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第15話:カノン・ガルザック撤退戦
#09
しおりを挟む「宇宙城表面に高エネルギー反応」
アザン・グラン軍総旗艦『サイオウ』の艦橋で、オペレーターが報告する。次の瞬間、戦術状況ホログラムが『カノン・ガルザック』城から扇状に放たれる、要塞主砲のビームを表示した。回避行動に入る各陽動部隊。着弾まで三分もかかるのであれば、たとえ光の速度の射撃でも躱すことが可能だ。
「撃って来ましたな」
エヴァーキンの参謀の一人が、戦術状況ホログラムを眺めながら言う。「うむ」と応じたエヴァーキンは、問いを返した。
「残る主力部隊の再集結は?」
「完了しております」
「宜しい。では我々も接近開始だ」
艦隊参謀からの返答を得て、主力部隊の行動再開を命じるエヴァーキン。程なくして七百隻近い艦隊群が、宇宙城へ向けて一斉に動き出す。
そこでエヴァーキンのところへやって来た情報参謀が、ウォーダ軍の展開状況の変化をもたらした。合わせて戦術状況ホログラムも更新される。
「宇宙城を盾にした陣形だと?」
眉を顰めるエヴァーキン。このエリアに転移する直前情報では、ウォーダ軍の艦隊は城の上下と、後方に一個ずつが置かれていたのだが、今は三つの艦隊全てが城の後方に、並ぶ陣形を組んでいる。
「セオリーでは城の前方または、上下に守備艦隊を展開すべきところだが…」
ここでもエヴァーキンは戦術のセオリーと照らし合わせて、ウォーダ軍の戦術に疑問を感じていた。中心に据えた城からの要塞主砲の援護を受けながら、迎撃行動を取るのが、城を使った防御戦闘の基本の一つである。
「敵にはハーヴェンが居ますからな。警戒が必要でしょう」
作戦参謀も不審げな眼で戦術状況ホログラムを見ながら、意見を述べた。はやり今をときめくあのノヴァルナを、かつて翻弄したハーヴェンの名は大きいようだ。
その間にも陽動部隊は活発な動きを見せ、『カノン・ガルザック』からの砲撃を回避しながら、距離を詰めてゆく。陽動部隊も主砲の砲戦距離に入ったため、宇宙城に対して、まず重巡部隊から艦砲射撃を開始する。
すると複数の重巡の艦長が、ある事に気付いた。宇宙城の遠隔操作式アクティブシールドが、完全には機能していないのだ。シールド自体は作動しているものの、正面…つまりアザン・グラン軍主力側に向いたまま、動かないらしい。
この報告を受けたエヴァーキンは「なるほど、そうか…」と納得した。防御艦隊が城の背後に集中しているのは、攻城部隊が動かないアクティブシールドと要塞主砲の砲撃を躱して、背後に回りこもうとするのを防ぐために違いない、と考えたのだ。
「よし。そういう事なら我が主力を二手に分け、まず後方の敵艦隊を力押しで撃破し、しかる後に宇宙城を占拠する!」
強い口調で命令を告げるエヴァーキン。得られたウォーダ軍の情報からすれば、彼の判断は正しく思える。
その考え方は以下の通りだ。偵察潜宙艦の撃破前の情報で、ウォーダ軍守備艦隊が宇宙城の上下に展開していたのは、城の前面に配置したアクティブシールドが、動かせない状態である事を秘匿するためのもの。
そして潜宙艦を発見し、撃破に成功した事でウォーダ軍は、アザン・グラン軍主力が統制DFドライヴで転移した直後に一部を突撃させ、偵察情報の更新を妨害。さらにアザン・グラン軍の陽動部隊に、早々に要塞主砲を射撃する事で、アクティブシールドが動かない状態を知られるのを、遅延させたのだ…というものである。
動かないアクティブシールドはむしろ、守備艦隊の防御戦闘にとって、艦隊の機動性の妨げになるものである。したがってウォーダ軍は全艦隊が、城の後方に移動したのだろうという、推測が成り立つ。
エヴァーキンの命令に従って、戦艦部隊を中心としたアザン・グラン軍主力部隊は、二手に分かれて左右に大きく迂回。陽動部隊が宇宙城の要塞主砲と交戦している隙を突き、ウォーダ軍守備部隊との接敵行動に入った。
しかしこのアザン・グラン軍主力部隊の動きこそ、天才軍師デュバル・ハーヴェン=ティカナックが、望んでいたものである―――
「今です」
落ち着いた口調で告げるハーヴェン。それとは対照的にキノッサは大きな声で、命令を発した。
「宇宙城、爆破!!」
次の瞬間、超新星爆発を思わせるほどの輝きを発し、『カノン・ガルザック』宇宙城は大爆発を起こした。自爆であった。真っ白な閃光が永遠の闇に包まれた宇宙に、一瞬の巨大な花…あるいは翼を広げた白鳥にも似た姿を描き出す。
眼も眩むほどの強力な輝きは、宇宙城を大きく回り込もうとしていた、アザン・グラン軍主力部隊をも包み込む。
「うっ!…宇宙城が爆発!!」
客観的報告が原則のオペレーターでも流石に動揺を隠せぬ声が、総旗艦『サイオウ』の艦橋に響く。無論、総司令官のエヴァーキンにとっても、これは予想外の出来事だ。
「爆発しただと!! どういう事だ!!」
一方のキノッサ艦隊は、アザン・グラン軍に生じたこの混乱を、活かさないはずがない。旗艦艦橋の『銀河に千成瓢箪』の家紋が描かれたタペストリーを背後に、キノッサのさらなる命令が飛ぶ。
「第36艦隊、前進開始。狙うは敵の総旗艦ッス!!」
▶#10につづく
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