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第15話:カノン・ガルザック撤退戦
#10
しおりを挟む攻城目的の敵主力を引き付けての、『カノン・ガルザック』宇宙城の自爆。これこそデュバル・ハーヴェン=ティカナックが練り上げた、足止め作戦の最大の目玉であった。宇宙城の大爆発とはいえ、宇宙空間での戦闘では相当の距離があり、アザン・グラン軍主力部隊への直接的な被害はない。だが光学系を中心とした各種センサー類へのダメージは大きく、それに加えて何より心理的混乱が、尋常ではないレベルに達した。
「艦隊針路258で、敵の総旗艦の頭を押さえられます」
冷静な口調でモニターを画面を見るハーヴェンと対照的に、キノッサの命じる口調は熱い。
「全艦。目標、左舷側のアザン・グラン軍主力部隊! 戦艦群は射撃を待ち、重巡主砲の射程に入り次第射撃開始!! それに続いてBSI部隊も出撃するッス!!」
左舷側の艦隊を狙うよう命じたのは、そちらにエヴァーキンの総旗艦、『サイオウ』が居るからだ。この混乱した状況に上手く乗じれば、敵総旗艦の撃破も可能とはるはずである。
程なくしてキノッサの第36艦隊は、アザン・グラン軍主力部隊に対し、砲撃の火蓋を切った。戦艦群の主砲射撃を、それより射程距離の短い重巡の主砲射撃まで待たせたのは、それだけ火力を集中するためだ。
大量にほとばしるキノッサ艦隊の主砲ビームに、アザン・グラン艦隊の混乱がさらに大きくなる。
艦体に亀裂が走った戦艦の裂け目から炎が噴き出し、真っ二つにへし折れた重巡航艦が、回転を始めてあらぬ方角へ飛んでいく。艦橋付近に戦艦主砲のビームを喰らった軽巡航艦は、穿たれた大穴から無数の部品と、それに混じった戦死者の肉片をまき散らし、その間近で駆逐艦が一瞬でただのスクラップと化した。
「は、反撃しろ!! 反撃だ!!」
このような状況に陥れば、実直なヴァゼリエ=エヴァーキンでも、動揺は隠せない。だが艦隊参謀の返答は、その意に沿ったものではなかった。
「駄目です! 『カノン・ガルザック』城の爆発により、艦隊の大半の艦が、センサー類と艦隊データリンク系に、障害を受けている模様。組織的反撃は、現時点では困難かと」
「むう。ともかく各艦に早く混乱を収拾して、個艦でも反撃を行うよう伝えよ!」
そう命じるエヴァーキンだが、キノッサはその先手、先手を奪っている。
「宙雷戦隊は突撃し、統制雷撃! 続いて対艦装備のBSI部隊で強襲ッス!」
キノッサ艦隊から突撃を仕掛けた宙雷戦隊は二個。軽巡四隻と駆逐艦十隻からなる単縦陣の隊列が二本、一気にアザン・グラン軍主力部隊と距離を詰める。
第24宙雷戦隊と第28宙雷戦隊。その司令官はあの“スノン・マーダーの一夜城作戦”以来、これまでキノッサと苦楽を共にして来た、黒人ヒト種のキッパル=ホーリオと、バイシャー星人のカズージ=ナック・ムルであった。キノッサの基幹艦隊司令官への登用に伴って、宙雷戦隊司令官の地位を与えられたのだ。
「………」
元来無口な大男の、第24宙雷戦隊司令官ホーリオは、旗艦の軽巡の艦橋で前を見据えたまま、無言の腕組みで突っ立っている。まだ21歳になったばかりの若者だが、必要最低限の言葉しか発さない身長2メートルの巨躯は貫禄充分である。
もう一方の第28宙雷戦隊を率いるカズージは、魚類を思わせる頭部を持つバイシャー星人。口数はやたら多くて、喋る公用語は独特な訛りが強い。言動はとてもユニークだが、キノッサに対する忠義は、誰にも負けない自負がある。
「充分にはァ、距離を詰めりゃんせ! 命バ惜しんで及び腰じゃっど、当たる魚雷も当たらんぞな!!」
無論、アザン・グラン軍もキノッサ側宙雷戦隊の意図は見抜いている。接近して来る彼等に向け、総旗艦『サイオウ』と周囲の宇宙艦が一斉に砲火を向ける。
ウォーダ軍の駆逐艦が二隻、三隻と爆発を起こして、軽巡航艦にも被害が及ぶ。カズージの乗る軽巡航艦も、敵戦艦の主砲射撃で外部装甲板の一部を、エネルギーシールドごと抉り取られた。しかし全ての艦が速度は緩めない。宙雷戦隊とはそういうものだ。
「射点まで32秒。マーク!」
オペレーターの報告に、砲雷術長が「用ーー意!」と、宇宙魚雷全弾発射のタイミングを探り始める。そして今がその時!…と、二人の司令官は同時に命じた。
「第24宙雷戦隊。全艦左舷回頭九十度!」
「第28宙雷戦隊さァ、全艦右舷九十度で回頭しなっせ!!」
二列縦隊で突撃していた二つの宙雷戦隊は、一斉に左右に針路を変更する。左にホーリオの第24宙雷戦隊。右にカズージの第28宙雷戦隊。見事に統一された動きだ。射点を得たと判断した両宙雷戦隊の全砲雷術長が、声を揃えて宇宙魚雷の発射を命じる。
「魚雷全門、一斉発射!」
次々と発射管から飛び出してゆく、必殺の宇宙魚雷。その数は五十本…百本と、一挙に増えていった。無論これだけ距離を詰めれば、宙雷戦隊もただでは済まず、さらに軽巡二隻、駆逐艦六隻が火球と化して砕け散る。
統制雷撃の閃光がアザン・グラン軍主力部隊の中で幾つも輝く一方、キノッサ艦隊に属する第19航宙戦隊の旗艦である、打撃母艦(宇宙空母)『プレジンディア』のBSI格納庫では、発艦準備を完了したBSIユニットが放つ重力子ジェネレーターのアイドリング音が、甲高い金属音の大合唱を響かせている。
「宙雷戦隊の統制雷撃終了。戦果大なり。これより艦載機の発艦を始める」
艦内放送が第24・28両宙雷戦隊による、突撃の成功を伝えて来る。詳しい戦果は不明だが、こちらの戦術は上手くいっているようだ。BSIユニットの、そう広くはないコクピットに押し込められている、出撃直前のパイロットには、戦場全体の情報は限定的なものしか得られない。だが個々に与えられた任務をこなす事、その積み重ねによって、自軍の勝利の可能性が高まっていくのは間違いない。
そんな自分に与えられた任務が、対艦装備のASGULと宇宙攻撃艇部隊を護衛し、迎撃に出て来るアザン・グラン軍のBSI部隊を排除する事である。
やがて格納庫内に整然と並んだBSIユニットの最前列四機が、前方でゲートを開いている射出機へ送り出されていく。機動兵器射出機は六基あるが、両側の二基は予備であって通常は使用されない。
十六歳の女性パイロット、フェルデーサ=ゼノンゴークが乗る機体は、その十二番目の列にいた。艦隊司令官キノッサの期待の星で、将来的に将官用専用機BSHOの拝領が見込める逸材である。昨年の11月にはウォーダ軍のエースパイロットの一人、トゥ・シェイ=マーディンとの模擬戦で敗れはしたものの、その才覚の一端を見せつけた。
「ゼノンゴーク」
通信機で呼び掛けて来たのは、指揮官機に乗るBSI指揮官のティヌート=ダイナン。こちらもキノッサとは“一夜城作戦”からの付き合いだ。フェルデーサは青い瞳を、自分の機体の右側でハンガーに固定されている、ダイナンの『シデン・カイXS』に向け、「はい」と応じる。
「その機体で実戦に出るのは、これで二度目だな。癖は掴めているか?」
フェルデーサは苦笑いで「たぶん」と答えた。ダイナンの直卒BSI中隊に配属されているフェルデーサの機体は、親衛隊仕様の『シデン・カイXS』にさらに手を加えた、『シデン・カイXS-TF』という機体だったのだ。サイバーリンクシステムが強化されており、BSHOと親衛隊仕様BSIの、中間レベルにあるこの特殊機体は、キノッサがガルワニーシャ重工に掛け合って、特別仕様機として造ってもらったものであった。
▶#11につづく
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