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第14話:齟齬と軋轢
#19
しおりを挟むしかしながら朴訥な印象と裏腹に、ティガカーツの技量は凄まじい。機体性能を活かして味方のBSI部隊も置き去りにすると、右手に握っていた超電磁ライフルを、無造作に一連射した。
ところがこの無造作に見える射撃は、恐るべき効果を発揮する。宇宙城守備隊のBSI部隊の先頭をきっていた、三機のASGULが一度に砕け散ったのだ。一連射八発で三機を仕留めるなど、常識的には考えられない。ティガカーツは先頭の三機が一直線に並ぶ瞬間を、ほぼ完全に予測していたのだ。
「うん」
概ね思った通り…とティガカーツは小さく頷き、敵編隊に空いた綻びの中へ先陣切って突入する。驚いた敵のBSI部隊が距離を取ろうとすると、各機の動揺が編隊の正面から全体へ、波紋のように広がる。そこへ母艦の女性管制官から、いきなりの抗議。
「“ランサー00”。突出し過ぎです。危険な単独行動は控えて下さい」
「うん。そうだね」
抑揚のない声で無表情に応じたティガカーツは、操縦桿を一気に倒し、機体を九十度ダイブさせる。その元居た位置に、敵の超電磁ライフルの銃弾と、ブラスタービームが殺到した。
そしてこれは、ティガカーツが張った罠だ。
突出して来たティガカーツの『カヅノーVC』への、集中攻撃に敵が気を取られていた一瞬を狙い、後続していた“ランサー中隊”が一斉射撃を行う。幾つもの爆発が起こって、宇宙城直掩隊のBSI部隊は完全に隊列が乱れた。
「よし。全機突撃!」
好機と見た“ランサー中隊”の隊長が、全機に突撃を命じる。その間にもティガカーツは、機体を急上昇させながらスクロール射撃。敵部隊の機体を幾つも撃ち抜いて、崩れた編隊を刺し貫いていった。
「“ランサー00”、繰り返します! 突出を控えて下さい!」
担当の女性管制官が、少し苛立った声で指示を出す。
「うん。“突出”と“単騎駆け”は、違うんだけどね」
ぼそりと返答しつつも、『カヅノーVC』を縦横無尽に操り、次々と敵機を撃破していくティガカーツ。その光景を見た“ランサー中隊”の僚機が、隊長機に通信で話し掛ける。
「噂通りの天才で…変人ですね」
「まったくだな。常にああいった動きで、敵に突っ込んでいっても、機体に傷一つ付けた事はないらしい」
同じ中隊でありながら、どこか他人のような隊長の物言い。それもそのはずティガカーツは本来、イェルサスの第1艦隊の所属ではないからだ。この“ランサー中隊”で戦っているのも、臨時に組み込まれている事によるものだった。これはティガカーツがイェルサスに同行を願い出たためで、その理由は、ある敵将との手合わせを望んでいたからである。
そのアザン・グラン家の武将の名は、ネオターク・ジュロス=マガラン。銀河皇国では珍しい、モルンゴール星人の武将である。
戦闘民族モルンゴール星人が主体となっているモルンゴール帝国は、ヤヴァルト銀河皇国がシグシーマ銀河系に、版図を広げる途上で遭遇した恒星間帝国だった。
シグシーマ銀河系の約五分の一を領有していた彼等は、接触した他の恒星間種族を支配下に置く事を国是としており、強大な武力を背景にして、銀河皇国に服従を要求した。これが今からおよそ三百年前の事で、当然ながらこれを拒絶したヤヴァルト銀河皇国と、全面戦争を起こした。それがこれまでの、モルンゴール帝国のやり方だったからだ。
当初は銀河皇国に属するフォクシア星人の帝国への寝返りもあり、銀河皇国は苦境に立たされた。人型機動兵器BSHOも元は、モルンゴール帝国の主力兵器の一つであり、その威力に驚いた銀河皇国が自らも開発したものだ。銀河皇国ではサイバーリンク適性を持った将官専用機のBSHOだが、モルンゴール帝国では、上級兵用専用機としてBSHOが量産されており、猛威を振るったのである。
しかし三十年近い戦争の結果は、モルンゴール帝国の敗北。帝国は解体され、その領土の大部分を、銀河皇国に併呑される事となった。
だがモルンゴール星人の大半は、銀河皇国に隷属する事をよしとせず、併呑の際に降伏条件で獲得した帝都惑星ゴルンと、幾つかの自治星系に引き籠り、政治的に銀河皇国に関わる事は現在でも殆ど無い。
ただ彼等が戦闘民族である部分では、サイガール星系の第五惑星サイガンのように、傭兵業で皇国に関与している者もおり、ネオターク・ジュロス=マガランのマガラン家は、この傭兵からアザン・グラン家の武将となった、稀なケースだった。
そしてマガランの能力は、戦闘民族と呼ばれるに相応しいものであった。モルンゴール帝国製のBSHO『キョウマ』を駆り、ひとたび戦場に出ると『タイロン』と名付けられた、大型クァンタムブレードの連続斬撃。周囲の宇宙空間が、凍結した敵パイロットの血飛沫で、赤い星雲となる…と言われるほどだ。
このような剛の者であるから、その名は周辺宙域どころか銀河中に知れ渡っており、当然ながらトクルガル家の天才BSIパイロット、ティガカーツ=ホーンダートにも届いている。
そしてウォーダ家と共に、トクルガル家がアザン・グラン家と戦うこの機会に、マガランと戦場で相まみえる事が出来るのではないか、とティガカーツは期待し、イェルサスに同行を直訴したのであった。
「でもまぁ、今日は当然…いないよね」
これが大気中なら、ヒュンヒュンと風切り音が鳴るであろう、大型ポジトロンランス『ドラゴンスレイヤー』を回転させながら、ティガカーツがぼそりと言う。そんな天才若手パイロットの乗る、『カヅノーVC』の周囲には、アザン・グラン家のBSIユニット『ハヤテ』が、幾重にも取り囲んでいた。単騎駆けが過ぎて、敵中に孤立してしまったのだ。
「だから、突出し過ぎだって、何度も言ってるでしょーーー!!」
ティガカーツをサポートする母艦の女性管制官が叫んだのを、合図にしたわけではないが、周囲の『ハヤテ』とその親衛隊仕様『ハヤテGC』が、一斉に襲い掛かる。しかしティガカーツは慌てる事無く、まず左手に握る『ドラゴンスレイヤー』を縦にひと振り、真っ先に突っ込んで来た『ハヤテ』の頭部を、穂先の刃で真っ二つに叩き割った。
「あのさぁ、集まり過ぎなんだよね…」
気だるげな物言いと共に、鑓とは反対方向に向けた超電磁ライフルで、二機目と三機目を仕留める。突き出した鑓でさらに四機目を撃破、くるりと返した逆手のポジトロンランスで、五機目の『ハヤテ』の胸部を貫く。ティガカーツが指摘した通り、敵はBSIユニットが集まり過ぎたため、同士討ちの恐れがある超電磁ライフルが、使用し難くなっているのだ。対するティガカーツの方は、周囲が全て敵であるから、なんの遠慮もする必要はない。もっともこれは、ティガカーツならではの考え方なのだが…。
「くそッ! 全機もっと間合いを詰めろ。懐まで飛び込んで動きを封じるんだ!」
アザン・グラン家の指揮官が、憔悴した表情で命令を発する。『カヅノーVC』の持つ長大なポジトロンランスの間合いを考えれば、至近距離からのクァンタムブレードの斬撃が、有効なはずだからだ。
だがそこまで間合いを詰めるのが、至難の業なのである。『カヅノーVC』が持つ『ドラゴンスレイヤー』の恐るべき威力は、その穂先の陽電子ブレードによる斬撃や刺突だけでなく、強靭な硬度の太い柄による打撃も含まれる。アザン・グランの『ハヤテ』がQブレードの間合いに到達する前に、『ドラゴンスレイヤー』の柄が振るわれて、機体の外殻装甲版が砕かれ、内部機構が破壊されるのだ。
しかもティガカーツが変人であるのは、次々と撃破数を稼ぐこのような状況で、敵側の戦術の反省点を考えるところだった。
“うーん…違うんだよね。ここはブレードでの接近戦じゃなくて、同士討ち覚悟で銃撃を集中するのが、正解なんだけどなぁー”
▶#20につづく
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