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第13話:新たなる脅威
#02
しおりを挟む36個基幹艦隊を9個ずつ分けた4軍団構想は、すでにノヴァルナから聞かされていた話であるものの、改めて司令官人事が発表されると、これだけの軍を整備できるようになったウォーダ家の隆盛を、重臣達は改めて実感する。
今回の新編制で目玉となったのは、ノヴァルナ直卒の中央集団であった。これは全方位に対する遊撃軍団であり、例えばミノネリラ宙域に隣接する宙域の敵性勢力と戦闘を行う際は、ミノネリラ宙域軍九個基幹艦隊を指揮下に一時編入し、合計十八個の基幹艦隊戦力を構成するのである。
さらに発表された基幹艦隊は、ウォーダ家直轄の戦力に過ぎず、これに各宙域で個々に植民星系を有する独立管領の中で、恒星間打撃艦隊を持つ者も相当数支援に加わるとなれば、その正面戦力は三年前にオ・ワーリ宙域へ侵攻して来た、イマーガラ軍の大軍団と遜色ないものとなるはずだ。
これらの中で皇都惑星キヨウを含む銀河皇国中心部の、ヤヴァルト宙域を防衛する戦力が些か手薄なようにも見えるが、これはウォーダ家直轄軍の他に、新たに編成が始まった皇都防衛軍や、ジョシュア政権とウォーダ家に恭順の意を示した、周辺宙域の独立菅頼の戦力が、皇都防衛にあたるためであった。
またオウ・ルミル宙域については、ウォーダ家が完全統治下に置いたわけではないが、ミノネリラ宙域からヤヴァルト宙域へ通じる、重要な連絡路となっており、新興植民星系のアデューティスに新たな城を建設するということもあって、城の総普請奉行のナルガヒルデ=ニーワスと、BSI部隊総監であるカーナル・サンザー=フォレスタを配置。ノヴァルナにとっての腹心二人を置いた事から、その重要性を示していると言っていい。
しかもその一方で、オウ・ルミル宙域の部隊配置には、ウォーダ家に降ったロッガ家の武将も多く司令官に就けられ、ノヴァルナの巧妙な融和策が見られた。
そして今回の司令官人事で出色だったのが、ノヴァルナ直卒の中央集団を構成する艦隊司令官である。
カッツ・ゴーンロッグ=シルバータを最年長として、トゥ・シェイ=マーディンやナルマルザ=ササーラなど、全員がノヴァルナの傍仕えをしていた、年齢も二十代から三十代前半の、若手武将で固められていた。そういうわけもあり、ザーカ・イー自治星系を直轄領とするための布石を、ソークン=イーマイア相手に打つ事に成功したキノッサも、第36艦隊という末席ながら、基幹艦隊司令官の座を手に入れたのであった。
各基幹艦隊司令官には一定の任命権も与えられ、部隊を構成する戦隊司令官などは、ノヴァルナの総司令部に申告すれば、自分で選んだ者を就けられるようになった。つまり有望な人物であれば、以前はサイドゥ家やイースキー家、ロッガ家に仕えていた者でも、基幹艦隊司令官の責任において、配下の戦隊司令官に取り立ててよい、という事である。
これは、その基幹艦隊司令官を中心とした、“派閥化”が進む危険性も孕んではいるが、それ以上に基幹艦隊間で競争意識を持たせたいという、ノヴァルナの思惑があった。それにこの先はまだまだ忙しくなるはずで、以前のウォーダ家で見られた、“派閥遊び”に興じている暇は、誰にも無いだろう…という考えもある。
すると早速、この制度を利用する者が現れた。第36基幹艦隊司令官となったばかりの、トゥ・キーツ=キノッサだ。もっともキノッサの場合は以前から、何でもかんでもノヴァルナのところに、勝手に自分の希望を持ち込んでいたのだが。
「フェルデーサ=ゼノンゴーク…ゼノンゴークだと?」
ギーフィ城の執務室で、キノッサからの申告を聴いたノヴァルナは、眉をひそめて問い質した。キノッサの隣には、金髪で背の高い少女が立っている。年齢は十代半ばといったところであろうか。
「はいッス」
「あのゼノンゴーク家の人間か?」
頷くキノッサの隣で、フェルデーサという名の少女は、背筋を伸ばして告げる。
「ゼノンゴーク家前当主ヒスルヴォは、私の父でした」
「でした?」とノヴァルナ。
「はい。三年前にSCVIDで他界しまして、二人の兄が跡を継いだのですが、ノヴァルナ様との戦いで相次いで戦死。私が現在の当主です」
これを聴いたノヴァルナは、「そうか…」と呟いて遠くを見る眼になった。ヒスルヴォ=ゼノンゴークとは七年前に、ドゥ・ザン=サイドゥが敗死した“ナグァルラワン暗黒星団域の戦い”で、BSHO同士の戦闘を行った事がある。その戦いは激しいもので、ノヴァルナが“トランサー”能力を覚醒させる、発端となったのであった。
“その時以来、ヒスルヴォ=ゼノンゴークの名を聞かなくなったのだが、病死していたのか………”
いい武将だった…と思い返し、ノヴァルナは瞑目した。自分は途中で引き上げたが、後を受けたカーナル・サンザー=フォレスタとも死闘を演じ、互いの機体がボロボロになるまで戦ったという。名将の誉れここにあり、だが…その跡を継いだ二人の息子まで戦死したのは、不幸としか言いようがない。
フェルデーサの話を聞いたノヴァルナは、キノッサに顔を向けて問う。
「そんでもって、てめーがゼノンゴーク家を、また表舞台に引っ張り出してやるってのか?」
するとキノッサは、ノヴァルナの不敵な笑みを真似て、ニヤリと口の端を歪めると、「それだけじゃないッスよ」と応じる。
「なに? それだけじゃないたぁ、どういうこった?」
「遂にわたくしめの部隊にも、BSHOを拝領する時が来たって事ッス!」
「なに? BSHOだと? 乗れるのか?」
そう言ってノヴァルナは、フェルデーサに再び視線を移す。BSHOの操縦に必要なNNLシステムとのサイバーリンク深度適性は、遺伝によって受け継がれるものではなく、親がBSHOに搭乗していたからと言って、その子供も乗れるとは限らない。事実、ノヴァルナの父のヒディラスや、ノヴァルナのクローン猶子の三兄弟に、BSHOの操縦適性は無かった。
「へへ…。俺っちはASGULですら、上手く扱えないッスし、BSI部隊の戦力に不安があるッスからね。一人ぐらいはBSHOに乗れるパイロットが、欲しいってもんスよ」
キノッサの言う事も確かである。BSHOを有する艦隊のBSI部隊は、それだけで敵の通常編制のBSI部隊を、凌駕する事が可能であった。
艦隊戦では補助戦力扱いのBSI部隊だが、敵のBSI部隊を撃破または突破した自軍のBSI部隊は、敵の宙雷戦隊などの比較的小型の艦艇に攻撃を仕掛けて、主力艦同士の戦闘を有利に運ばせる事になるのであるから、その意義は大きいと言える。
キノッサの話に「ふーん…」と応じたノヴァルナは、フェルデーサを一瞥して問い質した。
「だが、腕は確かなんだろーな? 適性があるのと腕が立つのは、別の話だぜ」
「そりゃあ、もう」
「下手っぴパイロットのてめーに言われても、説得力がねーんだよなぁ」
「それは失敬っていうもんス!」
だんだんといつもの掛け合いになって行く、ノヴァルナとキノッサの主従感の無さに、フェルデーサは戸惑った表情をする。
「じゃ、腕を見せてもらおうじゃね-か」
「ご対戦されるんスか? ノヴァルナ様が?」
「いや。マーディン辺りでいいだろ」
「は? 日和ってんスかぁ?」
「はぁ!!??」
キノッサの煽り文句に、ノヴァルナは荒々しく席を立った。その姿に顔を強張らせるフェルデーサ。しかしどうやらそれは冗談であるらしい。すぐに座り直して言い放つ。
「バーカ。マジで忙しいんだよ、俺は。マーディンには伝えとくから、あとはそっちで段取りしてやっとけや」
▶#03につづく
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