銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第12話:天下の駆け引き

#10

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 皇国暦1563年8月10日。二週間のオウ・ルミル宙域巡察から、キヨウへ帰還したノヴァルナは、巡察に使用した第1特務艦隊旗艦『クォルガルード』から、総旗艦『ヒテン』へと移動した。
 今回のオウ・ルミル宙域巡察は、自分の領地であるミノネリラ宙域と、皇都惑星キヨウを有するヤヴァルト宙域との、今後の連絡路の接続を考える上で、重要となる情報を収集するのが目的であり、ノヴァルナが陣頭指揮を執っていた事からも、その本気度が窺い知れる。

 全長約七百メートルの巨体を虚空に浮かべる、ウォーダ軍総旗艦『ヒテン』。その視界の下方には、青い海と白い雲が幾何学模様を描く、皇都惑星キヨウのなだらかな球面が広がっていた。
 艦を覆うエネルギーシールドが真空状態を防いでいる、開放状態の『ヒテン』のシャトルベイでは、宇宙空間に停泊する戦闘輸送艦『クォルガルード』を視界の隅に置き、出迎えのメンバーがシャトルから降りて来たノヴァルナに頭を下げる。

「お帰りなさいませ」

 メンバーを代表して声を掛けたのは、仮面の武将ヴァルミス・ナベラ=ウォーダだった。他にナルガヒルデ=ニーワス、カッツ・ゴーンロッグ=シルバータ、リーンテーツ=イナルヴァ、ミディルツ・ヒュウム=アルケティの姿がある。

「おう。出迎えご苦労」

 右手を挙げ、軽い口調で言葉を返すノヴァルナは、背後にラン・マリュウ=フォレスタとジークザルト・トルティア=ガモフを従えていた。勝手知ったる自分の総旗艦であるから、すぐに自分が先頭に立って艦橋へ向かい始めるノヴァルナ。そのやや斜め後ろについたヴァルミスが問い掛ける。

「イチ姫様はお元気でしたか?」

「おお、それな」

 オウ・ルミル宙域巡察に出た際、ノヴァルナの第1特務艦隊には、同盟関係にあるオウ・ルミル宙域ノーザ恒星群星大名アーザイル家の艦隊と、ミ・ガーワ宙域星大名トクルガル家の艦隊が随伴していた。ウォーダ軍のキヨウ上洛に同調して、ヤヴァルト宙域まで遠征していた両家の宇宙艦隊は、任を終えてそれぞれの領域への帰途へつき、途中まで同行していたのだ。

 そしてその過程でノヴァルナは、アーザイル家のナギ・マーサス=アーザイルの招待を受け、本拠地のオルダニカ城を訪問。ナギの妻となっていた妹のフェアン・イチ=ウォーダとの、再会を果たしていた。

「フェアンのやつ、おめでただってよ」

「ほほう」

 フェアンの懐妊の報を聞いて、ヴァルミスも珍しく声のトーンを上げる。その仮面の下にある人物の思いが伝わり、ノヴァルナも自然と穏やかな笑顔になった。
 
“こういうのも、いいもんだぜ…”

 …と、ノヴァルナにしては珍しく、感傷的な気分になる。兄と弟が揃って、妹に子が出来た事を慶ぶ日が来るとは、思ってもみなかったからだ。ただヴァルミスの正体はごく一部の者しか知らず、今ここに居るメンバーの中でも、ミディルツやイナルヴァは知っていない。
 そういう事もあってこの場ではヴァルミスは、それ以上フェアンの話題を伸ばす事無く、すぐに話を次へ移した。

「それで如何でした? 新たな拠点の候補はございましたか?」

 さらりと話題を変えたヴァルミスだったが、口にした言葉は重要である。新たな拠点とはつまり、オウ・ルミル宙域内に新たな城を有する、植民星系を建設するという事を示唆していた。これは先日、新星帥皇ジョシュアに要求した、超空間ゲートの使用権分与とも関係しており、皇都惑星キヨウを含むヤヴァルト宙域防衛を考えた場合、現在の本拠地であるミノネリラ宙域の惑星バサラナルムからでは、距離があり過ぎるためだ。

「うーん…幾つかは見つかったが、一番いいのはアデューティス星系だな」

 問い掛けに答えたノヴァルナは歩きながら、右の手の平を肘の高さで返してNNLを使い、小さなホログラムスクリーンを立ち上げた。そしてそれを上へ軽く放り投げる仕草をすると、ランやミディルツの眼前にも、同様のホログラムスクリーンが配布される。

「アデューティス星系…ビティ・ワン・コー沿いの、新興植民星系ですか」

 ホログラムスクリーンに映されたデータを読み取り、ナルガヒルデ=ニーワスが評価を述べる。

「ここはビティ・ワン・コーの暗黒ガス密度が、かなり数値の高い場所となっていますね。ここなら侵攻エリアが限定され、防衛も楽でしょう。距離的にもバサラナルムとキヨウとの、ほぼ中間にあり、利便性は高いと思われます」

「だろ?」

 ノヴァルナはナルガヒルデの見識に軽い口調で応じた。ビティ・ワン・コーは、このオウ・ルミル宙域の中央に存在する、超巨大暗黒星雲である。この星雲を構成する暗黒ガスは、濃度の高さによっては宇宙艦の航行を困難にするため、濃度の高い箇所近郊に位置するアデューティス星系に、新たな城を建設するのは防衛の観点からも理に適っている。

「…て事で、ナルガ。アデューティス城の建設をおまえに任せる。ウォーダ家の新しい本拠地だ。これまでにないデカい城を造れ!」

 事のついでのように、あっさりと命じるノヴァルナ。だがこれは途方もない大役である。普段は冷静沈着が売り物のナルガヒルデも、流石に顔を緊張させた。




▶#11につづく
 
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