197 / 526
第8話:皇都への暗夜行路
#06
しおりを挟むノヴァルナの前に展開された通信ホログラムスクリーンに、白髪の男の上半身が映し出される。『アクレイド傭兵団』のグレーの軍装を着た、その初老の男には見覚えがあった。
「ご無沙汰しております。ノヴァルナ様」
「ああ。あんたか…確か、ハノーヴァなんとかだったか?」
「覚えて頂いておられましたとは、光栄にございます。バルハート=ハノーヴァにございます」
男はバルハート=ハノーヴァ。前述した五年前にノヴァルナと会い、調停役を務めた、『アクレイド傭兵団』中央本営第3艦隊の司令官だった。そして最高評議会議員の一人でもある。通信を入れているのは、巨大艦の前面に配置されている艦隊の、旗艦であった。五年前にノヴァルナが見た巨大戦艦である。おそらくこの艦隊が、本営第3艦隊という事なのだろう。
「単なる話し合いに、わざわざこんな所まで、出張って来たのか?」
「はい。会談役は殿下と面識がございます、わたくしが務めさせて頂きます」
物腰も柔らかく、ハノーヴァはゆっくりと会釈した。
「それにしても、すげー大艦隊で、えらく仰々しいな」
「恐れ入ります。この機会に、殿下に我等が本営艦隊をご覧頂きたいと、最高評議会議長が申しましたもので」
その言葉にノヴァルナの眉が、ぴくりと動く。
「最高評議会議長…そいつとは会えるのか?」
「それはご容赦下さい」
「“それはご容赦下さい”って事は、ここに来てはいるって事だな。その後ろでふんぞり返ってる、デカブツに乗ってるのか?」
そう言って巨大艦を指さすノヴァルナに、ハノーヴァは僅かながら苦笑いする。発言の意味するところを見抜く、ノヴァルナの鋭さに感嘆したのだ。
「はい。後方におりますのは、傭兵団総旗艦『ヴォルガ・アクレイダス』。議長のご紹介は出来ませんが、我々の艦隊や総旗艦のデータを収集されるのは、一向に構いません」
ご自由に…と聞いて、ノヴァルナは相手の自信を感じた。実際こうしている間にも、ウォーダ軍の全艦が『ヴォルガ・アクレイダス』の、スキャンを行っているはずである。それを自由にやれと言っているのだ。
「大した自信だな、ハノーヴァ殿。それじゃあ本題に移るとしようか。中央本営艦隊がなぜここにいる? 俺になんの用だ?」
ノヴァルナが問い掛けると、ハノーヴァは思いも寄らぬ言葉を返して来た。
「はい。我等『アクレイド傭兵団』最高評議会が、ミョルジ家との契約を終了した旨を、お伝えに参上した次第です」
「ミョルジ家との契約を終了!? どういう事だ!?」
さしものノヴァルナも驚きの声を発した。これまでの動きを見れば、ミョルジ家と『アクレイド傭兵団』は、一心同体のようなものであったからだ。
「言葉通りの意味でございます。我々はあくまでも、営利目的の組織でありますので、より多くの利益を上げられる案件を選択するのは、当然でございましょう」
落ち着き払ってそう告げるハノーヴァだったが、ノヴァルナは疑念に満ちた眼で睨みつける。
「て事は、ミョルジ家との契約より、儲かる話が見つかったってのか?」
「はい。アン・キー宙域の辺りに…」
「へぇえ…」
そう言われるノヴァルナには心当たりがあった。オ・ワーリ宙域から見て、シグシーマ銀河系の反対側にあるアン・キー宙域では、独立管領から身を起こしたモータナル・シェス=モーリーが、孫のティルモルドゥとの二頭体制で、新興の星大名として急激に勢力を拡大。アン・キー宙域本来の統治者であったオーティス家を衰退させて、さらに周辺の宙域にまで支配圏を伸ばしているらしい。
新興のモーリー家からすれば、戦力は幾らあってもいい状況である事は、間違いない。そうであるならミョルジ家より好条件を、『アクレイド傭兵団』に提示したとしてもおかしくはない。ただそう考えても、ノヴァルナは疑念を払拭できない。
「だがキヨウの方は、いいのかよ?」
そうなのだ。モーリー家の事は、たとえどれほど大取引だとしても、言い方は悪いが“地方のいざこざ”なのである。ミョルジ家と契約していたのは、『アクレイド傭兵団』が銀河皇国の中心に食い込むという、大きな利点があったはずだ。現にミディルツの情報では、新星帥皇を名乗るエルヴィス…バイオノイド:エルヴィスの製造技術を、『アクレイド傭兵団』がミョルジ家に供与したという話だった。
しかしハノーヴァには、そのような事は些末な問題らしい。僅かな笑みを交えて鷹揚に答える。
「お気に掛けて下さり、ありがとうございます。ですがお気遣いなく。充分な利益は回収致しました―――」
そしてハノーヴァは、冗談とも本気ともつかぬ言葉を口にした。
「それより如何でしょう、ノヴァルナ様。ウォーダ家も我々と、ご契約なされませんか? モーリー家と契約しても、我々にはまだ戦力に余裕がございます。きっとこの先、殿下の覇道のお役に立てると思いますが」
これに関しては、ノヴァルナの回答に淀みはない。
「いらねー」
▶#07につづく
0
あなたにおすすめの小説
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる