銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第14話:齟齬と軋轢

#16

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「そういえばノヴァルナ様。今回の遠征にナギ殿は、参加されないのですか?」

 イェルサスが尋ねたのは、オウ・ルミル宙域ノーザ恒星群に領地を持つ星大名、ナギ・マーサス=アーザイルについてだった。銀髪が美しい、穏やかな印象の若者で、ノヴァルナの妹フェアンを妻にしている。ジョシュアの上洛戦をはじめ、これまで何度か共闘して、大きく貢献してくれており、ノヴァルナの信頼も厚い。

「ああ。アーザイル家はこれまで、アザン・グラン家に世話になって来たようだからな。参加させるわけにはいかねーさ」

 と告げるノヴァルナ。

 アーザイル家は三十年ほど前までは、オウ・ルミル宙域ノーザ恒星群のナッグ・ハンマ星系を唯一の領地とする、独立管領に過ぎなかった。それまでのノーザ恒星群は貴族系星大名のキーゴック家が支配しており、その中でアーザイル家は独立心を持ちながらも、従属を強いられていた。
 それでも着実に力を蓄え、家勢を高めていったアーザイル家はナギ・マーサス=アーザイルの祖父、スークマスが当主の代の皇国暦1530年に、キーゴック家で後継者を巡る内紛が起こると、これに乗じて同家をノーザ恒星群から、追放する事に成功する。

 しかしこの事により、他の独立管領から反発を買ったアーザイル家は、ノーザ恒星群に内戦を招き、解決の糸口を見いだせないまま、当主スークマスが戦死する事態となった。
 あとを継いだナギ・マーサス=アーザイルの父、クェルマス=アーザイルだったが家勢を立て直す前に、ノーザ恒星群に侵入して来た同じオウ・ルミル宙域の星大名、ロッガ家の強大な戦力の前に、支配下に入る事を余儀なくされる。

 だが当主の座をナギ・マーサスに据えたアーザイル家は、ノヴァルナが“フォルクェ・ザマの戦い”で、イマーガラ家を撃破したのと同じ皇国暦1560年、ロッガ家からの離反を正式に表明。これに激怒したロッガ家の討伐部隊を、“ノラーダ星雲会戦”で撃破し、星大名としての地位を確固たるものとした。

 そしてこのような歴史を辿るにあたり、物的・経済的にアーザイル家を支援し続けていたのが、隣接するエテューゼ宙域の星大名アザン・グラン家だったのだ。
 その支援は特に、クェルマス=アーザイルが当主となって、領国経営に苦労していた時に大きな援助となり、ロッガ家から離反する際の、原動力となったとも言われている。

 このような理由があるため、ノヴァルナは今回のアザン・グラン家討伐に、アーザイル家を参加させるのを控えたのであった。
 
 ノヴァルナの考えは、アーザイル家を同行させなくても、充分にアザン・グラン家への牽制になるというものであった。星帥皇室の指示でノヴァルナの遠征軍が、領域内の超空間ゲートを使用するのを認めるだけで、アーザイル家がウォーダ側にある事を示せるからだ。

「そうですね―――」

 頷いたイェルサスは納得顔で言葉を続ける。

「ナギ殿はともかく父親のクェルマス殿は、アザン・グラン家への恩義を重く見ておられると聞きます。実権は現当主のナギ殿が握られておられますが、余計な刺激は与えない方が得策でしょう」

「おう。その分、おまえにはマシマシで頑張ってもらうからな。今やスルガルム宙域も手に入れそうな勢いのおまえだし、アテにしてんぞ、イェルサス」

 尊敬するノヴァルナに“アテにしてる”と言われて、イェルサスは照れ臭そうに笑った。この辺りもノヴァルナ同様、イェルサスの昔と変わらない部分である。
 今のノヴァルナの言葉通り、かつては最大版図としてトーミ宙域とスルガルム宙域、そして事実上ミ・ガーワ宙域も支配下に置いていたイマーガラ家は、現在ではさらに衰退の一途を辿り、トーミ宙域をタ・クェルダ家、スルガルム宙域をトクルガル家が、大半を占領している状況だった。

 そんな状況の中で、トクルガル家の当主であるイェルサスが、自らノヴァルナのワクサー宙域遠征へ参加したのは、それだけスルガルム宙域での勢力拡大が、順調である事を意味している。

「そう言えばイチ様に無事、お子が産まれたようですね。遅ればせながら、おめでとうございます。なんでも、三つ子でしたとか?」

「おう、一週間前な。しかも三人とも女だとよ」

「それは!…さぞかし将来、お美しくなられましょうね」

 頬の筋肉を緩めるノヴァルナの顔をスクリーン越しに見て、イェルサスも眼を細めた。案外、ナギを遠征に参加させなかったのは、ナギに嫁いだイチ姫の出産を控えていたための、ノヴァルナの配慮かもしれない…と思ったりもする。冗談だろうと思う人間もいるだろうが、ノヴァルナには自分に厳しそうに見えて、実際はさらに自分に厳しく、身内には厳しそうでも甘いところがあるのを、知っているイェルサスである。

「なーんだ、イェルサス。てめーのその眼は?」

 イェルサスの視線の意味に気付いたらしいノヴァルナが、苦笑い交じりに詰問すると、イェルサスは「いえいえいえ…」と軽く手を振ってごまかした………



▶#17につづく
 
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