326 / 526
第13話:新たなる脅威
#03
しおりを挟む正直、ノヴァルナはフェルデーサと模擬戦をしてみたいとも思った。しかし口にした通り、上洛戦以来放置していた内政の処理案件が、一向に減っていないため、そのような事にかまけている余裕は無いのだ。
そもそも本来ならば三年前、侵攻して来たイマーガラ家に大打撃を与えて撃退したあと、充分な準備期間を置いてイースキー家に対処するはずであったのが、次々に起こる事態の急変で、気が付けば新星帥皇ジョシュアを上洛させ、ウォーダ家の勢力は今や、ヤヴァルト銀河皇国有数の規模となってしまった。その反動が来ないはずがない。
特にノヴァルナを悩ませているのが、やはり領域の経済面だ。イマーガラ家に大勝利したとはいえ、あの戦いはオ・ワーリの領内で行われた迎撃戦であり、経済的には損失でしかない。それにイマーガラ家自体は当主ギィゲルトを失ったものの、ウォーダ家に降伏したわけではなく、賠償金など一銭も受け取っていなかった。
またミノネリラ宙域についても、前領主オルグターツ=イースキーの暴政によって、経済状態は悪くなっており、オ・ワーリからの支援が必要なほどである。
しかもそこに来てのジョシュアの上洛戦だ。こちらの戦費はほぼ全てが、ウォーダ家からの“持ち出し”で賄われており、大赤字もいいところであった。
“…なるほど、どいつもこいつも、上洛戦なんてしたがらないワケだぜ”
キノッサを下がらせた執務室でノヴァルナは、机の上に浮かばせた何枚ものホログラムスクリーンに映る、財務関係の電子書類を眺めて溜息をついた。
百年戦国の世が続いているのも、結局のところは“カネ目当て”である。隣国の植民星系を奪ってその分の税収を増やし、その収入分で新興植民星系の経済が、独り立ち出来るようになるまで支え、さらに税収を増やす。そんな宙域の経済を牽引するのが、植民星系開拓と軍備拡張であり、領域拡大→植民星系発展→軍備拡張→領域拡大…の悪しき回転が、止まらなくなってしまったのが今の戦国の世だ。
だからこその、“銀河布武”であった。
残念ながら今の銀河皇国では、武力の優劣が交渉力の優劣となっている。そして皇国の統制を行う星帥皇室は、これまで武力はあまりにも脆弱だった。確かにNNLシステムや超空間ゲートの支配は、強力なものではあるが、言ってしまえば“それだけ”なのだ。
そして七年前のミョルジ家によるヤヴァルト宙域侵攻と、事実上の星帥皇室の傀儡化により、皇国の政治体制は崩壊した。その再建策がウォーダ家の軍事力を背景にした、星帥皇室の権威復活というわけである。
しかしまぁ、皮肉なもんだ…とノヴァルナは思う。
かつて、ドゥ・ザン=サイドゥとの初めての会見で、“マムシのドゥ・ザン”の度肝を抜いて見せ、ドゥ・ザンに“あんたが求めている権威とは、この程度のもんさ”と言い放った自分が、星帥皇室の権威を取り戻すために、せっせと働いているのだから。
そこへインターホンが鳴り、ラン・マリュウ=フォレスタの声がする。
「ノヴァルナ様。ミノネリラ通商連合の代表の方々を、お連れしました」
ノヴァルナは「分かった。入ってもらえ」と応じて回線を切ると、少々うんざりした様子で、「へいへい、わかりましたよ…」と小声で愚痴りながら、出迎えるために席を立った………
皇国暦1563年11月20日―――
キノッサの新しい家臣フェルデーサ=ゼノンゴークと、元『ホロウシュ』筆頭のトゥ・シェイ=マーディンの対戦は、ミノネリラ星系第六惑星ハラーシェを回る、第二衛星の付近で行われていた。
ハラーシェの第二衛星は、南半球の三分の一程が大きく抉れた、特異な形をしており、太古の昔に大型の小惑星と激突したためだと推測されている。さらに砕けた破片と思われる大小の岩塊が、第二衛星の周囲に漂う。
今や第8基幹艦隊司令官となったマーディンは、自身の旗艦『アロンゲート』を背後に置き、一方のフェルデーサは、主君キノッサが座乗する第36基幹艦隊旗艦『ヴェルセイド』を背後に、全周囲モニターに映る相手の機体を見据えていた。
搭乗する機体は、双方とも親衛隊仕様の『シデン・カイXS』。マーディンはすでに専用BSHOの『テンライGT』を所有しているが、今回は機体性能に差が出ないようにするために、以前使用していたものとも違う真新しい機体をフェルデーサと合わせて、カスタマイズ調整して使っている。
座乗艦『ヴェルセイド』の艦橋で、ホログラムスクリーンの拡大映像を見詰めるキノッサは、フェルデーサの乗る『シデン・カイXS』の背中に、「頑張るッス、フェルデーサ」と声を掛けた。
ここまではフェルデーサの〇勝二敗。元『ホロウシュ』筆頭が相手とはいえ、全くと言っていいほど歯が立っていない。特に最初の一戦などは、秒殺に近かった。
「それでもまぁ、諦めない姿勢はいい」
身構えるフェルデーサの機体を正面から見据え、マーディンは操縦桿を握り締めて呟く。自分の未来への渇望は今からもう十年も前、ノヴァルナ自身がナグヤ市のスラム街から“ぶん殴って”集めて来た、新生『ホロウシュ』の若者達に通ずるものを感じさせる。それに確かに筋もいい。一回目の対戦は秒殺だったが、二回目は三分粘ったのだ。
▶#04につづく
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる