銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

文字の大きさ
373 / 526
第14話:齟齬と軋轢

#18

しおりを挟む
 
 ガルザック星雲に入ったウォーダ軍は12月8日、手始めに『カノン・ガルザック』宇宙城の支城となる宇宙要塞『トゥ・ズール』に対し、第7艦隊司令官のカッツ・ゴーンロッグ=シルバータに指揮を執らせ、トゥ・シェイ=マーディンの第8艦隊と、ナルマルザ=ササーラの第31艦隊を派遣、これの攻略を命じた。

 一方でノヴァルナが率いる主力部隊は、『カノン・ガルザック』宇宙城へ直進。12月9日に交戦距離に到達する。この時シルバータの別動隊が早くも、『トゥ・ズール』の攻略に成功したとの一報が入り、主力部隊の士気は大いに上がった。

「前哨駆逐艦より索敵情報。敵宇宙城前面に、複数の艦隊を発見」

 総旗艦『ヒテン』の艦橋に、オペレーターの報告の声が響く。同時に艦橋中央に浮かぶ戦術状況ホログラムと、前方光学ヴュアースクリーンに、発見された敵艦隊のマーカーが出現するのを、司令官席にノヴァルナは見詰めていた。

 ガルザック星雲は細く伸びた紫と赤のガス雲が何本も、揺らぎながら放射線状に伸びた形をしており、さながら抽象画家が描くヒマワリや太陽のようである。その中心部奥には白く輝く恒星があり、巨大な『カノン・ガルザック』宇宙城を黒いシルエットとして浮き立たせている。敵の艦隊はその城の前方で、帯状に展開しているらしい。ノヴァルナは司令官席の背もたれに上体を預けて、命令を発する。

「合戦準備。全艦隊に伝達、“我に続け”」

 遠征部隊はノヴァルナの第1艦隊を中央に、左にミディルツの星帥皇室艦隊、右にキノッサの第36艦隊を置き、そのさらに左外側やや後方にトクルガル艦隊、右外側やや後方にイ・クーダ艦隊を、各二個ずつ配置していた。

「敵艦隊の戦力、推定二個艦隊」

 オペレーターの新たな報告に、ノヴァルナの参謀達が眉をひそめる。思った以上に宇宙城の防衛艦隊が、手薄だからだ。そんな参謀達の気持ちを代弁したのが、ヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガである。ヤーマト宙域に領地を持つこのフォクシア星人の初老の男は、独自にアザン・グラン家との外交チャンネルを築いており、交渉役として遠征に加わっていたのだ。

「これはまた、戦略的要衝とは思えぬ、手薄さですなぁ」

 これから戦端が開かれようという時に、のんびりとした口調で言われ、ノヴァルナは不敵な笑みを、ヒルザードに向けた。

「何か仕掛けがある…ってのか?」

「さにあらず。これはアザン・グラン家内での問題…派閥争いが、絡んでいるのやも知れませぬぞ」

 ニタリ…と粘着質の笑みを返すヒルザード。
 
 派閥争い?…と問い質すノヴァルナにヒルザードは、この武将しかこの場では知る者がいないであろう、アザン・グラン家の情報を開陳する。

 それによるとアザン・グラン家は、ノヴァルナによって統一される前のかつてのウォーダ家のように、嫡流である当主ウィンゲートの宗家と、一門衆との主導権争いが、長年にわたって水面下で続いているらしい。

「もっともアザン・グラン家の場合は、ウォーダ家のように内戦にまで、発展したようなものではありませんが」

 あからさまなヒルザードの物言いに、周囲にいた副官のランやノヴァルナの参謀達は、不快そうな眼を向けた。ただノヴァルナだけは「ふん…」と、軽く鼻を鳴らすだけで動じない。その反応にヒルザードは「これは失礼」と、いかにも上辺だけの態度で頭を下げて言葉を続ける。

「あの『カノン・ガルザック』城を守るのは、一門衆の中でも筆頭と言われるカーティス=アザン・グラン。かの者は主導権争いの、只中にいるとされております」

「つまり、ウィンゲートや他の一門衆が、援軍を出して来ていない…ってのか?」

「さように思われまするなぁ」

「くだらねぇ…と言いたいとこだが、ひと昔前までのウチを思い返すと、そういうわけにもいかねぇな」

 苦笑いでそう応じたノヴァルナは一方で、十二隻先行させている前哨駆逐艦を呼び戻さずに、戦場を迂回してさらに宇宙城の向こうまで、前進するよう命じる。ガルザック星雲の星間ガスが濃密な部分に、敵艦隊の本隊が潜んでおり、宇宙城攻略戦の最中に襲撃して来る可能性や、敵の増援部隊の到着が何らかの理由で、遅れている可能性を考慮しての事だ。

 そこにオペレーターが敵防衛艦隊との距離を告げる。

「敵前衛艦隊との距離、およそ八万」

「艦隊針路このまま。全艦砲雷撃戦用意、艦載機発艦準備」

 ノヴァルナが落ち着いた口調で命じると、それは即座にウォーダ軍の各艦隊司令官から各艦に伝わり、それぞれの艦長が同様の命令を出す。そしてこれがさらに、担当士官の復唱となって広がっていく。

「針路そのまま」

「針路直進よーそろー!」

「全艦、砲雷撃戦用意」

「砲雷撃戦よーい!」

「艦載機発艦準備」

「艦載機、発艦準備せよー!」

 やがて両軍が砲戦距離に達すると、各々の艦が火蓋を切り、搭載しているBSIユニットとASGUL、攻撃艇の群れが放たれ始めた。星の数が一挙に倍増したように見えるのは、無数の爆発光であるのは言うまでもない。
 
 敵は防衛艦隊の戦力が少ない分、『カノン・ガルザック』宇宙城の要塞砲を、有効活用しようとするに違いないと考えて、ノヴァルナは自身の艦隊とキノッサ、ミディルツの艦隊を急進させ、防衛艦隊を混戦に持ち込んだ。両軍が入り乱れれば、迂闊に要塞砲が撃てないからである。

 そして敵の二個艦隊を、ノヴァルナら三個艦隊で拘束している間に、トクルガル艦隊と、イ・クーダ艦隊が両側から回り込み、『カノン・ガルザック』城の攻略に向かった。指揮を執るイェルサスとカトラスが、異口同音に命じる。

「要塞砲に注意しろ。戦隊ごとに分かれて距離を詰める!」

 敵艦隊との交戦はノヴァルナの本隊が引き付けているため、トクルガル軍とイ・クーダ軍は、宇宙城攻略に専念できる。そうなれば艦隊戦用の陣形は、むしろ敵の要塞砲に狙われやすしてやるだけだ。戦艦戦隊、重巡戦隊、宙雷戦隊が分離して、思い思いに宇宙城との距離を詰める。

 とその時、攻略部隊の各宇宙艦のセンサーが、宇宙城から砂粒をばら撒く様に、無数の小さな反応が飛び出して来るのを捉えた。直掩のBSI部隊と、やや大きく表示されているのは、おそらく宙雷艇の集団だろう。
 これを知ってイェルサスとカトラスはすぐさま、後方に控えさせた空母部隊からBSI部隊を発艦させる。その中でもイェルサス直卒の、トクルガル軍第1艦隊に所属する空母からは、BSHO『カヅノーVC』に乗った凄腕パイロット、十九歳のティガカーツ=ホーンダートの出撃は、注目の的であった。

「“ランサー00”ホーンダート、『カヅノーVC』。テイク・オフ」

 どこかのんびりとした口調で管制室に告げたティガカーツは、漆黒の人型機動兵器を宇宙空間へ解き放つ。その左手にはオリジナルの大型ポジトロンランス、『ドラゴンスレイヤー』が握られていた。
 またその『カヅノーVC』を囲むBSIユニットも、この戦いからトクルガル軍オリジナルの、『FFJ-476リュウビ』が投入されている。経済的な理由からBSIユニットの主力を成すのは、今はまだ旧イマーガラ家の『トリュウ』であったが、この先順次、更新されていく予定となっている。

「こちらコマンドコントロール。“ランサー00”、これより貴官は“コマンドコントロール86”がサポート致します」

 母艦の戦闘管制官の女性から通信が入ると、ティガカーツはその日の気分で出力比率を変える、スロットルのブースター調整を勝手に行いながら、緊張感のない声で、「うん。よろしく」とぶっきらぼうに応じた。




▶#19につづく
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...