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第15話:カノン・ガルザック撤退戦
#16
しおりを挟むBSI部隊と、自爆前に『カノン・ガルザック』を脱出した作業員を収容したキノッサ艦隊は、統制DFドライヴを行って戦場を離れた。その行き先はオウ・ルミル宙域を約百光年後退した位置にある、小規模な星団である。誕生間もない青白い色の原始恒星が五つ、白いガス雲の中で強い光を放っている。
その光景を背後に超巨大な光のリングが出現。黒いワームホールを形成する。まず最初に転移先の環境を確認する有線先行プローブが、ワームホールの中心から飛び出して来た。
それから三分後、キノッサの第36艦隊がワームホールから姿を現す。艦隊戦力は総数六十二。アザン・グラン軍との戦闘で十四隻が失われた他、特にBSI部隊は、敵のマガラン隊出撃の影響で三分の二を失う大損害を被っていた。
「全艦転移完了」
キノッサの旗艦『ヴェルセイド』の艦橋に、オペレーターの報告の声が響く。普段の恒星間航行なら、これに続き「全艦異常なし」の報告が入るのだが、アザン・グラン軍主力部隊との激闘を行ったあとでは、そういうわけにも行かなかった。
艦隊旗艦『ヴェルセイド』の向こう側に転移して来た戦艦が、艦尾に突き出した四本の重力子ノズルのうちの二本に、青いスパークを絡み付かせ、火花を散らしたかと思うと、推進力を失って宇宙空間を慣性のまま漂い始める。そして二隻…三隻と、異常をきたす艦がさらに発生し始めた。
「戦艦『リファーロッド』機関停止!」
「重巡『アーレンバレル』、『カウフレン』、推進システムに異常発生の模様」
「第57宙雷戦隊より、軽巡2・駆逐艦2に、出力低下の障害ありとの報告」
さらに幾つかの損害報告が届く中、司令官席の前に立ったままのキノッサの傍らで、参謀長のハーヴェンが「損傷艦は応急修理を始めるように」と命令している。艦橋中央の戦術状況ホログラムは、艦隊情報を映し出しており、キノッサはそれを見て、小さくため息をついた。かなりの数の艦がダメージを受けており、自分が乗るこの『ヴェルセイド』も、敵戦艦からの砲撃を二発喰らっている。十四隻の喪失が多いと捉えるべきか、まだマシと考えるべきかは難しいところである。
「前方、距離5万に補給部隊」
電探士の報告に、キノッサは別のホログラムスクリーンに眼を遣る。その画面には、原始恒星の光を反射して青白い光を帯びた、五十個ほどの細長い粒が、四列に並んでいるのが映し出されていた。第1特務艦隊が置いていった、補給部隊の輸送艦だ。
ここに浮かんでいる五十二隻の輸送艦は、ヴァルミス・ナベラ=ウォーダの第1特務艦隊が護衛していた、補給部隊であった。ノヴァルナが第1特務艦隊に移乗した際、この補給部隊の全乗員は収容されて無人となっていたが、補給物資はそのままであり、『カノン・ガルザック』宇宙城で一回目の足止めを行ったキノッサの殿軍が、二回目の足止めのために使用する対艦誘導弾や宇宙魚雷などの補給と、応急修理を行うための、“臨時補給地”として置かれていたのだ。
“臨時補給地”へ到着するや否や、キノッサ艦隊の各艦は搬送シャトルを出発させ、補給艦へ向かわせ始める。
「各艦は補給と、応急修理を急げ。それに休める者は、半舷交代で休養だ」
「しばらくすれば、ミディルツ様の艦隊も転移して来る。それまでに済ませよ」
指示と命令が飛び交い、兵達が行動する。損害は少なくないが、士気は落ちてはいない。戦略としては成功しているからであろう。
この放置された無人輸送艦群を“臨時補給地”として利用する事も、『カノン・ガルザック』宇宙城の自爆に繋がる、デュバル・ハーヴェン=ティカナックの頭脳が生み出した、見事な戦略の一環であった。
アザン・グラン軍が『カノン・ガルザック』宇宙城の奪回を目論んだのは、これを追撃戦の補給地として利用しようとしたからだ。そして彼等からすれば、ウォーダ軍も補給拠点として、宇宙城を維持しようとするはずだと考えていた。
だがハーヴェンはこの宇宙城ではなく、無人となった補給部隊を、補給地として利用する事を考えたうえで、自爆させたのである。
アザン・グラン軍は宇宙城が自爆する可能性など考えず、前面に配置した動けない要塞主砲の射角を躱し、城の後方で展開したウォーダ軍を撃破するため、十二個艦隊の主力部隊を、六個ずつの二手に分けた。
六個対四個の艦隊戦力であるならば、キノッサのウォーダ軍はまだ戦える。宇宙城の自爆によって、二手に分かれた状態で混乱に陥った、アザン・グラン主力部隊に対し、ウォーダ軍はアザン・グラン主力部隊の中でも、総旗艦『サイオウ』を擁する第1艦隊へ攻撃を集中したのである。
数的不利は如何ともし難いウォーダ軍であったが、アザン・グラン軍は利用するつもりだった『カノン・ガルザック』宇宙城の自爆で、補給拠点を失ってしまったのが痛恨事だった。これが今後の追撃戦に支障をきたすのは間違いなく、この結果にキノッサは改めて、ハーヴェンの存在の大きさを感じさせられたのであった。
▶#17につづく
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