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第14話:齟齬と軋轢
#10
しおりを挟むモーリー家筆頭家老フットバルトに、『アクレイド傭兵団』のハノーヴァーと、上級貴族筆頭セッツァーがどのような交渉を行ったのかは、不明であったが、それからしばらく経った9月20日。銀河皇国はモーリー家との協調関係となった事を、公式に発表した。
これは一定の外交成果のように思われるが、実際には領域拡大を目指して周辺の勢力と戦闘を繰り返している、モーリー家の軍事行動に対して、銀河皇国が“お墨付き”を与えた事になる。つまり現在モーリー家がオルトモス家やアマゴン家などの、周辺勢力に対して行っている領土拡張戦争を、星帥皇室が中立的立場を捨て容認したわけである。
しかも協調関係とは、モーリー家が星帥皇室を後ろ盾とする事であり、ウォーダ家と同格、或いはそれに近い立場を得たと言っていい。
さらに銀河皇国は星帥皇ジョシュアの名において、長年の宿敵関係にあったタ・クェルダ家とウェルズーキ家に、休戦と和睦の交渉に入るよう呼び掛けた。
しかしこれも、呼びかけられた両家からすれば、“大きなお世話”に近い話だった。宿敵関係なのは間違いないが、実は両家の関係はそれほど悪くない。タ・クェルダ家の当主シーゲン・ハローヴも、ウェルズーキ家の当主ケイン・ディンも根っからの武人で、戦いの際は相手を討ち取る事を最優先に考えるものの、普段は互いを高く評価しあっており、四年前の“第四次ガルガシアマ星雲会戦”以降は、事実上の休戦状態にある。したがってここでわざわざ休戦と和睦を、騒ぎ立てる必要はない。
そしてこれら一連の銀河皇国の動きは、ウォーダ家に何ら相談もなく行われたもので、発表直前になって知らされたノヴァルナが、難色を示したのは言うまでもない。
特にモーリー家との協調関係成立は、この前の“セッツー三守護”による、ハルマー宙域討伐と同じだ。ノヴァルナがこの先モーリー家と、どのように接していくかを考える前に、星帥皇室がまた先走ったのである。モーリー家は現在の『アクレイド傭兵団』の雇い主でもあるため、必然的に傭兵団も“銀河皇国側”となるのであるから、ノヴァルナが難色を示すのは無理もない話だった。
すると9月の30日、ミノネリラ宙域のギーフィー城に、モーリー家からの使者が到着する。モーリー家がウォーダ家同様、星帥皇室との協調関係を築いた事に対し、挨拶をさせて頂きたいとの事らしい。
ギーフィー城の謁見の間で玉座に座るノヴァルナの前に、使者が進み出る。スキンヘッドのヒト種の男…年齢は五十代前半であろうか。三人の側近と共に、正面のノヴァルナに深々とお辞儀をする。
頭を上げたスキンヘッドの男は、太めの声の落ち着いた口調で自己紹介する。
「ノヴァルナ殿下にはご機嫌麗しゅう。お初にお目にかかります。モーリー家で外務関係を取り仕切らせて頂いております、家老のエーケース=アンクルジーにございます」
これに対してノヴァルナは、腹の中で“俺は全然、ご機嫌麗しくねーけど…”と呟きながら、表面的には穏やかな表情で言葉を返した。
「アン・キー宙域からようこそ、はるばるお出で下された。ウォーダ家当主ノヴァルナ・ダン=ウォーダである」
この会談でノヴァルナはエーケースから、モーリー家はウォーダ家と敵対する意思は皆無である事、むしろウォーダ家と友誼を結んで、件のハルマー宙域と隣接するタンバール宙域の間で、銀河を東西二分した協力体制を築き、星帥皇室を中心とした皇国の秩序回復を、加速させたいと考えている事が伝えられた。
一連の説明を聞いたノヴァルナは、エーケースの手慣れた物言いから、“こいつはなかなかの切れ者だぞ”と、用心深い眼で正面にいる男を見据える。
星帥皇室の反応の速さから、協調関係を結ぶにあたって、何らかの裏工作を行ったのは確実でありながら、“仲間入り”の挨拶をしに、ウォーダ家の本拠地にまで使者を送って来る、モーリー家の面の皮の厚さもなかなかのものだが、この協調関係がモーリー家とウォーダ家の双方に、利益をもたらすものである事を臆面もなく堂々と説く、このエーケースという男も油断ならない。
「御家の主張はわかった」
ノヴァルナはそう応じて「少し尋ねたい事があるが、宜しいか?」と続ける。
「勿論にございます。なんなりと…」
丁重に頷くエーケース。
「御家は『アクレイド傭兵団』と契約し、戦力に加えておられるようだが、かの傭兵団はかつてミョルジ家と契約し、ミョルジ家の皇都侵攻と占領に、大きく関与したいきさつがあるはず。それでありながら、御家は星帥皇室側につくおつもりなのか?…御家の考え方を、お聞かせ願いたい」
エーケースはこの質問があるのを予想していたらしく、「はい」と応じると、淀みなく返答し始めた。
「ノヴァルナ様の御懸念は尤もなれど、『アクレイド傭兵団』は本質的に契約が全てである、中立の私兵集団にございます。多額の契約料と条件さえ揃えば、引き抜く事も可能。事実、ジョシュア陛下の御上洛に合わせて、かの傭兵団をミョルジ家から撤収させたるは、我がモーリー家にございます」
これを聞いて謁見の間に居た、ノヴァルナの家臣達は顔を見合わせる。確かに昨年のジョシュア上洛のタイミングで、『アクレイド傭兵団』の主力部隊がミョルジ家との契約を打ち切り、アン・キー宙域へ移動したのは、その後の戦局に大きな影響を与えた。ただその動きは突然すぎて不自然ともいえるもので、エーケースの言葉には以前からモーリー家が、『アクレイド傭兵団』と秘密裏に交渉を行っていた事を、匂わせている。
「それに、『アクレイド傭兵団』を我等の側につけておけば、敵対勢力に雇われる心配もございますまい」
さらに続けるエーケースに、ノヴァルナは疑問を呈す。
「しかし契約が全てであるのなら、どこかの勢力が貴殿ら以上の条件で契約を持ち掛けて来た場合、引き抜かれてまた敵に回るのではないか?」
「仰せの通りですが、それならばさらに好条件を、提示すればよいだけで」
「それだけの金額を出せる自信が、モーリー家にはある…と?」
口元を歪めて尋ねるノヴァルナに、「そういう事になりましょうか」とエーケースは、些かとぼけて応じる。
彼等モーリー家が、金に糸目をつけないように言うのには、理由があった。モーリー家の統治下にあるイール・ワミ宙域、本来の領地アン・キー宙域に隣接するこの宙域の首都星系イール・ワミ。その第四惑星オーモルと第五惑星ニーマ、そして第六惑星ユーノ・トゥは、希少金属の塊と言っていいほどの高い価値を持つ、鉱山植民惑星だった。
特にここで産出される極希少金属ミスタリレは、重力子ジェネレーターに使用する事で、対消滅反応炉から重力子を抽出する効率を、従来のアクアダイト以上に高める事ができる、近年発見され、使用法が確立された、非常に価値の高い鉱物である。そのミスタリレを大量に産出する星系を有した、モーリー家の財力はこの先さらに増していくであろう。確かにエーケースの言う通り、『アクレイド傭兵団』を繋ぎ留めておく金策も、可能なはずだ。
「なるほど…」と、思案顔のノヴァルナ。
モーリー家は、まだジョシュア・キーラレイ=アスルーガが星帥皇となる以前、ミョルジ家の追及を逃れたエテューゼ宙域へ逃亡していた時、自分達の領地アン・キー宙域にジョシュアを迎え入れ、上洛軍を編制してキヨウへ向かう用意がある旨を、打診していた事がある。
つまりその頃から勤皇の志はあった訳であるが、それを考えると今のモーリー家の『アクレイド傭兵団』に対する、割り切り方には納得できないものがある。それは傭兵団からの技術供与によって、ミョルジ家が造り出したあのバイオノイド:エルヴィスの存在だ。
銀河皇国の公式発表では、エルヴィスのバイオノイドの正体は伏せられ、急病死した事になってはいるが、モーリー家の情報網なら真実を掴んでいるはずである。
「貴殿らは、エルヴィスが本当の人間では無かったのを、知っているだろう?…いやよもや知らぬ、とは言わないだろう?」
問い質すノヴァルナの視線が厳しくなる。
▶#11につづく
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