銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第8話:皇都への暗夜行路

#06

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 ノヴァルナの前に展開された通信ホログラムスクリーンに、白髪の男の上半身が映し出される。『アクレイド傭兵団』のグレーの軍装を着た、その初老の男には見覚えがあった。

「ご無沙汰しております。ノヴァルナ様」

「ああ。あんたか…確か、ハノーヴァなんとかだったか?」

「覚えて頂いておられましたとは、光栄にございます。バルハート=ハノーヴァにございます」

 男はバルハート=ハノーヴァ。前述した五年前にノヴァルナと会い、調停役を務めた、『アクレイド傭兵団』中央本営第3艦隊の司令官だった。そして最高評議会議員の一人でもある。通信を入れているのは、巨大艦の前面に配置されている艦隊の、旗艦であった。五年前にノヴァルナが見た巨大戦艦である。おそらくこの艦隊が、本営第3艦隊という事なのだろう。

「単なる話し合いに、わざわざこんな所まで、出張って来たのか?」

「はい。会談役は殿下と面識がございます、わたくしが務めさせて頂きます」

 物腰も柔らかく、ハノーヴァはゆっくりと会釈した。

「それにしても、すげー大艦隊で、えらく仰々しいな」

「恐れ入ります。この機会に、殿下に我等が本営艦隊をご覧頂きたいと、最高評議会議長が申しましたもので」

 その言葉にノヴァルナの眉が、ぴくりと動く。

「最高評議会議長…そいつとは会えるのか?」

「それはご容赦下さい」

「“それはご容赦下さい”って事は、ここに来てはいるって事だな。その後ろでふんぞり返ってる、デカブツに乗ってるのか?」

 そう言って巨大艦を指さすノヴァルナに、ハノーヴァは僅かながら苦笑いする。発言の意味するところを見抜く、ノヴァルナの鋭さに感嘆したのだ。

「はい。後方におりますのは、傭兵団総旗艦『ヴォルガ・アクレイダス』。議長のご紹介は出来ませんが、我々の艦隊や総旗艦のデータを収集されるのは、一向に構いません」

 ご自由に…と聞いて、ノヴァルナは相手の自信を感じた。実際こうしている間にも、ウォーダ軍の全艦が『ヴォルガ・アクレイダス』の、スキャンを行っているはずである。それを自由にやれと言っているのだ。

「大した自信だな、ハノーヴァ殿。それじゃあ本題に移るとしようか。中央本営艦隊がなぜここにいる? 俺になんの用だ?」

 ノヴァルナが問い掛けると、ハノーヴァは思いも寄らぬ言葉を返して来た。

「はい。我等『アクレイド傭兵団』最高評議会が、ミョルジ家との契約を終了した旨を、お伝えに参上した次第です」
 
「ミョルジ家との契約を終了!? どういう事だ!?」

 さしものノヴァルナも驚きの声を発した。これまでの動きを見れば、ミョルジ家と『アクレイド傭兵団』は、一心同体のようなものであったからだ。

「言葉通りの意味でございます。我々はあくまでも、営利目的の組織でありますので、より多くの利益を上げられる案件を選択するのは、当然でございましょう」

 落ち着き払ってそう告げるハノーヴァだったが、ノヴァルナは疑念に満ちた眼で睨みつける。

「て事は、ミョルジ家との契約より、儲かる話が見つかったってのか?」

「はい。アン・キー宙域の辺りに…」

「へぇえ…」

 そう言われるノヴァルナには心当たりがあった。オ・ワーリ宙域から見て、シグシーマ銀河系の反対側にあるアン・キー宙域では、独立管領から身を起こしたモータナル・シェス=モーリーが、孫のティルモルドゥとの二頭体制で、新興の星大名として急激に勢力を拡大。アン・キー宙域本来の統治者であったオーティス家を衰退させて、さらに周辺の宙域にまで支配圏を伸ばしているらしい。
 新興のモーリー家からすれば、戦力は幾らあってもいい状況である事は、間違いない。そうであるならミョルジ家より好条件を、『アクレイド傭兵団』に提示したとしてもおかしくはない。ただそう考えても、ノヴァルナは疑念を払拭できない。

「だがキヨウの方は、いいのかよ?」

 そうなのだ。モーリー家の事は、たとえどれほど大取引だとしても、言い方は悪いが“地方のいざこざ”なのである。ミョルジ家と契約していたのは、『アクレイド傭兵団』が銀河皇国の中心に食い込むという、大きな利点があったはずだ。現にミディルツの情報では、新星帥皇を名乗るエルヴィス…バイオノイド:エルヴィスの製造技術を、『アクレイド傭兵団』がミョルジ家に供与したという話だった。

 しかしハノーヴァには、そのような事は些末な問題らしい。僅かな笑みを交えて鷹揚に答える。

「お気に掛けて下さり、ありがとうございます。ですがお気遣いなく。充分な利益は回収致しました―――」

 そしてハノーヴァは、冗談とも本気ともつかぬ言葉を口にした。

「それより如何でしょう、ノヴァルナ様。ウォーダ家も我々と、ご契約なされませんか? モーリー家と契約しても、我々にはまだ戦力に余裕がございます。きっとこの先、殿下の覇道のお役に立てると思いますが」

 これに関しては、ノヴァルナの回答に淀みはない。

「いらねー」
 



▶#07につづく
 
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