銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第14話:齟齬と軋轢

#11

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 ノヴァルナの問いに、エーケースは「無論です」とさらりと肯定し、知っている事はそれだけではない事を明かす。

「ノヴァルナ殿下が、御自おんみずからアルワジ宙域まで赴かれ、エルヴィス様を討ち果たされた、という話も伺っております」

 エルヴィスをBSHOの直接対決でたおした事は、あまり世間に広められたくはない話だが、ノヴァルナは無頓着に「ほう…流石だな」と、不敵な笑みを浮かべる。ただそれに続いてエーケースが告げた言葉には、聞き捨てならないものがあった。

「いずれエルヴィス様は、亡くなられる運命であったはず。それをとどめを刺しに行かれるとは、殿下もご奇特な御方ですな」

「奇特…と言われるか」

「不快に思われたのならご容赦を。なにぶん傭兵団と示し合わせ、予めエルヴィス様の寿命を縮めおきたるは、我等モーリー家にございますので」

「!!??」

 これにはノヴァルナも眼を見開き、居並ぶ家臣団からも控えめながら、どよめきが起こった。アルワジ宙域で出会った謎の人物テン=カイから、バイオノイド:エルヴィスは最初から短命に終わるよう、細工をされていた疑いがあるとは聞いていたが、それがモーリー家と『アクレイド傭兵団』との、密約に基づくものであったのは、ノヴァルナをはじめウォーダ家の誰も想像だにしていなかったのだ。


“コイツは―――”

 ノヴァルナは双眸に浮かぶ警戒の色を濃くして、胸の内で呟いた。

“アクレイドの奴等の裏ボスは、本当はコイツらじゃねーのか…?”

 そこにエーケースから「ノヴァルナ殿下」と呼びかけられ、ノヴァルナは思考を現実世界へと戻す。

「このエルヴィス様に関する、傭兵団との示し合わせは、我等モーリー家にとって機密中の機密。それを殿下に打ち明けたる意味を、ご理解頂きとう…いえ、聡明な殿下であられるなら、必ずやご理解して頂けると思うておりますが」

「秘密の共有…というわけであるか?」

「さようです。我等はノヴァルナ様が、エルヴィス様を手にかけられた事を知っております。その代わりノヴァルナ様は、我等が傭兵団との示し合わせで、エルヴィス様を短命なバイオノイドに仕立てた事を、お知りになる。これをもって我等は、運命共同体というわけにございます」

「随分と一方的な、申し立てに思うが?」

「しかし、悪い話では無い…と存じますが?」

 もし言葉が白刃はくじんであるならば、謁見の間に居合わすウォーダ家の人間は皆、ノヴァルナとエーケースの間で火花が散るのを見たであろう。
 
「もし貴殿らが、エルヴィス製造に関与したのであれば、テルーザ陛下の殺害にも関与した事になると思うが、これについてはどうか?」

 なおも問い質すノヴァルナ。確かに前星帥皇テルーザを❘弑逆《しいぎゃく》したのはミョルジ家であるが、彼が操縦するBSHO『ライオウXX』を、戦場で機能不全に陥らせ、結果的にミョルジ家が大量に用意したBSI部隊に討ち取らせたのは、エルヴィスが乗ったBSHO『メイオウSX-1』だった。
 もしモーリー家が以前から、極秘裏に『アクレイド傭兵団』と繋がりを持ち、バイオノイド:エルヴィスの製造に関わっていたのなら、テルーザ殺害にも絡んでいる可能性が出て来る。そしてそうであるならノヴァルナとしては、モーリー家の星帥皇室への忠誠を、簡単に信じるわけにはいかない。

 その辺りのノヴァルナの心情も察したらしく、エーケースは一度、深めの会釈をして返答する。


「ノヴァルナ殿下の抱かれる疑念、当然でしょうな。実はこれには、ミョルジ家の当時の思惑も絡む、複雑な事情がございまして。正直にお話し致しますと―――」



 そこから先、エーケースが語ったのは、ノヴァルナも初めて聞く話であった。

 前星帥皇テルーザ・シスラウェラ=アスルーガの、バイオノイドを製造し始めたのは、ミョルジ家前当主ナーグ・ヨッグ=ミョルジが、テルーザを傀儡とし、皇都惑星キヨウを支配下に置いていた頃…今から、五年ほど前の事らしい。

 アーワーガ宙域からセッツー宙域に進出し、星帥皇室に不満を持つ周辺の独立管領などの勢力を糾合。さらに『アクレイド傭兵団』主力部隊を戦力に加えて、皇都惑星キヨウを占領したナーグ・ヨッグは実のところ、NNLシステムの完全独立化を、密かに目論んでいたという。

 ここで言うNNLシステムの完全独立化とは、星帥皇や上級貴族達の深々度サイバーリンクによる、NNLシステムの独占的支配から脱却し、徴税と予算配分などを人工知能が、個人の意思を交えずに機械的に処理する事を意味している。

 この考えは星帥皇や上級貴族達の、“人間の意志を交えた揺らぎのある統治”というNNLシステムの理念から外れ、退行ともいえるものである。
 しかし“オーニン・ノーラ戦役”による統治機構の疲弊と腐敗から、銀河皇国を立て直すにはこれしかないという、ナーグ・ヨッグの強い思いがそこにはあった。

 なぜならナーグ・ヨッグ自身、時代に翻弄された人間であったためだ。



▶#12につづく
 
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