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第10話:シンギュラリティ・プラネット
#04
しおりを挟む高速クルーザーの船尾に回り込んだノヴァルナ達は、汎用アンドロイド達が船体の外殻チェックを終えるのを待って、『スランベル』型の特徴である双胴―――紡錘上の船体が横に二つ並んだ形状の、接合部に潜り込む。接合部の金属フレームは格子状となった箇所が多く、身を潜めやすい構造となっていたからだ。その頃にはクルーザーを載せたプラットフォームの一部は、開かれた大扉を潜り抜けていた。
すると奥へ進むクルーザーと入れ違いに、外へ向かう一団の声が聞こえて来る。昼間にも見たピーグル星人のドン・マグード達、宇宙マフィアの一団だ。『アクレイド傭兵団』のメンバーも何人かいるらしく、銀河皇国の公用語とピーグル語が混じっていた。
「マシッド・シュハ! このまま残りのコンテナを、積んでくれるんだろうな?」
「心配しなくていい、ドン・マグード。あんたらの言葉で言う“クハッシュ・メッハ・シェム!”…二言はないってヤツだ。明日の朝には出発できる」
「わかった。おい、オーガー。ラハシェス・ムシュ・アッハ・ロハッシェ!」
「アハシュ・ドンマグートシェ」
すれ違いざまに聞こえた会話の中身からすると、昼間揉めそうになっていた積み込みが遅れる話は、このまま夜の間に積み込みを行う事で、話がついたようだ。つまりノヴァルナが、“改良ボヌリスマオウの種子”のムツルー宙域への輸送を、阻止するつもりなら、それは明日の朝が期限だという事になる。
洞窟内部に進んだ高速クルーザーは、さらにプラットフォームの一部ごと斜面を降りていく。接合部のフレームの間から、ノヴァルナは洞窟内部を見渡した。そこは円形の空間で、想像していたより広い。掘削した跡がほとんどない事から、天然の巨大地下空洞だったのだろう。所々に点灯している照明が無数の太いパイプや、複雑に入り組んだ工務部、管理棟などを照らし出し、まるで夜の工業プラントを想起させる。
降下の速度が落ちて来ると、移動方向を監視していたカーズマルスがノヴァルナ達を振り返り、下を指さして“降りましょう”と合図をした。クルーザーの到着先と思われるハンガーデッキで、多くの人員が待ち構えているのが見て取れたのだ。本格的な船体チェックと整備を行うためで、このまま潜んでいれば、発見されるのは間違いない。カレンガミノ姉妹、ノア、ノヴァルナ、ヤスーク、そしてカーズマルスの順に、音を立てずにクルーザーの接合部から降り、スライドを続けるプラットフォームの一部から、それを移動させているレールの下へと滑り込む。
こういった施設は、人員の配置が極端になる。レールの隙間を抜けて斜面の裏側へ出ると、そこは人の気配が全くしない。最後尾のカーズマルスが床に降り立ったのとほぼ同時に、斜面の向こう側で高速クルーザーを乗せたプラットフォームの一部が、ハンガーデッキに到着した事を示す大きな音が、ガコンと響いて来た。
仕事が早いカレンガミノ姉妹は、その時にはすでに施設の端末ポートで、自分達の軍用データパッドを接続し、ハッキングに取り掛かっている。能力的には並みの特殊部隊以上の二人であるから、施設の構造図面や警備システムの情報を入手するなど雑作も無い。
ノヴァルナ達のもとへ戻って来た姉妹は、ハッキングした情報をNNLを介さずに、有線接続でノヴァルナとカーズマルスのデータパッドに転送した。
構造図面によると洞窟内の施設はやはり円形をしており、クルーザーなどのサイズの宇宙船に整備や補給を行うハンガーデッキを中心に、動力炉や指令室、工作区画や居住区画などが取り巻いているらしい。
「制圧目標は、動力炉の制御室…ここだ」
データパッドの画面上に浮かんだ、3Dホログラムの構造図面の該当箇所を指さして、ノヴァルナが確認の言葉を口にする。
「制圧までは気付かれないように、注意が必要ね」
ノアの言葉にノヴァルナは頷いた。制圧目標を動力炉制御室に定めたのは、入手した施設の情報を解析した結果、動力炉の制御室は人員の配置が少ないうえに、各システムの非常用電源と、サブコントロールが設置されているからである。
「カーズマルス。外の別動隊に、すぐに連絡できるようにしておいてくれ」
「了解です」
別動隊とは施設の外で待機している、テン=カイ達の事だ。ノヴァルナが「よっしゃ、行こうぜ」と控え目な声で号令すると、彼と彼に従う五人は、ひっそりと行動を再開した。
解析したデータを見れば、人員の配置が為されていないコースを、通って行く事も容易だ。一行は非常用梯子を登り、工務区画内部の最上部に出る。中空を貫く細い整備用通路を進み、二つ、三つと扉を抜けると、十基の透明な大型シリンダーが二列に並んだ部屋に入った。
シリンダー内は緑色の光を帯びた液体で満たされており、その中の二基には白っぽい何かの塊が、もやもやと真ん中辺りに浮かんでいる。
“ここがエルヴィスの、生体組織培養区画…ってワケか”
シリンダーの発する緑色の光に顔を照らされ、ノヴァルナは胸の内で呟いた。ここがエルヴィスの命を繋ぐ、移植用生体組織の培養装置らしい。
▶#05につづく
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