銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第15話:カノン・ガルザック撤退戦

#02

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 しかし…現実を曲解したところで、状況が自分の都合のいいものに、変化するはずもない―――

 ノヴァルナが会議を中断して約四十分後、後方にいる第1特務艦隊の別の哨戒駆逐艦が、アーザイル家の新手の艦隊群を発見したとの報告が、総旗艦『ヒテン』に届く。しかも新手は二つ、位置は最初に発見した艦隊群の上下後方に、一辺二億キロの正三角形を描く形だった。明らかにウォーダ軍の後方…逃げ道を塞ぐ動きである。
 そしてさらに、別の艦隊群がガルザック星雲の、アーザイル家領側の出口付近に居るのが判明。するとそれに呼応するように、キーメラ星団に集結中のものとは別と思われる、アザン・グラン家の複数の艦隊も接近中である事が確認された。

 アーザイル家が味方ならば通信があって然るべきだが、今この時までⅠFF(敵味方識別装置)の反応は味方であっても、呼び掛けに応答はない。アザン・グラン家は最初からアーザイル家と結託しており、ウォーダ軍がこのエテューゼ宙域内に、完全に入り込むのを待っていたのは確定的だった。


 ここに来てノヴァルナは執務室の机を一つ、強く殴りつけてようやく、自分の失敗を認める。


 もしアーザイル家が縁戚関係まで持った間柄ではなく、単なる同盟者であったのなら、元来用心深いノヴァルナは、アーザイル家の領地のノーザ恒星群方面の哨戒網に、もっと厚みを持たせていたはずである。

「クソッ!! なんでだよ!!!!」

 自分以外誰もいない執務室で、吐き捨てるように叫んだノヴァルナは、両方の手の平で自分の両頬をパチン!と叩き、扉を開いて再び『ヒテン』の会議室へ向かった。いつもより距離が長く感じられる艦内通路だ。兵達がすれ違う度に、綺麗な敬礼を送る。気軽に右手を挙げて返礼するノヴァルナだが、自分の頬の筋肉がいつもと違って、幾分強張っているのを感じる。

 次々ともたらされる新たな艦隊発見の報に、ノヴァルナはの想いは打ちひしがれた。その理由は出現が確認された、アーザイル家の艦隊の数だ。初期に発見された三つの艦隊群は、それぞれ四個艦隊で一群を成しているのが確認されている。そしてその後、もう一つの艦隊群がガルザック星雲の出口付近に待ち構えていた。

 これはアーザイル家の宇宙艦隊総勢十六個艦隊が、全力出撃している事を示している。つまり、ウォーダ家に対し非友好的なクェルマス=アーザイルだけでなく、その嫡男―――義弟のナギ・マーサス=アーザイルまで、出撃している事を示していたのだ。
 
 会議室の前には副官のランと事務補佐官のジークザルト、護衛役のヤスークがノヴァルナを待っていた。主君の到着に一礼する三人を引き連れ、ノヴァルナは会議室の扉を開ける。中には先程と同じメンバーがすでに席に着いている。

 長円形テーブルの上座にやって来たノヴァルナは、着席せずに居並ぶ配下の武将達の顔をひと渡り見回す。そして大きく息を吸い込むと両手をテーブルについて、謝罪の言葉を叫びながら深く頭を下げた。

「みんな、すまん!!!!」

 無言で見詰める重臣達に、顔を上げたノヴァルナはさらに続ける。

「今度ばかりは、マジでやらかした! 俺のミスだ!」

 口調はぶっきらぼうだったが、表情は真摯であった。無理もない話だ。アザン・グラン家とアーザイル家が全力出撃して来たとなると、倍以上の敵戦力の中に孤立した事になる。そして故国のミノネリラ宙域は、何千光年も彼方となっている。

 会議室中央に浮かぶ広域版戦術状況ホログラムには、断片的ながら入手出来たアザン・グラン家と、アーザイル家の艦隊の位置情報が表示されており、それを見るとウォーダ家艦隊への挟撃態勢が、整いつつあった。真剣な面持ちで話を聴く武将達の前で、ノヴァルナは不意に「アッハハハハ!!」と大きく高笑い。態度を一変させて、右手で頭髪を掻きながら陽気に言い放つ。

「いやぁ。まいった、まいった! この戦国の世に、身内だからって信用するもんじゃねーってのは、身に染みて分かってた筈なのによぉ!」

 それでも無言で待つ武将達。彼等が待っているのは、この後どうするかという、ノヴァルナの作戦方針だ。ところがノヴァルナはここで、驚くべき事を口にした。

「俺は『センクウ・カイ』に乗って、そこの『カノン・ガルザック』城で敵を引き付ける。おめーらは自分の艦隊を率いて撤退するなり、敵に降伏するなり自由にしろ!」

「!!!!」

 途端に顔色を変える武将達。ノヴァルナはヴァルミスに顔を向けて告げた。

「ウォーダ家のあとの事は、ヴァルターダに任せる。悪ぃが、アイツの補佐をしてやってくれ」

 ノヴァルナがそこまで言ってところで、声を上げたのはカッツ・ゴーンロッグ=シルバータであった。

「お待ち下さい! 殿下はお一人で戦われるつもりなので、ございますか!?」

 これに「おうよ」と答えるノヴァルナだが、その声に被せてランが凛とした口調で発言する。

「殿下には『ホロウシュ』が、何時如何なる時も付き従います」

「そういう事を言っているのではない!」とシルバータ。
 
「このシルバータ。なんでノヴァルナ様を置き去りに出来ましょうや! 嫌と申されましても、どこまでも御供致しまするぞ!」

 傲然と胸を張って、大声量で言い放つシルバータ。

「ゴーンロッグ…」とノヴァルナ。

 ノヴァルナがやろうとしている事は、複雑な思考が苦手で実直なシルバータにも明白に理解できた。それならば、会議に同席しているマーディンやササーラといった恩顧の武将が、主君ノヴァルナの意図を理解しないはずはない。

「ふーむ。『ホロウシュ』が残ると言うのなら、元『ホロウシュ』の私も、これは残らない訳にはいきませんなぁ」

 どこかのんびりとした口調でそう告げるのは、第8艦隊司令官でかつては『ホロウシュ』筆頭を務めていた、トゥ・シェイ=マーディンだった。
 さらにマーディンの次席でのちに筆頭を務めた、第31艦隊司令のナルマルザ=ササーラも「おお。無論の事」と同意し、ノヴァルナに自らの意志を伝える。

「今でこそ艦隊司令などと、身に余る地位を頂いておりますが、我が心はノヴァルナ様の御側で、戦っていた頃のままにございます」

「マーディン…ササーラ…おまえらまで」

 呟くノヴァルナに、マーディンは穏やかな笑顔で言う。

「ノヴァルナ様。オ・ワーリの片隅で、仲間同士の小競り合いを繰り返す日々だけでした我等に、天下の夢を与えて下さったのは、ノヴァルナ様にございます…ならば、夢の終わりまでご一緒させて頂きとうございます」

 マーディンがそう話す間にも、戦術状況ホログラムが新たなアザン・グラン艦隊の、発見情報を追加表示する。後方のアーザイル艦隊との挟撃態勢は完成しつつあり、あとは前方のキーメラ星団にあるアザン・グラン艦隊群が、いつ集結を終えて動き出すか…という状況だ。

 しかし緊迫すべきこの時も、『ヒテン』の会議室はむしろ穏やかである。

「さてノヴァルナ様。そろそろ我が艦隊の配置を、ご指示願いたいのですが?」

 笑顔で切り出したのは、イェルサスであった。あくまでもウォーダ家の同盟者であり、家臣ではないこの丸顔の弟分の申し出に、流石にノヴァルナも困惑して言葉を返す。

「いや、それは駄目だイェルサス!」

 しかしイェルサスは無言のまま、ウォーダ家の人質であった少年時代と変わらぬ笑顔で、ニコニコとノヴァルナを見詰めるだけ。おそらくイェルサスは、信じていたナギ・マーサス=アーザイルに裏切られて傷心したノヴァルナに、最期まで寄り添って行く気なのだろう…


どいつもこいつも―――


 不敵な笑みを浮かべるノヴァルナだが、その笑みはいつもに比べ、どこか哀しげであった。だが何度も詫びるのは、彼の流儀ではない。陽気な声を振り絞って武将達に言う。

「よっしゃ。んじゃまぁ、盛大に最後の花火大会といくかぁ!!!!」




▶#03につづく
 
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