銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第15話:カノン・ガルザック撤退戦

#01

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「現在。最初にこれを発見した駆逐艦の他、付近に展開中であった三隻を、情報収集に向かわせています」

 一気に重々しくなってしまった、総旗艦『ヒテン』の会議室の中、第1特務艦隊司令ヴァルミス・ナベラ・ウォーダの声が静かに響く。

 会議室の中央に浮かぶ戦術状況ホログラムは、先ほどまでのアザン・グラン家艦隊が集結中とされている、キーメラ星団だけでなく、『カノン・ガルザック』宇宙城を中心とした、半径二百光年の広域図に切り替わっている。
 広域図のウォーダ軍から見て後方には、一時間ほど前に哨戒駆逐艦の『ラズシーダ』が発見した、アーザイル家のものと思われる艦隊反応が表示されていた。

 報告に続いてヴァルミスは、ノヴァルナに補給部隊の離脱を願い出る。

「今のうちに輸送艦を分離し、遠ざけておきたいと思いますが、宜しいか?」

 駆逐艦の『ラズシーダ』が意見具申して来た通り、もしアーザイル家が裏切ったのであれば、一番近くにいる自分達第1特務艦隊が迎撃の先陣になるはずで、護衛していた補給部隊の輸送艦を、出来るだけ遠くまで避難させておきたかったのだ。

「ああ。任せた」

 そう応じるノヴァルナの声には、珍しく覇気がない。その内心では、二つの気持ちがせめぎ合っていた。出現したアーザイル家のものと思われる艦隊が、裏切りを示すものではないかという疑念と、ナギによるサプライズの援軍かもしれないという期待だ。

「いずれにせよ何らかの手は、講じる必要があるでしょうな」

 武将達の深刻な顔が並ぶ中、ヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガが、淡々と言ってのける。このフォクシア星人の男は、ノヴァルナの陣中でも外様中の外様であるから、他の者ほどアーザイル家の裏切りの可能性に、動揺を感じていないのだろう。

「しかしどのような手を講じるにしろ、もう少し情報が必要だと思いますが」

 慎重な意見を出したのは、トクルガル家第4艦隊司令のズーマ=イシカー。イェルサスの懐刀的存在の武将だった。トクルガル家は立場的にアーザイル家に近い事もあり、慎重論を唱えたいのは当然のところだ。

「ご貴殿らの“自分達まで疑われては困る”、というお気持ちは理解できますが、機を逃せば敵を利するだけですぞ」

 なおも言い放つヒルザードに、イシカーだけでなく主君のイェルサスも、“寝返り組の貴殿が言うことか”とばかりに、不快げな眼を向ける。そこへヴァルミスから、新たな哨戒情報が告げられた。
 
「哨戒駆逐艦から新たな情報です。我が方の駆逐艦の接近に、先方はIFF(敵味方識別装置)を起動。表示はやはりアーザイル家のもののようです―――」

 そこまで聞いて、ノヴァルナの武将達は互いに顔を見合わせる。ただヴァルミスの報告は終わっていない。

「しかしながら、こちらからの超空間通信には応答がなく、行動の意図は不明のままであるとの事です」

 これはなんとも悩ましい情報であった。IFFでは同盟者であるアーザイル家の表示を行いながらも、通信による呼びかけには応じないという状況だ。

「これは…どうするべきで、ありましょうや?」

 ナルマルザ=ササーラも、厳ついガロム星人の顔に困惑の色を受かべ、ノヴァルナに問い掛ける。そのノヴァルナは即答せず、腕を組んで瞑目している。

「………」

「ノヴァルナ様?」

 呼び掛けるマーディンに、ノヴァルナはゆっくりと眼を開いて命じた。

「各艦隊から哨戒駆逐艦を抽出し、ノーザ恒星群方面へ集中派遣。さらなる情報収集に努めろ」

 即座に「御意!」と応じるカッツ・ゴーンロッグ=シルバータ。それに対し、ミディルツやキノッサ、そしてヒルザードなどは怪訝そうな光を双眸に宿した。

「今から哨戒駆逐艦を増派しても、大した距離は進めませんぞ」

 そう言うヒルザードは、首を捻りながらも苦笑いをその顔に受かべる。「わかってるさ!」と思わず強く言い返すノヴァルナに、ヒルザードは「そうですか。失礼致しました」と、腹を立てる様子もなく詫びの言葉を口にした。気まずい思いの中でノヴァルナは、各武将に旗艦で待機するよう告げ、会議を中断したのであった。



 どんな人間にも、たとえ銀河規模の国家の頂点に立つ実力者であろうと、判断を迷い、選択を誤ることがある。いや大小の差こそあれ、人生は誤判断の積み重ねと言ってもいい。特に信じたくはない事実を前にした時、無理にでも誤った判断の方を正しいと思い込もうとするものだ。


そして今のノヴァルナがそうである―――


 これまでのウォーダ家とアーザイル家との、良好な関係を考えれば、ノヴァルナが信じたくないのも無理はない。ましてや当主のナギ・マーサス=アーザイルは、妹のフェアンを嫁がせた義理の弟であり、これまでに何度も共闘してきた間柄だ。皇都惑星キヨウと星帥皇室を巡る、先の“ミョルジ三人衆”との戦いでも、ノーザ恒星群からキヨウまで、おっとり刀で駆けつけてくれたではないか。

“違う…違うはずだ…”

 執務室へ戻ったノヴァルナは、リアルタイムでリンクしている室内の、戦術状況ホログラムを見詰めて、胸の内で呟いた………





▶#02につづく
 
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