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第8話:皇都への暗夜行路
#20
しおりを挟む宇宙魚雷には自律機能があり、目標からの迎撃を自己の判断で行うため、撃破に苦労するのが常である。だが宇宙魚雷同士となると話は別だ。裏の裏を読んだ挙句に、正面から激突するもの。追いかけ合いを演じながら、あらぬ方向へ飛んでいくもの。そして動きに隙が生じて、重巡からの迎撃で爆発するものなどが続出した。そのおかげでキノッサ戦隊にも、ミディルツ戦隊にも被弾した艦はない。
それでもやはり貴重な宇宙魚雷を、敵の宇宙魚雷の迎撃に使用するとなると、思い切った決断力が必要となる。ハーヴェンはミディルツに対して、これは認識を改めるべき点だと感じた。ミディルツ・ヒュウム=アルケティは、極めて理論的な人間である反面、このような思い切った行動を取る場合もあるようだ。これが彼にとって光の部分となるか、闇の部分となるかは、今はまだ計り知れないが…
そして丁度そこに、ミディルツから通信が入る。
「キノッサ殿。敵の魚雷は我が隊に任せ、キノッサ殿は敵の重巡部隊を!」
これを聞いて「かしこまりッス!」と陽気に応じる、キノッサの朗らかさがハーヴェンには眩しい。
「残りの魚雷を全弾発射。勝負をつける時ッス!」
ササーラとハッチ、そしてキノッサとミディルツの、このような一連の動きは総旗艦『ヒテン』でも確認されていた。司令官席に座る仮面のノヴァルナ傍らに立つ、ヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガが感心したように言う。
「ううむ…流石はノヴァルナ様直卒の、第1艦隊ですな。重巡戦隊や末端の宙雷戦隊まで、動きが実にいい」
戦術状況ホログラムに映し出される戦況は、ササーラとハッチの宙雷戦隊の果敢な攻撃に釣り出された、ミョルジ側の重巡戦隊が、キノッサとミディルツの戦隊から横撃を受けて、崩壊を始めていた。
「戦上手の貴殿にそう言われると、悪い気はしないものだ―――」
ノヴァルナはヒルザードにそう応じてから、次は自分の番だとばかりに、各艦隊へ下令する。
「キノッサとミディルツの部隊を引かせよ。全ての艦隊の戦艦は、敵の陣形に生じた綻びに射撃を集中。楔を打ち込んで分断するんだ」
これを受けてウォーダ軍七個艦隊の戦艦が、ミョルジ軍の一箇所に砲撃を集め始めた。想定以上の火力を浴びせられ、攻撃箇所にいた戦艦や重巡は、たちまち大きなダメージを喰らって恐慌に陥る。無論、ミョルジ軍も反撃はして来るのだが、ただ撃ち返しているだけ、のようなものである。
一方このような状況でも、ミョルジ側の司令官イヴァーネルは諦めてはいなかった。相当数の損害が出る事は織り込み済みで、自軍全体を第一惑星方向へ移動させているのには理由がある。ウォーダ軍をあくまでも、第四惑星ショーリュジンの周囲に浮かぶ、要塞主砲級ブラストキャノン衛星の射界に引き込もうという、執念がそれだ。逆に言えば、それ以外に勝機は無いという事ではあるが。
「このまま第一惑星の陰へ入れ。敵が追って来たところへ、第四惑星から砲撃を加えるんだ!」
イヴァーネルは自軍が敗北しつつあるのも、利用するつもりだった。演技ではなく本当に敗走している方が、ウォーダ艦隊をブラストキャノン衛星の射界に引き込み易いと、考えたからである。
「艦隊損耗率二十六パーセント。戦艦にも大きな被害が出始めています!」
艦隊参謀の報告に、イヴァーネルは苦々しげに問う。
「ブラストキャノン衛星の砲撃はまだか?」
「射界に入るまで四分」
参謀が返答するその間にも、イヴァーネルの座乗する旗艦の傍らを、ウォーダ軍の放ったビームが繰り返し横切って行く。そして爆発の閃光。右舷上方を航行していた軽巡航艦が砕け散ったのだ。
「ショーリュジン城から射撃開始の連絡があれば、すぐに最大戦速に加速して、同士討ちを回避するように、全艦に―――」
その時であった。当のショーリュジン城から緊急連絡が入る。
「大変です。ブラストキャノン衛星が破壊されました!」
「なに!?」
凶報にイヴァーネルの顔は一気に青ざめた。
「どういう事だ? 距離的に敵の別動隊は、まだショーリュジンに到着していないはずだぞ」
「はっ! それが、敵別動隊の一部がさらに分離。快速艦で編成されたと思われるその一部が、先行してショーリュジンに到達。さらに敵先行隊から、BSI部隊が発進。予想より早く攻撃を受けたようです」
「馬鹿な!」
するとそこへ、ショーリュジン城から驚くべき続報が届く。敵先行部隊から発進したBSI部隊の中に、ノヴァルナのBSHOがいるというのだ。これを聞いたイヴァーネルは、唖然としてモニターに映るウォーダ軍総旗艦の、『ヒテン』を見据えて呟く。
「あれで指揮を執っているのは、ノヴァルナではなかったのか!?」
その言葉が届いたわけでは無かろうが、『ヒテン』の司令官席に座る仮面のノヴァルナは、僅かに身じろぎをした………
▶#21につづく
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