銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第12話:天下の駆け引き

#15

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皇国暦1563年8月20日 皇都惑星キヨウ北極上空―――

 皇都惑星キヨウの北極地方には、極点近くに峻険な山脈を持つ、比較的大きな島がある。これまでは気象観測所と、近隣の大陸と繋げられた海底トンネル程度しかない島であったが、現在では気象観測所に隣接する形で、仮設の宇宙港が造られている。
 そしてその仮設宇宙港からは、多数の貨物輸送用大型シャトルが、宇宙空間との往復を行っていた。それら往路のシャトルが向かっている先にあるのが、建設が始まったばかりのニージョン宇宙城である。

 キヨウの北極上空に防衛拠点として置かれる宇宙城は、まだ鋼材による基礎構造の骨組みが始まったばかり。それでも急速に組み上げられていく様子は、それを見る者の想像力を掻き立てるものだ。

 ノヴァルナはキヨウの主だった財界人を、自分の専用艦『クォルガルード』に招待し、このニージョン宇宙城の建設現場の視察に訪れていた。これも経済政策の一環でもある事を、財界人らに自分の眼で見せる事を目的としている。

 艦の最上部に設けられた展望室の大窓。ワイングラスを片手に居並ぶスーツ姿の財界人達は皆、船外に広がる基地建設の光景に、称賛の目を送っていた。彼等にすれば、これまで外敵侵攻に対し意外にも脆弱であった、キヨウの防衛力が向上するのは、有難い事であるからだ。

 ウォーダ軍の紫紺の軍装を身に纏い、副官のランを伴ったノヴァルナの隣に歩み寄って来た、キヨウ商工会南半球連合の女性会頭が、穏やかな笑みと共に声をかける。五十代初頭の淑女然とした黒人女性だ。彼女はキヨウ有数の企業のトップを務める、三人の男性と一人の女性を連れている。

「ノヴァルナ殿下」

 呼びかけられたノヴァルナは、振り向いて軽く会釈した。こういった社交の場では、ノヴァルナは普段の紳士的である。

「素晴らしい景色ですわ。こうして見学させて頂いております間でも、組み立てがどんどん進んでおります事は、感動すら覚えます」

「ありがとうございます。皇都防衛力の向上は、経済復興とも連動しています。それゆえ急がせている次第で」

 すると女性会頭は、黒い瞳に不安の色を浮かべてノヴァルナに尋ねる。

「お城の建設を急がれるのは、再びこの惑星が戦場になる可能性が、高まっているという事でしょうか?」

 彼女の不安も理解できるものだ。ジョシュア・キーラレイ=アスルーガが星帥皇の座に就いて約三ヵ月、せっかく皇都の復興事業が軌道に乗り始めたというのに、再び戦乱に巻き込まれるのは、財界人からすればたまったものではない。
 
 女性会頭の問いに対し、ノヴァルナは実情を包み隠さず告げる。

「アーワーガ宙域に撤退したミョルジ家や、オウ・ルミル宙域のコーガ恒星群へ潜んだロッガ家など、キヨウへの侵攻の機会を窺っている勢力は、まだ幾らか存在します。すぐに…というわけではありませんが、備えはしておくに過ぎた事はありません。それに我が艦隊を駐留させるのであれば、補給や整備の拠点も必要となりますので」

「そうですか…」

 不安を拭えない様子の女性会頭にノヴァルナは、静かだが力強さを感じさせる口調で言う。

「しかしながらご心配なく。このヤヴァルト星系を中心に、密度の高い哨戒網を組んでいますので、宙域に進入して来る軍勢は即座に察知致します。また宇宙城が無くとも、充分な戦力を皇都防衛に配置していますので、ご安心下さい」

 これを聞いて女性会頭は、取り巻きの男女と共に愁眉を開いた。さらにノヴァルナは、ニージョン宇宙城建設のもう一つの目的を口にする。

「それよりも重要と考えますのは、宇宙城建設が生み出す経済効果です。わたくし共は皇都復興事業と合わせ、建設・工作機械と資材の需要を伸ばし、インフラの再整備と雇用創出、さらに景気回復の牽引役としています。宇宙城の建設を急いでいるのは、こういった効果を促進するためです」

 ノヴァルナの言葉に対する女性会頭らの反応は、表情から察するに良好なようである。会頭の取り巻きの男性が、軽く頷いて賛意を示した。

「キヨウにいらしてからの、ノヴァルナ殿下の経済政策には皆、僭越ながら高く評価させて頂いております」

 そこに取り巻きの女性が加わる。

「そうですわ。流通産業面でも、恒星間流通の関税率を上げられるどころか大幅に下げられて、流通量の増加を持って低税率でも税収をアップされ、それを復興費に充てられるなど、私達も殿下の手腕には舌を巻いております」

 これに対し、ノヴァルナははにかんで頭を下げた。ここで別の男性が、話を少し戻して問い掛ける。

「宇宙城を完成させられたら、殿下もお住まいになるのですか?」

「いいえ。こちらは非常時に、星帥皇陛下の御座所とするためのもの。私はキヨウに住むつもりはありません。ただ、こことは反対の南極側に、キヨウ訪問時の別拠点を造ろうか…とは思っています」」

「別の拠点ですか?」

 頷いたノヴァルナは、オウ・ルミル宙域巡察からの帰途で思いついた構想と、名称を女性会頭らに打ち明けた。


「平時に使用するためのもので、ニージョン宇宙城ほどの規模はありません。名称は“フォン・ノージ”とするつもりです………」




▶#16につづく
 
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