワ宙域や、アーザイル家のオウ・ルミル宙域ノーザ恒星群が、NNLを凍結されるのを防ぐ事も可能になるに違いない。

 ただそれにはやはり、システムにアクセスするジョシュアへの、上級貴族達のサポートが不可欠となる。するとジョシュア達に一つお辞儀をして、セッツァーはノヴァルナの所に足を運んで来た。無論、挨拶のためであるが、早くも双方の眼に険しさが宿り始める。誰あろう三年前にギィゲルト・ジヴ=イマーガラに対し、キヨウ上洛を要請したのがこのセッツァーなのだ。

「これはこれは、ノヴァルナ様。此度のジョシュア様ご上洛へのご支援…誠にありがとうございます」

 慇懃に頭を下げて来るセッツァーの声には、態度と裏腹に粘着質の響きがある。それに対するノヴァルナの表情も、であった。

「お初にお目にかかります。皇国に忠義を誓う者にとって、此度のご上洛に力添えを行うは当然。礼には及びませぬ」

 このやりとりを傍らで見る、ミディルツ・ヒュウム=アルケティと、ジークザルト・トルティア=ガモフは揃って固唾を飲む。物言いこそ穏やかだが、二人が放つ空気はそれぞれがまるで、白刃はくじんのように思えたからだ。

「お初にお目にかかるのは、そうですな。公は五年前に一度ご上洛され、今は亡きテルーザ陛下の拝謁を受けられたそうですが、我等にお目通りは叶いませなんだ」

 これはノヴァルナがテルーザに会いに、キヨウへ赴いた時の話である。不要だと思い、わざとセッツァー達と顔を合わせなかったノヴァルナだが、これに関わる嫌味を交えた言葉をさらりと躱す。

「あの時はイースキー家の手の者に、当時は婚約者でした妻を拉致されまして、その奪還に集中したため、方々にお会いする機会を失いました。申し訳ないと思っております」
 
 ノヴァルナが些か白々しく詫びの言葉を口にすると、その傍らにいたノアが「私のせいでご迷惑をおかけしまして…」と頭を下げる。そこから顔を上げたノアの美しさにセッツァーは一瞬、引き込まれたようになり、さすがに自分の言動が礼を失していると思ったらしく、取り繕うように言う。

「い、いえいえ。お話は我等も伺っております。奥方様がご無事であった事こそ、何よりでございます。言いようをたがえました。お許しあれ」

 すると側近のミッドベルに何事かを耳打ちされたジョシュアが、おもむろに振り向いてセッツァーに告げた。

「バルガット・ツガーザ=セッツァー。ノ…ノヴァルナ殿は我等と志を同じくし、力を尽く…尽くしてくれている。よく協力して事にあたるように」

 ミッドベルに耳打ちされた通りのジョシュアの物言いは、相変わらずたどたどしかったが、セッツァーは恭しく頭を下げ「それはもう」と応じる。そしてノヴァルナに対し、「それではノヴァルナ公。ささやかながら、宴の席を用意させて頂いておりますゆえ、またのちほど…」と言い残し、その場を離れた。

 セッツァー達が迎賓ホールから出て行くのを待ち、ノアはミッドベルに「ありがとうございました」と静かな声で礼を言う。ノヴァルナとセッツァーのやり取りの裏に険悪なものを感じたミッドベルが、機転を利かせてジョシュアに抑制の言葉を言わせた事に、気付いていたからである。

 ただこの場は免れたが、ノヴァルナとセッツァーの間に深い溝が生じており、それが今後も、埋める事の出来ないものとなっているのは確実だった。ノヴァルナにすればセッツァーらは、銀河皇国の秩序回復のため排除すべき一団であり、一方のセッツァーら上級貴族にとっては、皇国貴族だったイマーガラ家を破り、当主ギィゲルトを斃したノヴァルナと手を組むのは、認めたくない現実だからだ。エルヴィスの新星帥皇即位を阻止する、この一点のみが共通の目的で集まった今の状況は、まさに“呉越同舟”というものであろう。

 明らかに面白くなさそうな表情をして、ガシガシ頭を掻くノヴァルナに、ノアは苦笑いで声を掛ける。

「貴族の方達への応対は、私やフーマに任せてくれたらいいから、あなたは上洛軍の指揮運用に専念して。まだこれからが本番でしょ?」

 ノアの言う通りであった。ロッガ家は蹴散らしたものの、キヨウのあるヤヴァルト宙域へ入ってからは、ここまで動きを見せなかったミョルジ家や、『アクレイド傭兵団』も行動を開始するに違いない。これからが本番なのだ。




▶#03につづく
 
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