銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第9話:魔境の星

#25

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 振り返ること、皇国暦1589年のムツルー宙域は惑星アデロン。恒星間マフィアが牛耳るこの星から脱出するため、ノヴァルナとノアは強力麻薬“ボヌーク”の精製工場に潜り込んだ。
 そしてそこで見たものは、支給される僅かばかりの“ボヌーク”を求め、ボロ雑巾のようになってまで働く、老若男女の姿であった。精製装置の傍ら、そして通路の各所には、“ボヌーク”に体を蝕まれ廃人同然となった中毒者が、幾人も放置されていたのである。

「くそ…」

 その時の光景を思い出して、ノヴァルナは小さく毒づいた。致し方なかったとは言え、何の救いの手も差し伸べられなかった事が、歯痒さを蘇らせたのだ。そんなノヴァルナの心情を知ってか知らずか、ノアが静かな声で促す。

「行きましょう。ノヴァルナ」

 さらに農園に隣接した区画は、宇宙船の離着陸床が設けられており、地上から二十メートル程の高さに、約三百メートル四方のプラットフォームが建設され、三隻の貨物船らしき宇宙船が上に乗っているのが見えた。おそらくこの惑星ジュマに来る途中で、ノヴァルナらが遭遇しそうになった三隻だろう。三隻はこちらに向けて船尾を向けており、ここからはどのような船かは分からない。もっと近付けば色々と得られる情報もあるはずだ。



 ヤスーク少年の先導でノヴァルナ達は窪地を底まで降り、『アクレイド傭兵団』の秘密施設へ向かった。周囲を断崖に囲まれたクレーターの内側は、風もなくて非常に蒸し暑い。そのような環境の密林を、平然と進むヤスーク少年と対照的に、ノヴァルナ達はすでにバテバテである。

「キンキンに冷えたビールが、飲みてーなぁ…」

「下戸のくせに、なに言ってんの…」

 などと些か精彩を欠いた冗談を交わし、一時間以上を掛けて、ノヴァルナ達は農園の近くまで到達した。距離は農園の端から約二百メートル。やはり植えられているのはボヌリスマオウである。だがノヴァルナとノアが、惑星パグナック・ムシュで見たものとは葉の形状が違っており、やや幅が広い。こちらが原生種ということか。

 地下にあるという『アクレイド傭兵団』の主要施設は、農園を隔てたクレーターの壁面に開いている、洞窟が入り口になっている。偵察に出たカーズマルスとその部下が、帰って来て報告したところでは、農園の周囲はやはり、エネルギーシールドが展開されているようだ。その一方、警戒システムは動体センサーが等間隔で配置されているだけの、レベルの低いものだった。これらの状況から、カーズマルスは意見を述べた。

「宇宙船の離着陸床の脇から回り込んで、洞窟に入る事が可能だと思われます」
 
 さらにカーズマルスが報告したところでは、農園を囲むエネルギーシールドは、壁状に張られているのではなく、等間隔に地中に埋められた発生装置から、直径が二メートル近いエネルギービームが格子状に上へ伸びているようだ。その高さは五十メートルぐらい。ビームとビームの間隔は三メートルほどもあり、人間は通り抜けられる幅で、おそらく大型の“怪獣”用だろう。

 そしてそのビーム格子の向こう側には、高さが六メートル程度の網状の金属フェンスが張られ、隙間なく農園を囲んでいた。カーズマルスの行ったスキャナー解析の反応では、高圧電流が流されているらしい。こちらは小型の“怪獣”用だと思われる。

「上のプラットフォームにいる貨物船が、アヴァージ星系に向かう船なのかどうかを、まず確認せねばなりませんな」

 密林の中から農園の様子を窺いながら、テン=カイが意見する。この惑星ジュマから、バイオノイド:エルヴィスがいるアヴァージ星系までは、相手側の船に忍び込んで向かう予定だが、いま離着陸床に降りている三隻が、それであるかは不明であった。ノヴァルナも異存はなく、むしろ楽観視はしていない。

「三隻ってのが、気に掛かるな。エルヴィスの生体部品を運ぶのに、貨物船が三隻もは必要ねぇだろ」

「確かにそうね。何か他に目的がある船かも」

 ノアもノヴァルナの見解に同意する。そこにガンザザが加わって来た。

「それよか、まずどうやって、この中に入るかだろ?…ビームの格子をすり抜けるのは容易いが、その向こうの、電気が流れてるフェンスは厄介だぞ」

 頷いたノヴァルナは、カーズマルスに振り向いて尋ねる。

「カーズマルス。ここの警戒用の動体センサーは、無効化できるか?」

「はっ。民間レベルのものですので、雑作もないかと」

「よし、すぐやってくれ。無効化が完了したらもっと接近して、入れる場所が無いか確かめよう」

 カーズマルスの言葉通り、動体センサーの無効化には三十分も掛からなかった。ただ、近くからボヌリスマオウ農園の周囲を回っても、フェンスに入れるような場所は見つからない。

「こうなったら、この金網を破るしかないが…」

 そう言ったのはガンザザだ。しかし語尾を濁すのと合わせて、その右手が頭を掻くのは、フェンスを破ろうにも、高圧電流が流れているという事実を無視してはいない事を物語っている。するとそこへ、手分けしてフェンスの調査を行っていた、カーズマルスの部下から通信が入る。

「タ・キーガー様。このフェンスの制御盤らしきものを、発見致しました」

 これを聴いたカーズマルスは、ノヴァルナが頷くのを見ると、「わかった。そちらへ向かう」と応答した。




▶#26につづく
 
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