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第14話:齟齬と軋轢
#17
しおりを挟む三日後、オウ・ルミル宙域ノーザ恒星群ナッグ・ハンマ星系第三惑星グバング、アーザイル家本拠地オルダニカ城―――
夕闇が包もうとしている巨城に、次々と明かりが灯り始める。その城の一角から直上の衛星軌道に浮かぶ宇宙城、『キールゴーク=クールマ』まで伸びた軌道エレベーターが透き通った光を帯びて美しい。
「お帰りなさい」
オルダニカ城の敷地内の当主居住区にある、私邸に戻ったナギ・マーサス=アーザイルを、妻のフェアンが出迎えた。もっとも出迎えと言っても、ベッドの上で上体を起こした状態だったが。
「ただいま」
青灰色のアーザイル家の軍装の襟をはだけさせながら、フェアンに歩み寄ったナギは彼女の頬に軽くキスをする。二人の傍らでは三人の赤子が、保育ベッドに並んで、寝息を立てていた。
「我等が姫様方は、元気でお過ごしだったかな?」
そう言ってナギは三つ子に振り向き、一人ずつ人差し指で頬をやさしく撫でる。夫のそんな姿に、フェアンは柔らかな笑みを零して尋ねた。
「名前、決まったの?」
「うん。フェアンが候補を山ほど出すから、だいぶ迷ったけどね」
「ふふっ。ごめん、聞かせて」
妻になり、そしていま母になり、大人の女性となっても、フェアン・イチ=アーザイルには、昔ながらの爛漫さが所々で顔を覗かせる。ナギは三つ子の眠っている保育ベッドの向こう側へ回り、決めた名前を妻に告げる。
「一番上がティーチェス。二番目がハーティア。三番目がオルーガ」
それを聞いてフェアンは「よしっ!」と、小さくガッツポーズをした。
「え、どういうこと?」
不思議がるナギに、フェアンは無邪気な笑顔を向けて言う。
「あたしの予想通りだった、から!」
「ええ?…」
「ちょっと、引かないでよ」
そう言って二人は笑い声を上げた。初産が三つ子であったため、母体への負担を考えて少し長めの休養をとっていたフェアンだったが、明日にでもベッドから出られる予定である。
「ノヴァルナ兄様が今、この宙域を通ってるんでしょ。ここへ寄って、この子達に会ってくれてもいいのになぁ」
「はは…。でも今回は、軍事行動だから無理だよ」
自分の気持ちに率直なフェアンに、苦笑いを浮かべるナギ。するとそこに、城の本丸から内線通信が入る。ホログラムスクリーンの中で、取次役の侍女が伝えたのは、父親のクェルマスがナギを呼んでいるらしい。重要な話があるようだ。
「戻ったばかりなのに…重要な話か。とにかく、行って来るよ」
そう言って軍装を肩にかけ、部屋を出ていくナギに、フェアンはにこやかに手を振っていた………
ノヴァルナ率いる遠征軍は、オウ・ルミル宙域内の超空間ゲート複数を、途中で艦隊運動の演習を行いつつ連続使用し、予定通りの12月5日にワクサー宙域に到着した。遠征軍の編制は以下の通りである。
■ウォーダ軍中央集団
第1艦隊/司令官ノヴァルナ・ダン=ウォーダ直卒
第7艦隊/司令官カッツ・ゴーンロッグ=シルバータ
第8艦隊/司令官トゥ・シェイ=マーディン
第31艦隊/司令官ナルマルザ=ササーラ
第36艦隊/司令官トゥ・キーツ=キノッサ
■ヤヴァルト宙域駐留軍
第1防衛艦隊/司令官ミディルツ・ヒュウム=アルケティ
■トクルガル家派遣部隊
第1艦隊/司令官イェルサス=トクルガル直卒
第4艦隊/司令官ズーマ=イシカー
■イ・クーダ家派遣部隊
第1艦隊/司令官カトラス=イ・クーダ直卒
第2艦隊/司令官ヴェラクス=アラック
■補給部隊護衛隊
第1特務艦隊/司令官ヴァルミス・ナベラ=ウォーダ
ウォーダ軍の遠征用軍団である中央集団は、本来は九個艦隊編成なのだが、留守中にまた“ミョルジ三人衆”が、皇都を狙って動く可能性もあるため、残る四個艦隊は後詰として、ミノネリラ宙域とヤヴァルト宙域の間にある、オウ・ルミル宙域へ配置。その代わりとして、トクルガル家とイ・クーダ家から援軍を得ている。
また皇都を防衛するための第1防衛艦隊が参加しているのは、“星帥皇室直轄部隊”という地位が与えられた事によるもので、星帥皇ジョシュアの名代として、テスバルーゴ・セーニ=フィノスという名の貴族が、ミディルツに同行していた。
ただ、ワクサー宙域の状況は良くない。遠征軍が向かっている間に、アザン・グラン軍は宙域首都オルバーマ星系まで電撃侵攻。タクンダール家の本拠地ノーティス・シャーマンを包囲すると、当主モルトアークを捕虜にしてしまっていた。
これに対処するため、ノヴァルナは戦略を変更。ワクサー宙域のオー・イー恒星群へ向かうのではなく、攻略目標をエテューゼ宙域のトルガー恒星群とした。
この恒星群内に広がっているガルザック星雲には、アザン・グラン家にとって、ワクサー宙域方面への戦略的要衝となる宇宙城『カノン・ガルザック』がある。
『カノン・ガルザック』は、艦隊の修理と補給も行える大規模な宇宙城であり、これを占領下に置いて、モルトアーク=タクンダールの返還交渉を行おうというのが、ノヴァルナの思惑であった。
▶#18につづく
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