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第15話:カノン・ガルザック撤退戦
#08
しおりを挟むハーヴェンの言っている事が正しいのは、キノッサにも映像付きで容易に想像する事が出来た。
キノッサ自身がアザン・グラン側の参謀として、司令官のノヴァルナに戦術をどうするか尋ねるシーン。ノヴァルナは宇宙城とその守備隊に対して、「んなもん、ほっとけ!」と言い放ち、「それより敵本隊を追え!」と命じる映像だ。如何にもしっくり来る。
「ここはアザン・グラン家の慎重策が、俺っち達に有利に働いたという事ッスね」
「相手の将の性格を知り、相手に自分の戦術が上手くいっている、と思わせる事こそ、戦略の上策にございます」
「なるほど。軍師殿の教え、肝に銘じておくッス」
かつては敵としてノヴァルナを手玉に取り、切歯扼腕させたハーヴェンは戦術や戦略において、キノッサには師匠であった。今回の撤退戦でも学べる事は大きい。
対するハーヴェンも、キノッサの学習能力と何でも吸収しようとする意欲は、高く評価しており、不治の病に冒され余命幾許も無い名軍師は、自分が持つ才を出来るだけ多く、この生徒に譲りたいと思っていた。そうであるなら、何としても生きて戻らねばならない。
「後方のアルケティ艦隊より、再集結完了の報告です」
そこに先制攻撃の突撃を仕掛けた、ミディルツ・ヒュウム=アルケティ指揮下のヤヴァルト宙域防衛第1艦隊から、後方で陣形の組み直しを完了した旨の報告が届いた。これで『カノン・ガルザック』宇宙城とキノッサ艦隊を先頭に、ミディルツ艦隊、そしてイ・クーダ家の二個艦隊という、三段構えの迎撃陣が出来上がった。
このエリアを嗅ぎ回っていた、アザン・グランの潜宙艦は撃破しており、敵はこの陣形の変更を知らないはずである。
そこに電探科のオペレーターから新たな報告。
「敵主力部隊の一部が、先手を打って動き始めました」
これを聞いて振り向くキノッサに、ハーヴェンは冷静に応じた。
「敵は戦術の一部を変更したようですね。再集結が早く終わった基幹艦隊で、要塞主砲を引き付ける意図でしょう」
「つまりは、“陽動”ってことッスか?」
キノッサの質問に頷くハーヴェン。「どうするべきッスか?」とさらに尋ねるキノッサに対し、逆にハーヴェンが問い質す。
「司令官はキノッサ様です。まず閣下のお考えを、お聞かせ下さい」
ハーヴェンの言葉にキノッサは「そうッスねぇ…」と言って腕を組み、少し間を置いたのちに回答した。教師に指名された生徒のように、背筋を伸ばして告げる。
「ここは、陽動に乗ってやるべきではないッスか?」
ハーヴェンはキノッサの回答に頷きながらも、「なぜ、そう思われます?」とさらに問う。適当に答えを選んで正解を引き当てても、命のやり取りをする戦場では意味がない。
「理由は、いま軍師殿が言われた、“相手に自分の戦術が上手くいっている”と思わせる事が、できるからッス」
「ほほう…」とハーヴェン。
「軍師殿に教えて頂いた、ノヴァルナ様のやり方のような動きを見せていない事から、敵側の戦術はこちらの宇宙城を攻略して、無力化する事に主眼を置いているのだと思うッス。それなら俺っち達は“城を攻められるのは困る”と思わせる、演技をするべきッス」
これを聞いたハーヴェンは満足そうな笑みで深く頷き、「流石にございますな」と合格点をキノッサに与えた。嬉しそうな反応のキノッサに、ハーヴェンの笑みも大きくなる。
ただハーヴェンの戦術の講義はそこまでであった。動き出したアザン・グラン軍主力部隊の先行陽動隊が、『カノン・ガルザック』宇宙城要塞主砲の有効射程圏内に、侵入して来たからである。作戦参謀から報告を受けたキノッサは、即座に要塞主砲による射撃を命じた。
『カノン・ガルザック』宇宙城の要塞主砲は、浮遊砲台式のものが八基。城の周囲で八角形を成す位置に置かれている。だがこれは通常配置であり、戦闘時には自由に移動させて使用することが出来る。
接近を始めたアザン・グラン軍陽動部隊も八個。重巡戦隊と宙雷戦隊を組み合わせた、機動性重視の編制だ。八方向から城を取り囲むように接近する陽動部隊に、要塞主砲がそれぞれに照準を合わせるため動き出す。口径は約18メートル。見た目はまるで、巨大な懐中電灯といったところだった。専用の対消滅反応炉を三基備え、本来なら宇宙城からの遠隔操作で制御されている。
しかし今は宇宙城には僅かな人員しかおらず、キノッサの旗艦『ヴェルセイド』がコントロールしていた。
「相手が陽動だからって、手を抜いちゃ駄目ッスよ。本気で撃破するつもりでしっかり狙うッス!」
要塞主砲の遠隔操作を担当しているオペレーター達のもとに、自分から足を運んで声を掛けるキノッサ。他の艦隊司令官では、あまり見慣れない行動だ。キノッサ流の配慮なのか、居ても立っても居られないからなのかは不明である。
「弾着まで三分の距離に達した敵部隊から、撃ち方はじめッス!」
そう言ってキノッサは、距離約5千4百万キロでの主砲射撃開始を命じた。
▶#09につづく
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