銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

文字の大きさ
209 / 526
第8話:皇都への暗夜行路

#18

しおりを挟む
 
 ハーヴェンが言った通り、状況は常に流動的だ。

 双方がBSIユニットなどの小型機動兵器の発進を控えたため、戦闘は純粋な艦隊戦となった。となると機動力を生かして戦場を駆け回るのは、宙雷戦隊の軽巡航艦とそれに従う駆逐艦である。両軍の宙雷戦隊の働きぶりが、戦場を流動的にさせる事になる。

 ヒルザードが告げたように、敵将トゥールス=イヴァーネルは確かに戦巧者ではあった。ウォーダ軍のBSI部隊は練度が高く、特にカーナル・サンザー=フォレスタ率いる空母打撃群の第6艦隊は、おそらく戦闘力でイヴァーネル艦隊のBSI部隊を圧倒するだろう。そこでイヴァーネルは戦場を、小型機動兵器が使い難い主恒星ナグオッグの近郊…電磁波の強力なエリアに選択したのである。

 しかしウォーダ軍の数的優位は揺るがない。そしてその差をさらに広げるのが、士気の高さであった。ここでも元『ホロウシュ』のナルマルザ=ササーラが指揮を執る第2宙雷戦隊、ヨリューダッカ=ハッチが指揮を執る第6宙雷戦隊が、出色の働きを見せる。

「前方より敵宙雷戦隊、急速接近!」

 オペレーターの報告にササーラは、闘志を漲らせた双眸で命じた。

「敵宙雷戦隊との航過間隔をもっと詰めろ。真正面、ぶつけるつもりで行け! いいや、本当にぶつけて構わん!!」

 旗艦を先頭にした十四隻で、一本棒の縦隊となった宙雷戦隊同士が、正面から向き合って突っ込んで行く。まるでチキンレースそのものだ。そして双方の兵の士気が、勝負の行方を決定する場面である。ササーラの2宙戦と正対した、ミョルジ軍宙雷戦隊司令官も旗艦上で叫ぶ。

「突撃。怯むな、突撃だぁ!」

 一気に詰まる双方の距離。眼前に迫る敵の先頭艦。互いに主砲が発射され、艦腹を覆うエネルギーシールドを掠めたビームが、激しくスパークする。次の瞬間、先に舵を切ったのは、ミョルジ軍の旗艦だった。

「駄目だっ、ぶつかる!!!!」

 右へ針路を逸らすミョルジ軍旗艦。そのあとに続く十三隻。ミョルジ軍旗艦がいた位置を、ガロム星人の厳つい笑顔で仁王立ちのササーラを乗せた、第2宙雷戦旗艦『ファム・バンサー』が突き進んで行く。すれ違いざまに、ほぼゼロ距離から叩き込まれる砲撃に、ミョルジ軍宙雷戦隊は大きな損害を出した。

 しかも、ミョルジ軍宙雷戦隊が回避した先に待ち受けていたのが、ヨリューダッカ=ハッチの第6宙雷戦隊だ。ハッチはミョルジ軍の戦隊がササーラ隊との“チキンレース”に敗北する事を予想し、射撃準備を終えて待ち構えていたのである。
 
「ササーラのおっさんなら、チキンレースに勝つと思ったぜ。全艦攻撃開始!」

 ササーラはまだ“おっさん”と呼ばれるには、些か早すぎる歳ではある。この場合、口の悪いハッチにとってはむしろ、ササーラへの友誼を示す言葉であった。
 急速回避と被弾で隊列が乱れたミョルジ軍宙雷戦隊へ、ハッチの6宙戦が襲い掛かる。四隻の軽巡航艦からの猛砲撃に、ミョルジ側の旗艦は大破し、動力も停止して慣性で宇宙を漂い始める。その先にあるのは主恒星ナグオッグだ。これを見た残りの艦は士気の低さが露呈、散り散りに逃走を図った。

 ハッチの6宙戦は、それら個々の敵艦に砲撃を行いながらも、艦列を乱す事無く大きく上昇を開始する。その進行方向ではササーラの第2宙雷戦隊が、新たな敵の宙雷戦隊と左方向に同航戦を行っていた。これの支援に向かおうというのだ。

 ただ実際にはここでもすでに、ササーラの方が優勢に砲撃戦を進めている。

 単縦陣を組んだ二つの宙雷戦隊が、螺旋を描きながら撃ち合いを演じる様子は、まさに“死の円舞”である。軽巡や駆逐艦は主砲の発射間隔も短い。つまり多くの主砲ビームを撃ち込んだ方が勝ちだ。近い性能を持ったウォーダ軍とミョルジ軍の艦ではあるが、士気と練度で優位に立つササーラ戦隊に、ミョルジ軍の宙雷戦隊はエネルギーシールドを撃ち抜かれ、外殻を抉られ、艦上構造物を破壊されてゆく。

 これに耐え切れなくなったミョルジ軍宙雷戦隊が、ササーラ戦隊から離脱しようとしたところへ、ハッチ指揮下の6宙戦が一直線に突撃して来た。

「主砲、全砲門開け。対艦誘導弾も使用を許可!」

 ハッチの命令で仕掛けた第一撃により、二隻の軽巡航艦と四隻の駆逐艦が、甚大な損害を被って撤退を開始する。残る六隻は反撃を試みたが、立ち向かおうとしたところへ多数の対艦誘導弾が殺到。次々に撃破された。

「よし。やったぜ!」

 この光景に、ガッツポーズをするハッチ。そこにササーラから直接通信が入る。

「こら横着者! 俺の獲物を、二度も掠め取りおって!」

「人聞き悪いッスねぇ。連携ってやつッスよぉ!」

 元『ホロウシュ』のよしみで、馴れた口を利き合う二人。

「だったら今度は、貴様が先に仕掛けていけ!」

「へいへい」

 無駄話はともかく、二人の指揮する宙雷戦隊の活躍が、戦況に功を奏したのは確かであった。ミョルジ艦隊の陣形に穴が開いたからである。そしてこの間隙の発生を見逃さなかったのが、キノッサの参謀長ハーヴェンだった。

「キノッサ様。好機到来と見ます」



▶#19につづく
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...