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第8話:皇都への暗夜行路
#08
しおりを挟む中央本営艦隊はその後ウォーダ艦隊と、宇宙空間ではギリギリの距離となる、約三キロの距離を悠然とすれ違い、総旗艦『ヴォルガ・アクレイダス』の威容を見せつけながら去ろうとする。
ノヴァルナは司令官席に座り、その様子も落ち着いたものであったが、他に『ヒテン』の艦橋にいた誰もが息の詰まるような思いで、『ヴォルガ・アクレイダス』が右舷側を航過するのを凝視した。
しかも『ヴォルガ・アクレイダス』の周囲には、本営艦隊オリジナルと思われる未知のBSIユニットが、無数に随伴しているのが確認される。外観の形状が銀河皇国全般の機体と異なり、より生物的である事から、旧モルンゴール恒星間帝国の技術が、多く使用されていると思われた。その姿は三本の角を持った、ドラゴンのように見える。
「傭兵団艦隊、増速しつつ離脱していきます」
オペレーターが報告すると、『アクレイド傭兵団』中央本営艦隊は、左へ変針しながら加速。みるみるうちに小さくなって行く。
やがて双方が砲戦距離より離れると、参謀長のメヒル=デッカー以下、士官達は警戒の気持ちは維持しながらも、ようやく肩の力を抜いた。
「戦闘配置を第二種へ戻せ」
そう命じたノヴァルナは思考を巡らせる眼をして、司令官席の背もたれに上体を沈める。
分からねぇ―――
傭兵団の最高評議会とか言う連中は、何を考えてやがる…と、指先で顎を撫でながらノヴァルナは思う。
先程のハノーヴァとの問答では、“答えられない”という回答しか得られなかったが、それは即ち、“答えられない理由がある”という事を示している。つまりそれは、こちらの質問に対して、全て“イエス”と言っているのと同じだ。
だが釈然としないのは、なぜキヨウとミョルジ家を見捨てるような判断を、行ったのか…という点である。
アン・キー宙域で、より利益を上げられる契約があったとしても、ミョルジ家との契約を切る必要は無いはずだ。現にハノーヴァは、“アン・キー宙域へ戦力を回しても、まだ余力はある”という趣旨の発言を、していたではないか。
“連中…本当に営利目的の、傭兵組織なのか?”
『アクレイド傭兵団』には、何か裏に真の姿が存在するような気がしてならないのが、ノヴァルナの今の思いであった。そしてまず思い当たるのがやはりあの、ムツルー宙域に繋がる超空間ネゲントロピーコイルである。『グラン・ザレス宙運』や『ラグネリス・ニューワールド』といった企業を隠れ蓑にしているが、あれを建造したのは、『アクレイド傭兵団』である事は間違いない。
「まったく…ヒヤヒヤしたわね」
背後から聞こえたノアの声に、我に返ったノヴァルナは司令官席を回転させて、後ろに振り返った。そこにはサイドゥ家の暗赤色の女性用軍装を着た、ノアが立っている。状況が一段落したため、私室からやって来たようだ。
「おう。ありゃあ、ヤバいな」
ノアに対しては強がりもせず、本音を言うノヴァルナ。その間に『アクレイド傭兵団中央本営艦隊』は、完全に戦闘領域から離脱した。
「あんなのと撃ち合ってたら、命が幾つあっても、足りゃしねぇトコだったぜ」
ノアに苦笑いを向けるノヴァルナ。すると『アクレイド傭兵団』の総旗艦『ヴォルガ・アクレイダス』のデータを解析していた、オペレーターの一団がざわつき始める。それを訝しげに思ったノヴァルナは、傍らに控える副官役の、ラン・マリュウ=フォレスタに目配せをする。
これを受けてランは、ざわつくオペレーター達のもとへ赴いて、その理由を問い質し、ノヴァルナの所に帰って来た。
「あいつら、何を話してるんだ?」
先に質問するノヴァルナに、「はい」と応じたランは答える。
「傭兵団の総旗艦をスキャニングした結果なのですが…どうやら、主砲が二種類装備されているようです」
「なに?」
ランはオペレーターに解析データを拡大させ、艦橋中央に展開されている大型ホログラムスクリーンへ転送を指示する。すぐさま『ヴォルガ・アクレイダス』の立体映像と、解析情報が映し出された。
「これを…傭兵団総旗艦の主砲は、この通り二十四基ありますが、どうやらその中の六基が…」
「六基が…どうした?」
語尾を濁すランに先を促すノヴァルナ。ランはオペレーターに振り向いて、情報を再確認したのち、結論を口にする。
「この六基は、超空間狙撃砲…『ディメンション・ストライカー』のように、思われます。しかもノヴァルナ様がハノーヴァなる人物との会談中、この『ヒテン』の艦橋に照準を定めていた形跡があります」
「!!…」
ランの驚くべき言葉に、参謀長のメヒル=デッカーをはじめとする誰しもが、表情を凍てつかせた。要はノヴァルナとハノーヴァの会談の雲行きによって、『ディメンション・ストライカー』の砲弾が、『ヒテン』の艦橋を直撃していたという事だ。ところがこれを聞いたノヴァルナは、割れんばかりの声で高笑いした。
「アーッハハハハハ!!!!」
夫を知るノアが肩をすくめる横で、ノヴァルナは愉悦の表情で言い放つ。
「面白れーじゃねーか。やっぱ、そう来なくちゃなぁ!!」
ノヴァルナが発する高笑いにノアが呆れた顔をしている一方、会談を終えた『アクレイド傭兵団』のバルハート=ハノーヴァは、傭兵団総旗艦『ヴォルガ・アクレイダス』とホログラム通信を行っていた。
コバルトブルーの間接照明が床から光を放つ薄暗がりの中、リング状の円卓に七名の人影が座る。右から三番目の位置が一人分空いているところから、本来ならそこがハノーヴァの着くべき席なのかもしれない。
さらにその円卓のリングの中には、五角形のテーブルと座席があり、フード付きローブを着た人物が座っていた。
「ノヴァルナ・ダン=ウォーダとの会見…概ね、満足のいくものであった」
内側の五角形の席に着く人影の中の一人が、しわがれた声で告げる。
「ありがとうございます」
そう言って頭を下げるハノーヴァ。
「これで我等の計画は、次のフェーズへ移行した」
五人の中の、別の人影が告げる。これに対し、ハノーヴァは尋ねた。
「ですがミョルジ家とエルヴィス…本当に宜しいのですか?」
「構わぬ。あれらは所詮ここまでの手駒。因果律の調整を終えた以上、あとは“双極宇宙”の流れの通りとなろう」
最初に発言したローブの男が言葉を返すと、ハノーヴァは恭しく頭を下げる。
「全ては“五賢聖”の決定のままに…」
「うむ…では次の因果律調整点に達するまで、待機とする。艦隊針路をアン・キー宙域へ向けよ」
やがて『アクレイド傭兵団』中央本営艦隊の前方の宇宙空間に、統制DFドライヴのための、超巨大なワームホールが出現した。次々と超空間転移を開始する、黒色の大艦隊。さらに謎を深め、“五賢聖”と最高評議会を乗せた『ヴォルガ・アクレイダス』は、時空の狭間に姿を消して行った………
▶#09につづく
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