369 / 526
第14話:齟齬と軋轢
#14
しおりを挟む言い方こそ素っ気ないが、ノヴァルナの表情には面白がるものがあった。ジークザルトの前任者のキノッサなどもそうなのだが、自己主張のはっきりしている相手は、嫌いではないノヴァルナである。
ジークザルトはキノッサを饗応役に選んだ理由を、ノヴァルナに過不足なく説明した。
トゥ・キーツ=キノッサは対人交渉術に長けている。これは“スノン・マーダーの一夜城”の際は密輸集団を味方につけ、ミノネリラ宙域攻略戦ではイースキー家の武将複数名を寝返らせ、さらに浪人となっていた稀代の軍師デュバル・ハーヴェン=ティカナックを、自分の参謀長に迎え入れただけでなく、強大な経済力を持つザーカ・イー自治星系のトップ、ソークン=イーマイアとウォーダ家への従属交渉を、成功させた実績からも明らかだ。
そんなキノッサをエーケースの饗応役としたのは、キノッサの人たらしの才能を見込んでの事だった。
キノッサには、エーケースの為人を見定めさせるとともに、個人的に友誼を結ばせようというのだ。そしてキノッサならば言わずとも、そうするであろうという確信がノヴァルナにはあった。
そしてそのキノッサにエーケースとの友誼を結ばせる理由こそ、将来的にウォーダ家がモーリー家と敵対関係となった際、交渉の窓口を残しておくためである。
今のところ開戦にまで至る可能性は低いが、万一の場合のための布石を、打っておくに越したことはないだろう。
ジークザルトの返答を正解と認めたノヴァルナは、ニヤリ…と相好を崩して告げた。
「ま。サルの奴が、アンクルジーに出し抜かれなけりゃ…の、話だがな」
その後エーケース=アンクルジーは、二週間の間バサラナルムに留まり、ノヴァルナとの会談を重ねただけでなく、各武将との面会や宇宙艦隊の演習視察に加え、バサラナルム各所の見物などの日々を過ごした。
この間の饗応役はすべてキノッサが務めており、ノヴァルナの思惑通り、個人的な友誼も深めたようである。
バサラナルム逗留の最終日となるこの日も、二度目の艦隊演習を視察。キノッサの旗艦『ヴェルセイド』に同乗して、ウォーダ軍中央集団を二分しての模擬戦闘を観戦していた。
遠征用の中央集団は精鋭揃いで、演習であっても実戦さながらに白熱しており、各艦で飛び交う報告と命令の声にも緊迫感がある。
「いや…これは壮観ですな、キノッサ殿」
旗艦『ヴェルセイド』の艦橋内に浮かぶ戦術状況ホログラムや、幾つもの光学映像ホログラムスクリーンに視線を巡らせ、エーケースは感嘆の声を漏らす。
エーケースの賛辞にキノッサは、自分が総司令官でもあるかのように、「そうでありましょう!」と胸を張る。
「ノヴァルナ様が鍛え上げられた、ウォーダの将兵。いかなる相手にも引けは取りませぬ…すべては、“銀河布武”実現のためにございます」
「なるほど、銀河布武ですか」
「はい。銀河皇国に秩序と安寧を取り戻すのが、ノヴァルナ様の目指されるところにございますれば家臣一同、その剣となり、盾となる決意を固めております」
ノヴァルナの方針に、盲目的に従っているように見えるキノッサ。その姿を背後から眺めて、エーケースは探るように疑問を伝える。
「しかし危うい言葉でもありますな。無駄に敵を作る事にもなりかねない、強すぎる言葉に思うのですが」
するとキノッサは「いやぁ~」と右手で頭を掻きながら、エーケースに振り返って、苦笑いと共に応じた。
「残念ながら、仰る通りにございます。ですが今の戦国の世は、力が全て。これはノヴァルナ様のお言葉ですが、“話を聞かない相手はぶん殴ってでも、聞かせる事が出来る実力”が必要なのも、また真実でありましょう」
「ふーむ…」
キノッサを見据え、小さく声を漏らすエーケース。この二週間に饗応役として、自分の傍らに居続けるこの小柄な若者が、見た目ほど単純な人間では無い、不思議で興味深い人物だという事が知れた。
今の態度も、おそらくノヴァルナの“銀河布武”を、本心から全面的に信じている一方で、信じている自分を演じるもう一人のキノッサが、内面に潜んでいるに違いない。そして二律背反であるはずの相反する人格が、この若者に限っては奇妙な事に、矛盾せずに存在しているのだ。
“これは面白い若者であるな。そしてそれを見抜いて、重用するノヴァルナ殿も、これまた面白い…”
そしてエーケースが興味を持ったのは、このキノッサだけではない。ウォーダ家の重臣達の大半が、まだ若いのも注目に値する。当主のノヴァルナもまだ二十代半ばだが、基幹艦隊の司令官のおよそ半数がノヴァルナと同年代である。後の半数は年長者であるが、元はイースキー家やロッガ家の武将、そしてウォーダの一族に連なる者達となっていた。
こういった家臣編制であるから、ウォーダ家の気風そのものが若々しい。しかも若い武将達は皆、今の自分に奢る事無く、さらなる高みを目指そうとしていた。いま自分が観ている艦隊演習もそうであり、本物のブラストキャノンや宇宙魚雷こそ使用していないものの、各艦の動きを見れば、どれだけ真摯に取り組んでいるかが分かる。
“ノヴァルナ殿のウォーダ家…我等モーリー家が敵にするには、今はまだ荷が勝ちすぎるな”
自分に艦隊演習まで包み隠さず見せたのは、もしそちらが本心では敵対するつもりであるなら、ウォーダ家の実力を見誤るな、というノヴァルナからのメッセージであると理解したエーケースは、この現状はアン・キー宙域に帰ってから、必ず報告しなければならない、と強く思ったのであった………
エーケース=アンクルジーがアン・キー宙域への帰途に就いたその頃、タイミングをに計らっていたかのように、皇都キヨウを訪れる使者があった。モーリー家ではない。エテューゼ宙域星大名のアザン・グラン家からである。
使者の名はヴァゼリエ=エヴァーキン。アザン・グラン家の重臣の中でも中心的な存在として、アザン・グラン家当主ウィンゲートの信任も厚い、五十代後半のヒト種の男だ。白髪を七三にきちんと分けている辺りに、実直さが感じられる。
ジョシュア政権への従属を渋っていたアザン・グラン家からの、キヨウへの使者となると、普通に考えるなら従属の承諾か拒否かを、星帥皇へ奏上するためのもののように思える。ところが皇国行政府『ゴーショ・ウルム』へ入った、エヴァーキンが向かったのは星帥皇への拝謁ではなく、バルガット・ヅガーサ=セッツァーら上級貴族のいる、貴族院であった。
小会議室の一つで会談するセッツァーとエヴァーキン。このアザン・グラン家からの使者は、星帥皇ジョシュアや側近達にも知らされていない。
「…計画の方、クェルマス殿もご同意下さり、こちらの手筈は、全て整いましてございます」
エヴァーキンの報告に、セッツァーは眼を細めて「それは重畳」と頷いた。そして続く言葉には、不吉な響きがある。
「タ・クェルダ、ウェルズーキ、ホゥ・ジェンに続き、モーリー家が賛同した今こそが、奢れるウォーダ家に訓戒をたれる好機」
「仰せの通りにございます。我が主君ウィンゲートも、“銀河布武”などと大言壮語を吐く輩に従うわけにはいかぬと、強く申しております」
エヴァーキンのノヴァルナ批判に、セッツァーは渋い顔で大きく頷く。
「さよう。“皇国の秩序を取り戻す”と口では言いながら、事もあろうに星帥皇陛下に対し、意見書を突きつける。これではミョルジ家が、キヨウに居座っていた頃と、何ら変わりませぬ」
「野心を現して来た…という事でしょうな」
エヴァーキンが舌打ち顔で言い捨てると、セッツァーは表情を哀しげにして、ノヴァルナへの同情の言葉を述べる。無論、演技に過ぎないが。
「初心の頃は、真に陛下と皇国の行く末を案じての、上洛であったのだと思いまするが…いざ、皇国の中心たるキヨウを己が手中に収めてしまうと、ノヴァルナ公ほどの人物でも権力に眼が眩むのでしょう。まこと哀れな事です…」
革新の風を求めるノヴァルナに今、旧態依然を望む抵抗勢力という、逆風が強く吹こうとしていた―――
▶#15につづく
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる