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第14話:齟齬と軋轢
#11
しおりを挟むノヴァルナの問いに、エーケースは「無論です」とさらりと肯定し、知っている事はそれだけではない事を明かす。
「ノヴァルナ殿下が、御自らアルワジ宙域まで赴かれ、エルヴィス様を討ち果たされた、という話も伺っております」
エルヴィスをBSHOの直接対決で斃した事は、あまり世間に広められたくはない話だが、ノヴァルナは無頓着に「ほう…流石だな」と、不敵な笑みを浮かべる。ただそれに続いてエーケースが告げた言葉には、聞き捨てならないものがあった。
「いずれエルヴィス様は、亡くなられる運命であったはず。それをとどめを刺しに行かれるとは、殿下もご奇特な御方ですな」
「奇特…と言われるか」
「不快に思われたのならご容赦を。なにぶん傭兵団と示し合わせ、予めエルヴィス様の寿命を縮めおきたるは、我等モーリー家にございますので」
「!!??」
これにはノヴァルナも眼を見開き、居並ぶ家臣団からも控えめながら、どよめきが起こった。アルワジ宙域で出会った謎の人物テン=カイから、バイオノイド:エルヴィスは最初から短命に終わるよう、細工をされていた疑いがあるとは聞いていたが、それがモーリー家と『アクレイド傭兵団』との、密約に基づくものであったのは、ノヴァルナをはじめウォーダ家の誰も想像だにしていなかったのだ。
“コイツは―――”
ノヴァルナは双眸に浮かぶ警戒の色を濃くして、胸の内で呟いた。
“アクレイドの奴等の裏ボスは、本当はコイツらじゃねーのか…?”
そこにエーケースから「ノヴァルナ殿下」と呼びかけられ、ノヴァルナは思考を現実世界へと戻す。
「このエルヴィス様に関する、傭兵団との示し合わせは、我等モーリー家にとって機密中の機密。それを殿下に打ち明けたる意味を、ご理解頂きとう…いえ、聡明な殿下であられるなら、必ずやご理解して頂けると思うておりますが」
「秘密の共有…というわけであるか?」
「さようです。我等はノヴァルナ様が、エルヴィス様を手にかけられた事を知っております。その代わりノヴァルナ様は、我等が傭兵団との示し合わせで、エルヴィス様を短命なバイオノイドに仕立てた事を、お知りになる。これをもって我等は、運命共同体というわけにございます」
「随分と一方的な、申し立てに思うが?」
「しかし、悪い話では無い…と存じますが?」
もし言葉が白刃であるならば、謁見の間に居合わすウォーダ家の人間は皆、ノヴァルナとエーケースの間で火花が散るのを見たであろう。
「もし貴殿らが、エルヴィス製造に関与したのであれば、テルーザ陛下の殺害にも関与した事になると思うが、これについてはどうか?」
なおも問い質すノヴァルナ。確かに前星帥皇テルーザを❘弑逆《しいぎゃく》したのはミョルジ家であるが、彼が操縦するBSHO『ライオウXX』を、戦場で機能不全に陥らせ、結果的にミョルジ家が大量に用意したBSI部隊に討ち取らせたのは、エルヴィスが乗ったBSHO『メイオウSX-1』だった。
もしモーリー家が以前から、極秘裏に『アクレイド傭兵団』と繋がりを持ち、バイオノイド:エルヴィスの製造に関わっていたのなら、テルーザ殺害にも絡んでいる可能性が出て来る。そしてそうであるならノヴァルナとしては、モーリー家の星帥皇室への忠誠を、簡単に信じるわけにはいかない。
その辺りのノヴァルナの心情も察したらしく、エーケースは一度、深めの会釈をして返答する。
「ノヴァルナ殿下の抱かれる疑念、当然でしょうな。実はこれには、ミョルジ家の当時の思惑も絡む、複雑な事情がございまして。正直にお話し致しますと―――」
そこから先、エーケースが語ったのは、ノヴァルナも初めて聞く話であった。
前星帥皇テルーザ・シスラウェラ=アスルーガの、バイオノイドを製造し始めたのは、ミョルジ家前当主ナーグ・ヨッグ=ミョルジが、テルーザを傀儡とし、皇都惑星キヨウを支配下に置いていた頃…今から、五年ほど前の事らしい。
アーワーガ宙域からセッツー宙域に進出し、星帥皇室に不満を持つ周辺の独立管領などの勢力を糾合。さらに『アクレイド傭兵団』主力部隊を戦力に加えて、皇都惑星キヨウを占領したナーグ・ヨッグは実のところ、NNLシステムの完全独立化を、密かに目論んでいたという。
ここで言うNNLシステムの完全独立化とは、星帥皇や上級貴族達の深々度サイバーリンクによる、NNLシステムの独占的支配から脱却し、徴税と予算配分などを人工知能が、個人の意思を交えずに機械的に処理する事を意味している。
この考えは星帥皇や上級貴族達の、“人間の意志を交えた揺らぎのある統治”というNNLシステムの理念から外れ、退行ともいえるものである。
しかし“オーニン・ノーラ戦役”による統治機構の疲弊と腐敗から、銀河皇国を立て直すにはこれしかないという、ナーグ・ヨッグの強い思いがそこにはあった。
なぜならナーグ・ヨッグ自身、時代に翻弄された人間であったためだ。
▶#12につづく
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