銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

文字の大きさ
400 / 526
第15話:カノン・ガルザック撤退戦

#22

しおりを挟む
 
「ク・トゥーキ星系を掠めるコースか…」

 ジークザルトが提案した航路に、ノヴァルナは考える眼になる。これに対し航宙参謀が、不安点を示した。

「その航路も検討しましたが、ク・トゥーキ家がどう動くかは分かりません。もし彼等が我々を発見し、アーザイル家に味方した場合、我等がこれを突破するのは、戦力的にも非常に困難です」

 ク・トゥーキ星系は、ヤヴァルト宙域との境界面近くに位置する植民星系で、独立管領のク・トゥーキ家が統治している。
 古くからの中立勢力であり、星帥皇室が非常時にNNLの制御を行うためのハブステーション、『ハブ・ウルム・ク・トゥーキ』が設置されている。昨年5月、現星帥皇ジョシュアの上洛戦の際、このハブステーションを利用し、NNLシステムの制御権の一部を奪還したのは、記憶に新しい。

 しかしすでに述べた通り、ク・トゥーキ家は中立勢力であるがゆえに、ウォーダ家にとって味方であるとは限らないのだ。もしノヴァルナ分艦隊をク・トゥーキ家が発見した場合、これを撃滅するなり捕らえるなりして、アザン・グラン家に売り渡そうと考える可能性もある。

 航宙参謀がこの事を伝えると、ジークザルトは利点を強調した。

「確かにク・トゥーキ家が、我等の味方になるとは限りません。ですがアーザイル家も中立のク・トゥーキ星系周辺には、HDSSS(超空間航行監視システム)を展開できないはずです」

「それはそうだが、すでにク・トゥーキ家がアーザイル家と、手を組んでいた場合は、HDSSSの展開も可能なのではないか?」

 と航宙参謀が反論する。だがジークザルトは二十歳近く年上の相手にも、物怖じする事無く言葉を返した。

「恐れながら、自分はそうは考えません。中立であるという事は、同格であるという事です。もしク・トゥーキ家が、アーザイル家のHDSSS展開を受け入れるのであれば、それはアーザイル家に従属した事になります。我等がク・トゥーキ星系近郊を通るのは、相手にとっても可能性の一つに過ぎず、そのためにク・トゥーキ家が従属関係まで結ぶとは思えません」

 この様子を、ヒルザードは眼を細めて眺めていた。ジークザルトの案は実はヒルザード自身も、同様に考えていた事だったからだ。そこでヒルザードは、ノヴァルナに向き直って、ジークザルトに賛同する。

「ノヴァルナ様。このヒルザードも、ジークザルト殿の考えを是と致します」

 ヒルザードの言葉が決め手となったわけではないが、ノヴァルナはジークザルトの提案した、ク・トゥーキ星系近郊を通過する航路を採用する事にした。分艦隊には前方哨戒に使える駆逐艦が四隻しかなく、しかも通常より探知能力が低下する、ステルスモードで航行させる必要があるため、アーザイル家の哨戒網を躱さずに、ク・トゥーキ家の勢力圏を進んだ方がよいという判断だ。

 事実、ノヴァルナは知らない情報であったが、分艦隊を追撃中のアーザイル艦隊では、指揮を執っていたナギ・マーサス=アーザイルが、『クォルガルード』の不在に勘付いており、ヤヴァルト宙域境界方面の警戒態勢を厳にするよう、命令を出していた。

 そんな折、二度のDFドライヴを終えたノヴァルナ分艦隊が、問題のク・トゥーキ星系へ差し掛かった時である。前方哨戒の駆逐艦『ラズシーダ』が、ク・トゥーキ家のものと思われる、哨戒艇と遭遇してしまったのだ。
 分艦隊が統制DFドライヴを終了し、四隻の前哨駆逐艦が哨戒位置につくため、速力を上げて前進した際に、『ラズシーダ』は哨戒艇が発している警戒センサー波をキャッチ。哨戒艇と直接出逢ったわけではないが、警戒監視網に引っ掛かった可能性が高いのを知った。高速移動のため、ステルスモードに移行しておらず、不運だったとしか言いようがない。

 『クォルガルード』に直接詫びの通信を入れて来た、駆逐艦『ラズシーダ』の新米艦長に、ノヴァルナは「まぁ、色々あらーな。おまえらのせいじゃねーし、気にすんな」と、陽気に応じて回線を閉じた。そしてそのままヒルザードや参謀達を見渡して、「さて、どうしたもんだろな?」と、砕けたままの声で問い掛ける。それを聞き、ク・トゥーキ星系通過を航路に設定する案を出したジークザルトが、珍しく神妙な口調で告げる。

「申し訳ありません。このように早く、ク・トゥーキ家に発見されるのは、想定外でした」

 これに対しノヴァルナは、いつもの不敵な笑みを浮かべて言葉を返す。

「言ったろ、“気にすんな”って。それよか、こっからどうするか…だ」

 するとここで、ヒルザードが進み出て打開策を口にした。

「見つかってしまったであろう事は、どうにもできませんからな。こうなればク・トゥーキ家を味方につけ、堂々とヤヴァルト宙域へ向かいましょう」

「中立勢力のク・トゥーキ家を、味方につけるだと?」

 ノヴァルナが問うと、ヒルザードが双眸をギラリと光らせて言う。


「はい。つきましては、このヒルザードがク・トゥーキ家に赴き、交渉して参りましょうぞ…」




▶#23につづく
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...