銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第9話:魔境の星

#26

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 報告をして来た二人組の陸戦隊員のもとへ着くと、その通り、離着陸床を支える十八本の太い金属柱のうち、一本の根元に制御盤らしきものがある。メインではなく非常用の予備制御盤だろう。しかしその位置はノヴァルナ達とは、フェンスを挟んだ向こう側であった。

「こりゃあ、駄目だな。中に入るために電流を切ろうってのに、その制御盤が向こうじゃ、本末転倒ってやつだ」

 ガンザザが高いフェンスのてっぺんを見上げて、ぶっきらぼうに言う。この位置から見えるフェンスの片隅には、非常用出入口の扉が取り付けてあったが、いずれにせよ電源を落とさねば、開けて入りようもない。

「仕方ねぇ、カーズマルス。掘るか」

 突っ立っていても仕方がない。ノヴァルナはフェンスの下の地面を掘って、内部へ入る事を考えた。だがカーズマルスは、乗り気ではなさそうである。

「お言葉ですが、動体センサーを無効化しているとはいえ、一箇所に長く留まる事はおすすめ出来ません。それにエネルギービームの間での作業は、危険が伴うので人数を掛けられないかと」

 “大型怪獣”用の格子状エネルギービームの間隔は約三メートル。それだけしかない幅の中で作業するとなると、ギリギリでも二人が限界だろう。万が一ビームに触れでもすれば、出力からして一瞬で体が蒸発してしまうに違いない。だがノヴァルナの方も、ゆっくりしている余裕はない。

「…っても、のんびり考えてるヒマもねーぞ」

 するとそこに、意外な人物から問い掛けがあった。ヤスーク少年だ。

「あの向こう側へ、行けばいいのかい?」

 何か考えがありそうな態度のヤスークに、ノアが尋ねる。

「そうだけど…どうかしたの?」

「僕なら行けると思うよ。あの塀を飛び越えればいいんでしょ?」

「え?…」

 簡単に言うヤスークだが、前述の通り、高圧電流が流れているフェンスは、高さが六メートルはある。反重力飛行ユニットでも用意していなければ、越えられない高さだ。

「どうする気だ?」

 問い質すノヴァルナにヤスークは、右へ四分の三周して指をさした。

「あれを使うんだよ」

 そこにあったのは、竹に似た未知の植物の小さな薮であった。上へ向けて真っ直ぐに伸びた幹は、竹と同じような節があるが、その間隔は竹よりもかなり長い。その植物の形状を見てノヴァルナは察した。

「なるほど棒高跳びってワケか」

 身体能力を向上させた“強化奴隷”のヤスークならば、確かにフェンスを飛び越えられる可能性もある。だがそれでも高さが六メートルともなると、国家同士が競うようなレベルのかなり高い体育大会で、優勝するぐらいの能力が必要となるはずであった。
 
「よし。やってみろ!」

 即答で許可を出すノヴァルナに、ノアが「ちょっと!」と声を掛ける。

「フェンスには高圧電流が流れているのよ。そんなあっさりと“やってみろ”だなんて!」

「自信あっから、言ってんだろ?」

 ノヴァルナが振り向いて確認すると、ヤスークは頷いて言葉を返した。

「うん。追いかけて来る“ラウザンド”から逃げる時と同じ要領だよ。いつもやってるから、大丈夫」

 ヤスークの言う“ラウザンド”がどんな生き物かは不明だが、その生き物からの逃走方法は、棒高跳びを応用したものが有効らしい。普段からやっている事なら、上手くやれる可能性は高い。

「…て事だ。ノア。ここはやらせてみようぜ」

 ノヴァルナの言葉にノアは、“仕方ない…”といった表情で、ヤスークに「無理はしないでね」と声を掛けた。跳躍の決定だ。



 ヤスークがポールとして手頃なサイズの“竹”を選ぶと、カーズマルスが密林を切り開くために使っているナタで、それを切り倒した。さらに枝を打ち払い、長さを調整する。
 一方で落下時の衝撃を吸収するために、テントなどが詰められている陸戦隊員のバックパックに、他のバックパックに入っていたテントも複数枚追加し、間に合わせのクッションとした。ヤスークの話では、“ラウザンド”なる生き物に追われている時は、湿地でジャンプして水草の密生箇所に飛び降りていたとかで、今回の湿地ではない通常の地面への着地時の衝撃を、考えていなかったからだ。

 この失念を踏まえて、“本当に大丈夫なんでしょうね?…”と言いたげな眼を向けるノアを背後に、バツの悪さを隠すためか、ノヴァルナは変に陽気な声を出す。

「よぉーし、いってみよぉーーー!!!!」

 木々の間を、直線距離で五十メートル近く助走する事が出来る箇所を探し、準備は整った。ヤスークは即席ポールを体を右に開いて両手に握り、フェンスに向かって些か不意に走り始める。タイミングは任せているとはいえ、突然だ。
 フェンスの直前でポールの先端を地面に突き立て、ポールのしなりを利用して、一気に体を浮き上がらせる。
 ぐんぐんと宙を駆け上がったヤスークの頂点は、フェンスの最上部を越えた。そこから体を捻ってフェンスの内側へ、ポールが高圧電流を帯びたフェンスに触れぬよう、指先に力を込めて突き放す。
 次の刹那、跳躍に成功したヤスークは、クッション代わりのテントが大量に詰められた、バックパックから地面に落下したのであった。




▶#27につづく
 
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