銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第12話:天下の駆け引き

#08

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 キノッサの話術の才は、ありきたりな言い回しや陳腐な表現であっても、相手の心に聞かせてしまう・・・・・・・ところにある。そしてそれは初対面か、それに近い相手の方が降下が高いという、奇異ともとれる特性を持っていた。そんなキノッサの言葉を聞いたフジッガは「ふむ…」と、その意味を吟味する様子を見せる。

「アイオウリス=ベイカーの『鼈甲蜂のブローチの女性』と、その恋人を描いたと言われる『レミナス海にて』が再び揃う事は、いわば“百年の時を超えた恋人たちの再会”、皇国文化復興の象徴となるに違いありませぬ」

 キノッサの口から飛び出した、“百年の時を超えた恋人たちの再会”という、凡そらしくない台詞に、隣に並んで座っていたカズージとホーリオが、思わず吹き出しそうになって、右手で口元を覆った。おそらく勢い任せであろうが、いかつい男しか居ない場で言うには、些か不釣り合いに思える。
 フジッガもキノッサの発した言葉に一瞬、眼を丸くしてから「ハッハッハッ…」と、笑い声を漏らす。武人ならあまり使わないであろう、庶民が発想するような物言いだったからだ。やはりキノッサが、民間人上がりであるためだろう。しかし文化人気質のフジッガはむしろ、キノッサのそういった感覚が、気に入ったようだ。

「“百年の時を超えた恋人たちの再会”ですか。キノッサ殿もなかなかに、風雅を愛でられる詩人ですな」

「いっ!…いやこれは、柄にもない事を申しました!」

 フジッガの誉め言葉に、ようやくキノッサは自分が口走った内容に気付き、顔を真っ赤にして右手で頭を掻きむしった。するとP1-0号が本当に、この会話の最適解なのかどうか、怪しいツッコミを入れる。

故郷くにに待たせている、婚約者でも思い出したのかな?」

「!?…んなワケ、無いっショ!!」

 血相を変えて言い放つキノッサ。このやり取りを見たフジッガは再び「ハッハッハッ…」と、笑い声を上げた。

「そうですか。お故郷くにに婚約された方が…式はいつ挙げられるご予定で?」

「はぁ…皇都の方が一通り片付いて、ミノネリラに帰還してからになりまする」

 キノッサが頭を掻き続けながら応じると、フジッガはにこやかな表情になって告げた。武将の笑顔だった。

「なるほど。それならば一刻も早く、仕事を片付けねばなりませぬな」

 フジッガの言葉の意味を察し、キノッサは「では…?」と目を見開く。これに対してフジッガは大きく頷き、言った。

「よろしい。メーヘンバイム公への働きかけ、お力添え致しましょうぞ」
  
「おお。これは頼もしい、ありがとうございます!」

 キノッサはオーバーリアクションともとれるほど、頭を深く下げた。ソファーに腰を下ろした自分の膝で、頭を打ちそうなほどの深さだ。ただ上級貴族との交渉など初めてのキノッサにとって、星帥皇室に近いフジッガの協力は、それほどまでに頭を下げる価値があるのも確かであった。

「つきましては、一つお尋ねしたいのだが?」

 フジッガの問い掛けに、キノッサは間髪入れず「何なりと」と応じる。

「先程の出品リストは、かなり古いものでしたが、今現在でも『レミナス海にて』をメーヘンバイム公が所持しているのは、間違いないのですか?」

 フジッガが今しがた見せられたのは、かなり古い闇オークションの出品リスト情報であった。そうであれば今現在の状況が変わっていても不思議ではない。それに返答したのはP1-0号である。

「情報によれば今年前半、エルヴィス・サーマッド=アスルーガが、星帥皇の座にあった時期、エルヴィスを支持する上級貴族の間で、闇オークションが開かれそうになった事があります。メーヘンバイム公も出品するつもりだったらしく、その出品物の中に、やはり『レミナス海にて』の名がありました」

 もっともこの闇オークションは、ジョシュアを正統星帥皇として奉じたウォーダ軍の上洛で、取り止めとなった。そのため『レミナス海にて』はメーベンバイム家が、所蔵したままであるに違いないという、P1-0号の予想だ。

「うむ。数ヵ月前ならば、手離していない可能性も高いですな」

 納得顔になったフジッガは、すっくとソファーから立ち上がり、キノッサ達を見渡した。

「善は急げと言います。すぐに準備に取り掛かりましょう」




「ハハ…ハハハ…」

 その三日後、キノッサは艦橋で引き攣った笑顔を見せていた。何の艦橋かと言えば、メーベンバイム家が領有する荘園星系ブライデンの第三惑星、ベルガンゼムをぐるりと包囲したフジッガ艦隊の旗艦、『レガ・ラウンゼン』の艦橋である。

 文化人気質を持つフジッガ・ユーサ=ホルソミカの事であるから、穏便な交渉を持ち掛けるものだとばかり思っていたキノッサの前で、その当人がアロンゾ・バラン=メーヘンバイムに対し、強い口調で呼び掛けていた。

「…繰り返しメーヘンバイム公に申し上げる。不法所持されて来た美術工芸品を、全て当方へ差し出されよ。拒絶される場合、当方は一戦も辞さぬ覚悟である!」



▶#09につづく
 
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