銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第12話:天下の駆け引き

#07

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 P1-0号がさらに続けたところでは、ベンメロ・ブレグ=メーヘンバイムが記録を改竄した理由は、“オーニン・ノーラ戦役”が一応の終息を迎えた時期の、皇国暦1473年に『レミナス海にて』を、闇オークションに出品しようとしたところ、その直前になって、オークションが皇国検察局による囮捜査である事に気付いた事による。出品リストに登録してしまっていたベンメロは、NNLシステムに介入して『レミナス海にて』の名を、上級貴族権限で抹消したらしい。

 ここでフジッガは、「むう…」と小さく唸って、意見を口にする。

「だが一度リストに登録した以上、検察局も即座にその事を、把握したのではないですか? 抹消したところで検察局側に、何らかの記録は残るはずでは?」

 これに対しP1-0号は、忌まわしい事をさらりと告げた。

「検察局が何の問題も無く、通常通り機能していれば、おそらくそうだったはず…だと思います」

「!?…それは!」

「この頃の検察局は戦乱によって、残念ながら相当部分で腐敗が進んでいました。つまり検察側の担当官の対応も、相手の出方次第だったのでしょう」

 P1-0号が言っているのは、皇国検察局と上級貴族の間に、記録改竄に伴う金品のやり取りが存在していたのではないか…という話だ。P1-0号にはため息をつく機能は備わっていないが、そう感じさせる間を置いて、言葉を続ける。

「これは今回の件を調べるにあたってその関連事項と考え、古い検察記録を精査した結果から得た推察ですが、似たような事例が幾つも存在しており、検察局の囮捜査そのものが、収賄目的だった可能性があります」

「なんと…いや…ううむ、なるほど」

 フジッガは驚きの声を漏らしたが、すぐに納得顔になった。“オーニン・ノーラ戦役”の時代の皇都キヨウは、行政・経済・治安の全てが崩壊状態にあり、これらの不正を取り締まる側のはずの、皇国検察局自体にまで汚職がはびこっていた。そんな状況であるから、様々な囮捜査を行っては尻尾を掴んだ“大物”から、隠蔽料をせしめる“小遣い稼ぎ”が横行していたのである。

 『レミナス海にて』を不正入手した事を見逃し、NNLの操作による記録改竄を黙認する代わりに、相応の賄賂を贈る…ベンメロ・ブレグ=メーヘンバイムと皇国検察局の間で、そのような裏取引が行われたのであれば、所在が不明のままであっても不思議ではないだろう。P1-0号はこの時の改竄前の検察記録を、何億という自らのアーカイブ保存データの中から、見つけ出したのだ。
 
 P1-0号はさらに、フジッガを驚愕させるデータを提示する。NNLを使って小振りなホログラムスクリーンを立ち上げ、その画面をフジッガへ向けた。

「この時の、出品リストに登録されていた美術工芸品は、当然ながら『レミナス海にて』だけではありません。こちらをご覧下さい」

「こ、これは…!」

 リストに並んだ品々を、せわしなく眼球を動かしながら読み取ったフジッガは、表情を強張らせる。表示されている出品者にはメーベンバイム家だけでなく、他の貴族や星大名の名も見えた。

「同じアイオウリス=ベイカーの『峡谷の春』と『旗手』。レバン・ド=メッフェの『外輪船』に、ランテオン=エルスタの『イドル高原』…それにこれは、サン・ガ=デンの彫刻『女神サク』ではないか。他にもこれは…おお…」

 フジッガは全ての作品名に眼を通して、感動とも嘆きともとれる、大きなため息をついた。その表情には、怒りも混じっているように見える。数居る武将の中でも芸術への造詣が深い、フジッガならではの反応と言えるだろう。

「それでP1-0号殿、この時の検挙者は分かるのですか?」

「貴族のニフラッド家と、バフォル家から一人ずつだけです。おそらく両家とも、隠蔽料の支払い能力が無かったのでしょう」

 P1-0号の返答を聴き、フジッガの両眼に失望の光が揺らぐ。検挙された二つの貴族家ともそれほど大きな規模ではなく、経済状態が悪かったがために不正入手した美術品を、オークションに出品しようとしていたのであるから、賄賂を渡す余裕がなかったのも当然だ。

「………」

 難しい顔で腕組みをし、ソファーに背中を預ける無言のフジッガに、今度は自分の番だとキノッサが声を掛ける。

「如何でありましょう、フジッガ殿。新星帥皇ジョシュア陛下のもと、ミョルジ家討伐も完了し、いよいよ天下静謐てんかせいひつを目指す時。奪われた美術工芸品を取り戻してゆくも、民草たみくさのためには重要…。そのための一歩に、手をお貸し頂けませぬか?」

「メーヘンバイム公から『レミナス海にて』を取り返す事が、その一歩である…と申されるわけですか」

 頷いたキノッサは、持ち前の交渉力を発揮した。

「ザーカ・イー星系には、多くの美術工芸品が集められております。そしてその目的は私事にとどまらず、将来的に皇国へ返還し、文化においても再興を図らんという志のため…。かの星系がウォーダ家の直轄領となれば、その時期も早まりましょう」




▶#08につづく
 
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