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第15話:カノン・ガルザック撤退戦
#12
しおりを挟むそのフェルデーサは、三機目の敵ASGULを仕留めたところである。拝領した当初は、機体反応のピーキーさに戸惑っていた『シデン・カイXS-TF』だったが、今回は馴染んでいるようだ。
近接警戒センサーを視覚で確認しなくとも、フェルデーサの意識内に左後方から迫って来る、敵の量産型『ハヤテ』の映像が浮かぶ。BSHOに近い特性を持った『シデン・カイXS-TF』ならではの感覚である。さらに左背後上方からも『ハヤテ』が一機。
二機の敵BSIユニットが距離を詰めて来るタイミングを、気付かぬふりで計ったフェルデーサは、すぅ…と僅かに胸をそらして息を吸い、呼吸を止めた次の瞬間に機体を翻した。向きを変えた超電磁ライフルの銃口から飛び出す弾丸。さらに機体をもう一回転させながら、横滑りを加えるフェルデーサ。
一機目の『ハヤテ』の胸部が砕かれる一方で、『シデン・カイXS-TF』の脇腹を、二機目の『ハヤテ』が放った銃弾が通り過ぎてゆく。
フェルデーサを仕留め損なって、二機目の『ハヤテ』は素早く回避運動に入る。逃がした相手からの反撃に備えるのは、基本的な動作だ。しかしコース取りは単純だった。フェルデーサが予測位置に放った銃弾に、バックパックが破壊されて火の玉と化す。
指揮官のダイナン曰く、『シデン・カイXS-TF』を受領して、最初の戦いが振るわなかったのは、“真っ新な機体に遠慮していた”ためだとか。それが二戦目にして、機体との相性――サイバーリンク深度が俄然良くなったのは、“打ち解けて来た”と言ったところなのだろう。
フェルデーサは勢いをかって、さらに二機の『ハヤテ』を仕留めた。超電磁ライフルの弾倉を交換したフェルデーサは、トゥ・シェイ=マーディンとの模擬戦で揺らいだ自信が、蘇って来るのを感じた。
“私、調子が上がっている…!”
十六歳の少女らしく頬を紅潮させて、戦術状況ホログラムに眼を遣るフェルデーサ。自分が所属する“リベリオン中隊”の各機とも、戦果は上々のようだ。指揮官のティヌート=ダイナンから通信が入る。
「敵の迎撃部隊は排除出来たようだ。対艦攻撃隊の攻撃開始は間も無く。“リベリオン中隊”各機は、所定の直掩位置へ復帰せよ」
その命令に「了解」と応答するフェルデーサ。そこに母艦のコマンドコントロールから、警報が届いた。
「“リベリオン中隊”、こちら“シーフコマンド”。敵の新たな迎撃部隊接近中。BSHOを含む強力な部隊と思われる。警戒せよ!」
「敵のBSHO!?」
新たな迎撃部隊の中の将官専用機の存在に、フェルデーサの表情は一転して引き締まる。BSHOはそこに居るだけで、戦場の空気を一変させるものがあった。しかしその一方、BSHOに乗った武将を討ち取るという事は、戦闘を一気に優勢にする事が出来る。それに無論、自分自身が得る功績も非常に大きい。さらにそこへコマンドコントロールからの続報。だがその内容は驚嘆すべきものであった。
「“シーフコマンド”より各中隊。新たな敵迎撃部隊と接触した、“リキュールテイカー中隊”が全滅した模様! 警戒レベルを“厳戒”とせよ!」
これにはフェルデーサも唖然とする。敵の新たな迎撃部隊出現の、最初の警報が入ってからまだ十分も経っていない。それでいて味方の中隊一個が、早くも全滅したというのだ。
そしてすぐに、母艦から新たな情報が伝えられた。
「“シーフコマンド”より各中隊。敵BSHOの解析完了。機体名『キョウマ』。搭乗者はアザン・グラン軍第1艦隊BSI指揮官、ネオターク・ジュロス=マガランと思われる!」
「マガラン!?」
「なにっ!!??」
「マガランだと!!」
これを聞いたウォーダ軍の複数のパイロットが、同時に声を上げる。ただその表情は、怯懦…不安…そして闘志と様々だ。フェルデーサも唇を真一文字にして、操縦桿を握る指に力を込める。キノッサ艦隊にはBSHO乗りはおらず、自分の乗る『シデン・カイXS-TF』が機体性能では一番優れていた。
“やれるの?…いいや、やらなくっちゃ!”
戦術状況ホログラムに表示される、敵のBSHO反応を見詰め、フェルデーサは自分自身に言い聞かせた。
そのマガランは、ウォーダ軍の“リキュールテイカー中隊”を全滅させた勢いそのまま、次に立ち向かって来た“シルバーウェーヴ中隊”の中へ突っ込んでいる。
「ぬおおおおおおお!!!!」
マガランの雄叫びと共に、BSHO『キョウマ』が振り下ろすのは、全長が40メートル以上はある豪刀『タイロン』だ。
「うっ!…うわぁああああああああ!!!!」
機体の倍ほどもある巨大なクァンタムブレードの斬撃に、キノッサ艦隊の量産型『シデン・カイ』は、受け止め防ごうとしていたQブレードごと、機体を縦に両断される。そのまま後ろを振り返り、四つ目のセンサーアイを赤く輝かせる『キョウマ』の禍々しい姿に、背後からポジトロンランスを突き立てようとしていた、人型に変形している二機のASGULが、思わず身を竦めた。
「戦場で、立ち止まる奴があるかぁッ!!」
怯んだ二機のウォーダ軍ASGUL『ルーン・ゴート』が、動きを止めたのを叱りつけながら、間合いを詰めたマガランは豪刀『タイロン』を真横に一閃した。
腹部から揃って一刀両断された二機の『ルーン・ゴート』は、上半身と下半身が別方向にクルクルと、回転しながら飛び去って爆発を起こす。ガルザック星雲の誕生したばかりの恒星が、青白い光で豪刀『タイロン』の刀身を輝かせる。片刃のその豪刀は厚みもあって、まるで巨大なナタのようですらあった。両断と言っても、その有様は“切り裂く”よりも、“叩き割る”と呼んだ方が相応しい。
そしてこの男の率いる“インヴィンシブル中隊”そのものの戦闘力も、他を圧倒していた。指揮官機のBSHO『キョウマ』と、親衛隊仕様『ハヤテGC』二十三機は、立ち向かって来るウォーダ軍のBSIユニットを、雑草でも刈り取るように薙ぎ払ってゆく。
「敵の直掩隊は我々に任せ、迎撃部隊は敵の対艦攻撃隊の撃滅に専念しろ」
頃合いとみて、戦場にいるアザン・グランBSI部隊にそう指示を出したマガランは、自分の中隊を四機で構成される小隊に分け、六個小隊個々で戦闘行動を取らせ始める。
圧倒的技量を持つマガランとその部下達に、ウォーダ軍BSI部隊の直掩隊は自分の身を守る事に精一杯となり、護衛を失った対艦攻撃隊はアザン・グラン軍の迎撃部隊に対して、不利な状況置かれてしまった。
攻撃艇を内側、ASGULを外側に配置した密集隊形をとって、全方位を撃てるASGULのビーム砲で迎え撃つものの、機動力に勝るアザン・グラン軍のBSIユニットに、次々と撃破される。
「くそっ。このままではマズい!」
ウォーダ軍BSI部隊の悪い方への状況の変化に、“リベリオン中隊”を率いるティヌート=ダイナンは、シートに座る自分の膝を拳で叩いた。
自分の中隊が直掩を務める対艦攻撃隊は、まだ無傷で敵艦隊に向かっているが、中隊二十四機のうち十六機が、敵の親衛隊仕様機四機の小隊との戦いに忙殺され、ダイナンを含む八機で、対艦攻撃隊を狙って群がって来る敵を、どうにか追い払っている状態だ。そこに味方の別の中隊が発する通信が聞こえて来る。
「こちら“ハリアー03”。中隊長と“ハリアー02”戦死。直掩隊損耗率6割、対艦隊損耗率5割につき、撤退の許可を―――」
そこまで聞いた時、破壊音と「ぎゃああッ!!」という断末魔の叫び声が起こり、通信は途絶えてしまった。
▶#13につづく
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