銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第14話:齟齬と軋轢

#15

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 皇国暦1564年11月15日。ワクサー宙域星大名タクンダール家より、銀河皇国に救援要請が入る。同宙域でタクンダール家に従属していた独立管領のムート家が、敵対していた隣接宙域エテューゼの星大名アザン・グラン家に寝返り、彼等の大戦力の艦隊を招き入れたというのである。

 ムート家はタクンダール家の家老職にあり、複数の植民星系を有する領地は、エテューゼ宙域との国境近くにあって、戦略的にも対アザン・グラン家防衛の点から重要な位置にあった。それが寝返った以上、アザン・グラン艦隊の侵攻を食い止める術はなく、すでに多数の植民星系がアザン・グラン家の手に落ちたようである。

 タクンダール家はいち早くジョシュア政権支持に回り、今年初めの“ミョルジ三人衆”による皇都急襲の際、派遣してくれた部隊が防衛戦の重要な一翼を担った、功績もあった。
 そのため星帥皇室と貴族院は、皇国軍を外征を受け持つノヴァルナのウォーダ家に、ワクサー宙域へ遠征し、アザン・グランの侵攻部隊の撃退と、ムート家の討伐を要請した。

 これを受けてノヴァルナは遠征軍の編制を命令。中央集団の戦力を中心にして、ヤヴァルト宙域駐留軍から、ミディルツ・ヒュウム=アルケティの第1防衛艦隊、セッツー宙域の“三守護”からイ・クーダ家の二個艦隊、さらに同盟を結んでいるミ・ガーワ宙域の、トクルガル家からも二個艦隊の援軍を呼ぶ。



 やがて11月30日、ミノネリラ星系に集結を完了した遠征軍は、ムート家とアザン・グラン軍が展開する、ワクサー宙域のオー・イー恒星群へ向けて進発した。
 戦力的にはウォーダ軍五個艦隊、トクルガル軍二個艦隊、イ・クーダ軍二個艦隊の計十個艦隊。これに補給部隊が随伴する。皇国軍としての軍事行動であるから、星帥皇室よりオウ・ルミル宙域内の超空間ゲート使用が承認されており、これを使えば、およそ五日でオー・イー恒星群へ到着できる予定であった。

 ミノネリラ星系最外縁部に設置された、六角形を形作る超空間ゲートのフレーム内へ進入する、多数が密集したウォーダ軍の宇宙艦。大部隊であるため、全ての艦が次の植民星系へ転移するには、三時間はかかる。だが全艦で一斉に統制DFドライヴを行うと、次の重力子チャージまで約八時間も待つ必要があるため、致し方ない所ではあった。
 したがって総旗艦『ヒテン』も、位置的に集団の中央付近にいるため、転移まで一時間以上待つ事になる。その間にノヴァルナは、後方のトクルガル家艦隊にいる当主の、イェルサスと通信を交わしていた。

「それにしても今回のアザン・グラン家、よくあれだけの戦力を、ワクサー宙域へ差し向ける事が出来ましたね」

 怪訝そうに言うイェルサスに、ノヴァルナは司令官席で腕組みをして応じる。

「さてな。カガン宙域のイーゴン教徒に備えていた戦力を、動かせる状況になったのかも知れねぇ」
 
 アザン・グラン家が統治するエテューゼ宙域は、ワクサー宙域とは反対側で、カガン宙域と接している。このカガン宙域は新興宗教のイーゴン教徒が、名ばかりの民主主義国家を建設しており、アザン・グラン家と敵対していた。

 ジョシュア・キーラレイ=アスルーガが星帥皇となる前、皇都キヨウから逃亡してエテューゼ宙域に身を潜めていた頃、上洛軍を出すように何度もアザン・グラン家に要請したが、当主のウィンゲートは頑として首を縦に振らなかった。その最大の理由が、敵対していたカガン宙域からの侵攻に、備えておかなければならないというものであったのだ。それがここに来て、ワクサー宙域へ大戦力を向けたとなると、考えられるのは、カガン宙域方面の戦力を薄くしても、問題のない状況になったという事である。

 ノヴァルナの言葉に、イェルサスは自分の推理を述べた。

「これはウェルズーキ家がカガン宙域方面に、戦力を差し向けているのかも知れませんね。今のウェルズーキ家は、タ・クェルダ家との戦闘を、控えているようですから」

「タ・クェルダとウェルズーキか…あそこも、奇妙な連中だよな」

 カイ/シナノーラン宙域星大名のシーゲン・ハローヴ=タ・クェルダと、エティル・ゴア宙域星大名のケイン・ディン=ウェルズーキは、何度も矛を交えた長年の宿敵でありながら、不思議な信頼関係を築いていた。
 戦場で相対した際は無論、相手を討ち取る心積もりはしているようなのだが、実際には互いに好敵手との戦略戦術比べを、楽しんでいるとしか思えないのである。しかも平時には、それぞれの領地で造られる自慢の酒類を、贈り合ったりもしているらしい。

「先日も、ホゥ・ジェン家に交易路を封鎖されている、タ・クェルダ家の植民星系に伝染病が蔓延した事件があったんですが、代わりにウェルズーキ家が医薬品の援助を行った、という話を伝え聞きました」

 イェルサスがそんな話をすると、「ふーん」と応じたノヴァルナは「ま。感動的な話ではあるがな、イェルサス」と、前置きして自分の考えを述べる。

「戦略、戦術は実際の戦場じゃぁ、楽しむようなもんじゃねぇ。なんせ兵の命が懸かってんだからな。“カイの虎”だか“エティル・ゴアの軍神”だが知らねーが、遊び半分で死地に行かされたんじゃあ、兵達はたまったもんじゃねーぜ」

 少々乱暴な物言いではあるが、今も昔も変わらぬ兄貴分の考え方に、イェルサスは「仰せの通り」と柔らかな笑顔で応じた。




▶#16につづく
 
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