銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第12話:天下の駆け引き

#09

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 通信ホログラムスクリーンに映し出された、アロンゾ・バラン=メーヘンバイムは四十代半ばの肥満体の男であった。特に丸々とした太鼓腹が目立つ。そしてアロンゾは当然ながら怒っている。

「居丈高なその物言い、無礼であろうユーサ卿! 貴族院議長をも務めた事のあるこのアロンゾ・バラン=メーヘンバイムを、軽んじおって!!」

 肥満体に似つかわしくない甲高い声で怒鳴るアロンゾだが、その威勢とは裏腹にブライデン星系の防衛艦隊は、フジッガ艦隊との交戦を避け、惑星ベルガンゼムの南北両極に分かれて様子を窺っていた。

「不正を働いている者に、肩書きなど関係なし。応か否か、こちらが求めているのは、それのみである。返答は如何に!?」

「ぬ…う…」



 結局のところアロンゾは、戦闘を行う事無くフジッガの要求に屈し、隠匿していた美術工芸品の譲渡に同意した。見返りはジョシュア政権においても、領地の安堵を保証するという、控え目なものでしかなかったが、逆に言えば『アクレイド傭兵団』とエルヴィスが消え、後ろ盾を全て失った状況では、領地の安堵だけでも“御の字”であろう。

 ブライデン星系防衛艦隊を武装解除させてゆく、フジッガ艦隊の光景を旗艦『レガ・ラウンゼン』の艦橋から眺め、キノッサはフジッガに声を掛けた。

「いや。それにしてもホルソミカ殿、随分と強気な交渉でしたな」

 対するフジッガは、先程までの強硬な態度の時とは打って変わって、穏やかな表情で応じる。

「貴族相手ともなれば、時間を与えてもあれやこれやと、話術で解決しようと喋るばかりですからな。単刀直入が一番でございますよ」

「はぁ、なるほど」

「防衛艦隊の武装解除が完了しましたら、陸戦隊を連れ、共にメーヘンバイム公のところへ参りましょう」

「恐れ入ります」

 今回の件を機にフジッガはメーヘンバイム家だけでなく、他の貴族や星大名が隠匿所蔵した美術工芸品も捜査し、取り戻してゆくつもりであった。メーヘンバイム公に関しても『レミナス海にて』はキノッサに渡し、それ以外の絵画や彫刻は、皇国の管理下に置く予定である。
 これには『レミナス海にて』を利用して、キノッサとソークン=イーマイアとの交渉が上手く運び、ザーカ・イー星系がウォーダ家の直轄領となったなら、将来的にザーカ・イー星系が収集した美術工芸品も、銀河皇国と共有される方向で話が進められるのではないかという、フジッガの期待もあった。
 
 皇国暦1563年7月30日。アイオウリス=ベイカーの『レミナス海にて』を入手したキノッサは、フジッガ・ユーサ=ホルソミカと分かれ、メーベンバイム家の荘園星系ブライデンから、直接ザーカ・イー星系に向かって出発する。

 ブライデン星系の外縁部に達し、超空間航行のDFドライヴを行うため、準備に入った恒星間シャトルの中で、キノッサはフジッガという人物を思い返していた。


“面白い御仁だったッスな。ホルソミカ殿…”


 キノッサの言う“面白い御仁”とはこの場合、これまで自分の周りには居なかった、興味深い人物という意味を成す。芸術・芸能を嗜むだけあって、ものの考え方は文化人なのだが、こと行動に移すに関しては武断的なのである。
 しかもフジッガは武断的と言っても、思考が短絡しているわけでは無く、艦隊運用能力にも長けていた。キノッサはフジッガの旗艦『レガ・ラウンゼン』に同乗して、メーベンバイム家の荘園星系ブライデンへの包囲戦を観戦したのだが、これが実に巧妙で、メーベンバイム家の星系防衛艦隊が第三惑星ベルガンゼムの、南北両極上空に分かれて留まっていたのも、フジッガ艦隊の制圧行動に追いやられた結果だったのである。

“これはノヴァルナ様のため…それに、これからの俺っちのためにも、ホルソミカ殿とはよしみを通じておいて、損はなさそうッス………”

 現在のフジッガ・ユーサ=ホルソミカとウォーダ家の関係は、フジッガが星帥皇室直臣という事もあり、直接関わりがあるわけでは無く、どちらかと言えばフジッガの友人のミディルツ・ヒュウム=アルケティを介する状況だ。それでもフジッガの才と武将としての器量。それに文化人としての造詣の深さを考えると、いずれはウォーダ家の直臣として迎えたい人材であった。

 それにキノッサ自身も、これから先に秘めた野心のためにも、星帥皇室に近いフジッガと友好関係を築いておきたいところである。そうであるからフジッガの元を去る時、「今後とも何卒よしなに…」と告げたのも外交的辞令ではなく、本心からであった。



 そして…この時に生まれたキノッサとの繋がりが後年、ヤヴァルト銀河皇国の歴史の大転換期において、どちらの陣営に味方するかという最終局面で、フジッガ・ユーサ=ホルソミカという武将が下した“動かない”という決断に、大きな影響を及ぼす事になろうとは今はまだ誰一人、知る由もなかったのである………



▶#10につづく
 
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