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第14話:齟齬と軋轢
#18
しおりを挟むガルザック星雲に入ったウォーダ軍は12月8日、手始めに『カノン・ガルザック』宇宙城の支城となる宇宙要塞『トゥ・ズール』に対し、第7艦隊司令官のカッツ・ゴーンロッグ=シルバータに指揮を執らせ、トゥ・シェイ=マーディンの第8艦隊と、ナルマルザ=ササーラの第31艦隊を派遣、これの攻略を命じた。
一方でノヴァルナが率いる主力部隊は、『カノン・ガルザック』宇宙城へ直進。12月9日に交戦距離に到達する。この時シルバータの別動隊が早くも、『トゥ・ズール』の攻略に成功したとの一報が入り、主力部隊の士気は大いに上がった。
「前哨駆逐艦より索敵情報。敵宇宙城前面に、複数の艦隊を発見」
総旗艦『ヒテン』の艦橋に、オペレーターの報告の声が響く。同時に艦橋中央に浮かぶ戦術状況ホログラムと、前方光学ヴュアースクリーンに、発見された敵艦隊のマーカーが出現するのを、司令官席にノヴァルナは見詰めていた。
ガルザック星雲は細く伸びた紫と赤のガス雲が何本も、揺らぎながら放射線状に伸びた形をしており、さながら抽象画家が描くヒマワリや太陽のようである。その中心部奥には白く輝く恒星があり、巨大な『カノン・ガルザック』宇宙城を黒いシルエットとして浮き立たせている。敵の艦隊はその城の前方で、帯状に展開しているらしい。ノヴァルナは司令官席の背もたれに上体を預けて、命令を発する。
「合戦準備。全艦隊に伝達、“我に続け”」
遠征部隊はノヴァルナの第1艦隊を中央に、左にミディルツの星帥皇室艦隊、右にキノッサの第36艦隊を置き、そのさらに左外側やや後方にトクルガル艦隊、右外側やや後方にイ・クーダ艦隊を、各二個ずつ配置していた。
「敵艦隊の戦力、推定二個艦隊」
オペレーターの新たな報告に、ノヴァルナの参謀達が眉をひそめる。思った以上に宇宙城の防衛艦隊が、手薄だからだ。そんな参謀達の気持ちを代弁したのが、ヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガである。ヤーマト宙域に領地を持つこのフォクシア星人の初老の男は、独自にアザン・グラン家との外交チャンネルを築いており、交渉役として遠征に加わっていたのだ。
「これはまた、戦略的要衝とは思えぬ、手薄さですなぁ」
これから戦端が開かれようという時に、のんびりとした口調で言われ、ノヴァルナは不敵な笑みを、ヒルザードに向けた。
「何か仕掛けがある…ってのか?」
「さにあらず。これはアザン・グラン家内での問題…派閥争いが、絡んでいるのやも知れませぬぞ」
ニタリ…と粘着質の笑みを返すヒルザード。
派閥争い?…と問い質すノヴァルナにヒルザードは、この武将しかこの場では知る者がいないであろう、アザン・グラン家の情報を開陳する。
それによるとアザン・グラン家は、ノヴァルナによって統一される前のかつてのウォーダ家のように、嫡流である当主ウィンゲートの宗家と、一門衆との主導権争いが、長年にわたって水面下で続いているらしい。
「もっともアザン・グラン家の場合は、ウォーダ家のように内戦にまで、発展したようなものではありませんが」
あからさまなヒルザードの物言いに、周囲にいた副官のランやノヴァルナの参謀達は、不快そうな眼を向けた。ただノヴァルナだけは「ふん…」と、軽く鼻を鳴らすだけで動じない。その反応にヒルザードは「これは失礼」と、いかにも上辺だけの態度で頭を下げて言葉を続ける。
「あの『カノン・ガルザック』城を守るのは、一門衆の中でも筆頭と言われるカーティス=アザン・グラン。かの者は主導権争いの、只中にいるとされております」
「つまり、ウィンゲートや他の一門衆が、援軍を出して来ていない…ってのか?」
「さように思われまするなぁ」
「くだらねぇ…と言いたいとこだが、ひと昔前までのウチを思い返すと、そういうわけにもいかねぇな」
苦笑いでそう応じたノヴァルナは一方で、十二隻先行させている前哨駆逐艦を呼び戻さずに、戦場を迂回してさらに宇宙城の向こうまで、前進するよう命じる。ガルザック星雲の星間ガスが濃密な部分に、敵艦隊の本隊が潜んでおり、宇宙城攻略戦の最中に襲撃して来る可能性や、敵の増援部隊の到着が何らかの理由で、遅れている可能性を考慮しての事だ。
そこにオペレーターが敵防衛艦隊との距離を告げる。
「敵前衛艦隊との距離、およそ八万」
「艦隊針路このまま。全艦砲雷撃戦用意、艦載機発艦準備」
ノヴァルナが落ち着いた口調で命じると、それは即座にウォーダ軍の各艦隊司令官から各艦に伝わり、それぞれの艦長が同様の命令を出す。そしてこれがさらに、担当士官の復唱となって広がっていく。
「針路そのまま」
「針路直進よーそろー!」
「全艦、砲雷撃戦用意」
「砲雷撃戦よーい!」
「艦載機発艦準備」
「艦載機、発艦準備せよー!」
やがて両軍が砲戦距離に達すると、各々の艦が火蓋を切り、搭載しているBSIユニットとASGUL、攻撃艇の群れが放たれ始めた。星の数が一挙に倍増したように見えるのは、無数の爆発光であるのは言うまでもない。
敵は防衛艦隊の戦力が少ない分、『カノン・ガルザック』宇宙城の要塞砲を、有効活用しようとするに違いないと考えて、ノヴァルナは自身の艦隊とキノッサ、ミディルツの艦隊を急進させ、防衛艦隊を混戦に持ち込んだ。両軍が入り乱れれば、迂闊に要塞砲が撃てないからである。
そして敵の二個艦隊を、ノヴァルナら三個艦隊で拘束している間に、トクルガル艦隊と、イ・クーダ艦隊が両側から回り込み、『カノン・ガルザック』城の攻略に向かった。指揮を執るイェルサスとカトラスが、異口同音に命じる。
「要塞砲に注意しろ。戦隊ごとに分かれて距離を詰める!」
敵艦隊との交戦はノヴァルナの本隊が引き付けているため、トクルガル軍とイ・クーダ軍は、宇宙城攻略に専念できる。そうなれば艦隊戦用の陣形は、むしろ敵の要塞砲に狙われやすしてやるだけだ。戦艦戦隊、重巡戦隊、宙雷戦隊が分離して、思い思いに宇宙城との距離を詰める。
とその時、攻略部隊の各宇宙艦のセンサーが、宇宙城から砂粒をばら撒く様に、無数の小さな反応が飛び出して来るのを捉えた。直掩のBSI部隊と、やや大きく表示されているのは、おそらく宙雷艇の集団だろう。
これを知ってイェルサスとカトラスはすぐさま、後方に控えさせた空母部隊からBSI部隊を発艦させる。その中でもイェルサス直卒の、トクルガル軍第1艦隊に所属する空母からは、BSHO『カヅノーVC』に乗った凄腕パイロット、十九歳のティガカーツ=ホーンダートの出撃は、注目の的であった。
「“ランサー00”ホーンダート、『カヅノーVC』。テイク・オフ」
どこかのんびりとした口調で管制室に告げたティガカーツは、漆黒の人型機動兵器を宇宙空間へ解き放つ。その左手にはオリジナルの大型ポジトロンランス、『ドラゴンスレイヤー』が握られていた。
またその『カヅノーVC』を囲むBSIユニットも、この戦いからトクルガル軍オリジナルの、『FFJ-476リュウビ』が投入されている。経済的な理由からBSIユニットの主力を成すのは、今はまだ旧イマーガラ家の『トリュウ』であったが、この先順次、更新されていく予定となっている。
「こちらコマンドコントロール。“ランサー00”、これより貴官は“コマンドコントロール86”がサポート致します」
母艦の戦闘管制官の女性から通信が入ると、ティガカーツはその日の気分で出力比率を変える、スロットルのブースター調整を勝手に行いながら、緊張感のない声で、「うん。よろしく」とぶっきらぼうに応じた。
▶#19につづく
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