銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第8話:皇都への暗夜行路

#19

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「好機到来ッスか!?」

 少し半信半疑気味に問い掛けるキノッサに、ハーヴェンは「はい」と応じ、艦橋中央の大型戦術状況ホログラムを指さす。NNLでリンクした指の動きで、ホログラム内に表示されたミョルジ軍宇宙艦隊の陣形の一箇所が、“○”で囲まれた。そこでは、敵の重巡戦隊の一部が針路を変更し始めている。

「ここに、攻撃を集中させましょう」

 ハーヴェンは落ち着き払って意見具申した。それを聞いたキノッサは指定された箇所を見詰めると、何かに気付いた眼になる。

「なるほど! 敵のこの動き、ササーラ殿とハッチ殿の宙雷戦隊を叩こうと、針路を変えてるッスな!?」

「さようです」

 ハーヴェンが指摘したのは、ササーラの2宙戦とハッチの6宙戦の連携攻撃で、自軍の宙雷戦隊群に座視できない損害が出始めた事に対し、ミョルジ軍の重巡部隊が援護を開始した動きに対してであった。敵司令部からの命令なのか、戦隊独自の判断なのかは不明だが、ミョルジ軍の陣形に必要以上の、“穴”が開いたように思える。即座に命令を発するキノッサ。

「戦隊針路285マイナス14。軍師殿の指定した個所へ、砲撃を行いつつ最大戦速。抜け駆けにならないよう、司令部への伝達もしとくッス!」

 言い終えるか終えないかのうちに、キノッサの乗る旗艦『ヘイルヴェルン』が、針路を変えながら加速を開始する。練度の高さを示す艦の反応だ。これも含めて、ハーヴェンは満足げに頷いた。
 キノッサの即応も悪くない。きっかけさえ掴めば正しい判断も出来る。必要なのは場数を踏む事だろう。そしてこれを補うために練度の高い…悪くいえば、戦隊司令官は置物であっても構わない部隊の、司令官に据えられたのだ。

 ただ侮れないのはやはり、隣に配置されているミディルツの第12戦隊である。向こうもこちらと間を置かずに、同じ動きを始めた。つまりこちらの動きを見たのではなく、独自の判断で同じ行動を開始したという事だ。競争相手に相応しいとも言える。

「この際、魚雷も使いましょう」

 さらに進言するハーヴェン。

「使ってしまっていいッスか?」

 戦艦など自分より巨大な敵艦を仕留めるために、温存しておきたいのが宇宙魚雷だった。ササーラ達の宙雷戦隊同士の戦闘でも、使用されてはいない。迷いを見せるキノッサに、ハーヴェンは明確に助言した。

「戦艦数で劣る向こうは、重巡でそれを補おうとするはずです。今回の戦いでは、その重巡を仕留めておく事も肝要。使うべきです」
 
 ハーヴェンが言いたい事は、キノッサにもすぐに伝わったようである。この辺りも飲み込みが早い。

「艦隊戦は攻城戦以上に、臨機応変が必要って事ッスな。わかったッス!」

 そう言って頷いたキノッサは、追加命令を下す。

「全艦雷撃戦用意。敵重巡戦隊に肉迫して、雷撃するッス!」

 旗艦『ヘイルヴェルン』を含む第13戦隊六隻の重巡は、やや斜めに並んだ傾斜陣を組んで突撃を開始した。すると右舷側を行くミディルツの第12戦隊も、逆向きの傾斜陣を組んで前進し始める。つまり両重巡戦隊で、雁行陣形が完成したわけである。広範囲射撃も可能な突撃向きの陣形だ。ライバル関係ながら打ち合わせも無しに、このような息の合わせ方が出来るのは、将兵の高い練度と士気、そして勝利に向けた意識付けが、しっかりとしているからだ。

「合わせて来るとは、やりますね…アルケティ殿」

 第12戦隊の動きに、ハーヴェンはむしろ苦笑いを浮かべる。ミディルツ・ヒュウム=アルケティは、キノッサより十歳以上年長だけあって、指揮ぶりも巧妙だった。キノッサにとっての、この差を埋めるのが自分の役目なのだ…と、ハーヴェンは改めて思う。

 そこから雁行陣形を取った二つの重巡戦隊は、回頭を開始していたミョルジ側の重巡部隊の、横合いを痛撃した。慌てて針路変更を中止、応戦し始める敵重巡。だが機先を制された状態で、立て直しは難しい。爆発光が次々と輝き、ミョルジ側重巡部隊の隊列が大きく乱れる。こうなると機を見るに敏なキノッサに、余計なアドバイスは無用だ。

「全艦、魚雷発射ッス!」

 艦橋に魚雷発射の震動が僅かに伝わり、キノッサ隊の各重巡が、三本ずつの宇宙魚雷を撃ち出した。ただ隣を行くミディルツの第12戦隊は、まだ魚雷を撃たずに前進を続けている。
 敵の重巡も魚雷を撃ち返して来た。向こうも躊躇っている場合ではない、と判断したのだろう。しかも向こうは一挙に、全ての魚雷を発射したようだ。百本近い魚雷が向かって来た。すれ違う双方の宇宙魚雷。キノッサが強い口調で命じる。

「敵魚雷を迎撃しつつ回避ッス!」

 その直後である。ミディルツの第12戦隊が宇宙魚雷を全弾発射した。しかも第12戦隊が放った宇宙魚雷の目標は、敵艦ではなく、敵が撃って来た宇宙魚雷だ。コストパフォーマンス的に、通常なら考えられない事であった。これにはハーヴェンも舌を巻いた。

「これは大胆な事をなさる!」




▶#20につづく
 
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