銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第8話:皇都への暗夜行路

#07

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 即答で拒絶するノヴァルナに、ハノーヴァは気分を害したふうもなく、「そうですか…そうでしょうな」と、画面の中で幾度か頷く。そしてさらに続けた。

「ともかく、以前にお会いした時にも申し上げました通り、我々傭兵団は契約こそが全て。ミョルジ家との契約が終了致しました以上、傭兵団第一階層及び第二階層は、ノヴァルナ様と対立するつもりはございません」

「第一階層及び第二階層?」とノヴァルナ。

「第一階層はこの中央本営艦隊と、それに付随する部隊。第二階層は主戦力の、恒星間打撃艦隊群…我々の事を、密かに探っておられたノヴァルナ様なら、ご存じなのでしょう?」

 ハノーヴァの言葉にノヴァルナは、「ふん」と鼻を鳴らす。キヨウに派遣していたトゥ・シェイ=マーディンや、カーズマルス=タ・キーガーに『アクレイド傭兵団』について、秘密裡に情報収集を行うよう指示していたのだが、どうやら知られていたようだ。それならそれで…と、ノヴァルナは問い質した。

「あんたの言い方なら、第三階層と第四階層に関しちゃ、知った事じゃねぇ…って感じだな」

「さようです」

 ハノーヴァの返答はあっさりとしたものだった。『アクレイド傭兵団』は組織としては四つの階層に分かれており、先に説明された第一階層と第二階層の他、第三階層は装備的に第二階層の部隊には劣るが、一番兵員数は多い。そして第四階層は傭兵というより、ならず者が集まった略奪集団というレベルの低さであった。
 さらに各階層の独立性が高いのが、『アクレイド傭兵団』の特徴である。第一階層中央本営最高評議会は無論、全ての階層に対して、絶対的な命令権を有してはいるが、傭兵団全体の損益に関わる事案以外は、各階層の行動への干渉は原則的にしない。
 つまり今回の場合、ノヴァルナの上洛軍がキヨウに押しかけても、『アクレイド傭兵団』の第一階層と第二階層にあたる主力部隊は、迎撃には出て来ないが、第三階層と第四階層の部隊は、ミョルジ軍に協力して攻撃して来る可能性がある…という事になる。

「て事は、あんたらを雇えば、下っ端の傭兵団もミョルジの連中から、引き剥がす事が出来るってワケか」

 ノヴァルナの言葉に、ハノーヴァは穏やかな表情で頷き、改めて問い掛ける。

「如何です?…我々をお雇いになりますか?」

 だがノヴァルナの返答は、変わらず淀みない。

「いらねー」

「そうでしょうな」

 受けるハノーヴァの反応もまた、変わりなかった。
  
「あんたらを雇う気はねーが、あんたらについて、幾つか質問させてもらっていいか? なんせこんな機会は、滅多にねーからな。なんだったら、代金を払ってやってもいいぜ」

「お答え出来る範囲の、ご質問であれば」

 ノヴァルナの些か大胆な提案にも、ハノーヴァは穏やかな表情を崩さない。

「エルヴィスはミョルジ家が作ったバイオノイドらしいが、あんたらが技術を供与したって話は本当なのか?」

「お答え出来かねます」

「ミョルジ家に対して、充分な利益を上げたと言ったが、幾ら儲かった? 幾ら稼げば、キヨウを手放してもいいと考えられた?」

「お答え出来かねます」

「あんたらとイーゴン教とやらは、どういった関係だ?」

「お答え出来かねます」

「あんたらのやってる事は、利益優先だけのようには思えねぇ…本当は何を考え、何を目指している?」

「お答え出来かねます」

 ノヴァルナの人物像を、以前の上っ面だけで見ていた人間がここにいれば、このやり取りでノヴァルナが激怒すると思うだろう。何を尋ねてもハノーヴァは、「お答え出来かねます」としか言わないのだから。
 しかしノヴァルナが実際に見せた反応は、「なるほどな」と落ち着き払ってひと言告げただけであった。表情を見ても別段怒ってはいなさそうだ。望むような回答は得られない事を、承知の上で問い質したのであろう。

「お力になれず、申し訳ございません」

 ぬけぬけと謝罪するハノーヴァは、表情は穏やかなままだが、細めた両眼の奥に氷点下の光を湛えながら言葉を続けた。

「一つ申し上げられる事は、我々にはノヴァルナ様と正面切って、敵対する意思は無いというものでございます…ですが、あまり我々の周囲を嗅ぎ回るのは、殿下の御為おんためになりませぬ事を、ご理解下さい」

 ハノーヴァの言っている事は、とどのつまり恫喝である。この場では口にこそしなかったが、ノヴァルナは『アクレイド傭兵団』が、例の超空間ネゲントロピーコイルと関わっているのではないかと考え、密かに調査を行っていた。おそらくハノーヴァの今の言葉は、これに対する傭兵団最高評議会からの、警告でもあるのだろう。そしてその本気度を示すため、これを機会と捉え、傭兵団の総旗艦と中央本営艦隊が、ここまで進出して来たと考えられる。

 ただ、相手がこのような警告を発するほど、不敵な笑みが大きくなるのがノヴァルナであった。いっそ高笑いしたくなるのをこらえ、ハノーヴァの警告に応じる。

「いや。わざわざありがとさん。有意義な時間だったぜ」



▶#08につづく
 
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