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第12話:天下の駆け引き
#16
しおりを挟むニージョン宇宙城の建設現場視察を終え、キヨウ中央宇宙港へ降下した『クォルガルード』は、財界人の一団を下船させた。彼等をエアロックまで見送ったノヴァルナは、執務室へ戻ると応接用のソファーに体を投げ出し、はぁーー…と大きく吐息しながら、軍装の襟をはだける。
「あああ、邪魔臭ぇーーー!」
独り言にしては大き過ぎる声で言い放ったノヴァルナは、仰向けに寝そべったままで両腕を大きく突き上げた。
これも対民間外交である事は、十分理解しているノヴァルナだが、こういった事が本心では今も苦手であるのは、否めないところである。寝そべったまま、NNLのホログラムを完全に展開し、スケジュール表を呼び出す。明日は明日で、午前中に行政府の『ゴーショ・ウルム』へ参内し、午後は皇国軍のBSIユニット『ミツルギ』を製造している、キヨウ・サンビーシュ重工の社長との会談がある。さらにそれが終わると、ヤヴァルト宙域恒星間運輸局の局長とも会談。
これらはノヴァルナが、バイオノイド:エルヴィスの件でアルワジ宙域へ行っていたため、留守中の仕事が溜まってしまったものだ。それが今度はオウ・ルミル宙域の巡察に出掛けたため、延び延びとなっていたのである。まぁ文句を言いながらも、留守を任せた影武者のヴァルミス・ナベラ=ウォーダに丸投げせず、自分でこなそうとしている辺りは、立派だと言えるであろう。
だが…やはり、面倒臭いものは面倒臭い。
“どっかで抜け出して、ツーリングでも行くかぁ…”
などとスケジュール表を眺めながら、悪だくみを始める。するとそこにインターホンが呼び出し音を鳴らした。寝そべったままのノヴァルナは、スケジュール表のホログラムを指先でスライドさせ、インターホンの操作ホログラムに切り替えて、「なんだ?」と応じる。通話に出たのは『ホロウシュ』の、フォークゼムだった。
「ノヴァルナ様。貴族院の恒星間シャトルから、連絡が入っております」
「恒星間シャトル?…貴族院?…どういう事だ?」
怪訝そうな顔で尋ねるノヴァルナ。皇都で貴族院の恒星間シャトルから、連絡を受けるとは意味が分からない。
「貴族のゲイラ・ナクナゴン=ヤーシナ様が、もしノヴァルナ様のご都合が宜しければ、立ち寄らせてほしいと…」
それを聴いたノヴァルナはソファーから跳ね起き、「そのまま立ち寄って頂け」と応じる。ゲイラは古くからウォーダ家が懇意にしている貴族であり、ノヴァルナがまだ“大うつけ”と呼ばれていた頃から、いち早くその器量を見抜き、支持してくれた人物であった。
約三十分後、『クォルガルード』の左舷側に、ゲイラを乗せた恒星間シャトルが降下、着陸する。タラップを降りて来たゲイラは五十代後半、きちんと分けた白髪が美しい、紳士然とした男であった。“漫遊貴族”の異名を持ち、銀河皇国中を頻繁に旅している。そのため、決して貴族の序列は高くないものの、各宙域の星大名の間に豊富な人脈を持つ人物として有名だ。
今回、この貴族は長期の外遊に出ており、半年以上皇都を留守にしていた。そのため星帥皇テルーザの戦死から、ジョシュアを伴ったノヴァルナの上洛戦、さらにエルヴィスの公式上の急病死といった、一連の騒動には関わっていない。
自ら『クォルガルード』を降りて、恒星間シャトルの前まで出迎えに出て来たノヴァルナに、ゲイラは親しげな笑みを浮かべて会釈した。
「ようこそおいでくださいました。ナクナゴン卿」
そう言って会釈を返すノヴァルナも、本心から親しげな笑顔である。彼にすれば昔から頻繁にナグヤ=ウォーダ家にも訪れていたゲイラは、遠い親戚の優しいおじさん的な存在であったからだ。握手を交わしながら詫びを入れるゲイラ。
「いつも急な訪問で、ご迷惑をおかけしております。申し訳ございません」
「何を仰せになります。ナクナゴン卿でしたら、いつ如何なる時も歓迎です。むしろ気軽にお立ち寄り頂ける事こそ、光栄と言えましょう」
嘘偽りなき眼でそう言うノヴァルナに、ゲイラは再び頭を下げた。
ノヴァルナに限らず、ゲイラの訪問を喜ぶ星大名は多い。長期漫遊において様々な星大名のもとを訪れ、自分自身で見聞きした他家の情報を、もたらしてくれるからだ。
無論それらの情報は、双方の星大名にとって有利不利とならない範囲の、中立的な内容なのだが、他家の内情があまり入って来ない戦国の世で、遠方の星大名の話が聞けるのは、非常に貴重だと言える。
ゲイラを『クォルガルード』に招いたノヴァルナは、ノアも呼び、三人で早めの夕食をとりながら、土産話を楽しんだ。
「そうですか。イマーガラ家は、そのように…」
「はい。宰相のシェイヤ=サヒナン殿の失策、挽回は難しいかと…」
ゲイラの伝える、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラ亡きあとの、イマーガラ家の実情に、ノヴァルナは感慨深げな眼をする。
かつて戦国最強と呼ばれ、三年前に大軍でオ・ワーリへ押し寄せたイマーガラ家は、ギィゲルトの嫡男ザネルが当主の座を継いだものの、現在では見るも無残な状況であるらしい。
ゲイラの話によると、ギィゲルト亡きあとのイマーガラ家は、イェルサスのトクルガル家と、カイ・シナノーラン宙域星大名タ・クェルダ家から、領域を侵食されているだけにとどまらず、これまで従属して来ていた領内の独立管領なども、離反が頻発しているらしい。
そういえば…と、ノヴァルナは思い出した。上洛途中のク・トゥーキ星系第三惑星ハール・ザムで、支援に駆け付けて来てくれたイェルサス=トクルガルと直接顔を会わせた際、イェルサスは新たに家臣になったと言って、かつてはイマーガラ家の重臣だった、イーラ家の若者ネオマースを紹介された。
ゲイラの告げたシェイヤ=サヒナンの失策とは、ザネルの誤った命令により、このネオマースの父親を謀叛の意志ありとして、粛清した事である。これはネオマースがイーラ家の当主となる事を良しとしない、家老の讒言によるものだったのであるが、シェイヤはそれを知れながら、ギィゲルトの死で動揺が続くイマーガラ家重臣や、独立管領などに対する引き締め策のための、見せしめにしようとしたのだ。
ところがこれが逆の結果を招き、ザネル元来の政治下手もあって、イマーガラ家首脳部は求心力を、大きく失ってしまったのであった。シェイヤ自身の焦りもあったのだろうが、タ・クェルダ家とトクルガル家からの侵攻を受ける、最悪のタイミングで判断を誤ったと言っていい。
「タ・クェルダ家とトクルガル家に侵攻されたイマーガラ家は、ザネル様の奥方の実家であるホゥ・ジェン家の支援を受けて、どうにか踏みとどまっていますが、そのホゥ・ジェン家自体、アーワン宙域の星大名サートゥーミ家と抗争中で、イマーガラ家を全面支援するのは、難しい状況です。このままではいずれ…」
語尾を濁すゲイラに、ノヴァルナは無言で頷く。ただノヴァルナには、別の予感もあった。イェルサスだ。あの、根が温厚な弟分は、ザネルを死なせてしまう事まではしないだろう…と思う。
このザネルの話題をはじめ、ホゥ・ジェン家やその先のコーズ・ケイ、シルモサやヒタッツといった、普段はほとんど情報が入らない、今回の訪問先の宙域の話になると、ノヴァルナもノアも眼を輝かせる。
そしてゲイラの語りは、何より二人が待ち望んでいた話題へと移った。
ムツルー宙域星大名ダンティス家と、現在ではそこに仕えるようになっている、ノヴァルナとノアの恩人、カールセン=エンダーと妻のルキナ。さらにその子供達の話題である。
▶#17につづく
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