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第15話:カノン・ガルザック撤退戦
#22
しおりを挟む「ク・トゥーキ星系を掠めるコースか…」
ジークザルトが提案した航路に、ノヴァルナは考える眼になる。これに対し航宙参謀が、不安点を示した。
「その航路も検討しましたが、ク・トゥーキ家がどう動くかは分かりません。もし彼等が我々を発見し、アーザイル家に味方した場合、我等がこれを突破するのは、戦力的にも非常に困難です」
ク・トゥーキ星系は、ヤヴァルト宙域との境界面近くに位置する植民星系で、独立管領のク・トゥーキ家が統治している。
古くからの中立勢力であり、星帥皇室が非常時にNNLの制御を行うためのハブステーション、『ハブ・ウルム・ク・トゥーキ』が設置されている。昨年5月、現星帥皇ジョシュアの上洛戦の際、このハブステーションを利用し、NNLシステムの制御権の一部を奪還したのは、記憶に新しい。
しかしすでに述べた通り、ク・トゥーキ家は中立勢力であるがゆえに、ウォーダ家にとって味方であるとは限らないのだ。もしノヴァルナ分艦隊をク・トゥーキ家が発見した場合、これを撃滅するなり捕らえるなりして、アザン・グラン家に売り渡そうと考える可能性もある。
航宙参謀がこの事を伝えると、ジークザルトは利点を強調した。
「確かにク・トゥーキ家が、我等の味方になるとは限りません。ですがアーザイル家も中立のク・トゥーキ星系周辺には、HDSSS(超空間航行監視システム)を展開できないはずです」
「それはそうだが、すでにク・トゥーキ家がアーザイル家と、手を組んでいた場合は、HDSSSの展開も可能なのではないか?」
と航宙参謀が反論する。だがジークザルトは二十歳近く年上の相手にも、物怖じする事無く言葉を返した。
「恐れながら、自分はそうは考えません。中立であるという事は、同格であるという事です。もしク・トゥーキ家が、アーザイル家のHDSSS展開を受け入れるのであれば、それはアーザイル家に従属した事になります。我等がク・トゥーキ星系近郊を通るのは、相手にとっても可能性の一つに過ぎず、そのためにク・トゥーキ家が従属関係まで結ぶとは思えません」
この様子を、ヒルザードは眼を細めて眺めていた。ジークザルトの案は実はヒルザード自身も、同様に考えていた事だったからだ。そこでヒルザードは、ノヴァルナに向き直って、ジークザルトに賛同する。
「ノヴァルナ様。このヒルザードも、ジークザルト殿の考えを是と致します」
ヒルザードの言葉が決め手となったわけではないが、ノヴァルナはジークザルトの提案した、ク・トゥーキ星系近郊を通過する航路を採用する事にした。分艦隊には前方哨戒に使える駆逐艦が四隻しかなく、しかも通常より探知能力が低下する、ステルスモードで航行させる必要があるため、アーザイル家の哨戒網を躱さずに、ク・トゥーキ家の勢力圏を進んだ方がよいという判断だ。
事実、ノヴァルナは知らない情報であったが、分艦隊を追撃中のアーザイル艦隊では、指揮を執っていたナギ・マーサス=アーザイルが、『クォルガルード』の不在に勘付いており、ヤヴァルト宙域境界方面の警戒態勢を厳にするよう、命令を出していた。
そんな折、二度のDFドライヴを終えたノヴァルナ分艦隊が、問題のク・トゥーキ星系へ差し掛かった時である。前方哨戒の駆逐艦『ラズシーダ』が、ク・トゥーキ家のものと思われる、哨戒艇と遭遇してしまったのだ。
分艦隊が統制DFドライヴを終了し、四隻の前哨駆逐艦が哨戒位置につくため、速力を上げて前進した際に、『ラズシーダ』は哨戒艇が発している警戒センサー波をキャッチ。哨戒艇と直接出逢ったわけではないが、警戒監視網に引っ掛かった可能性が高いのを知った。高速移動のため、ステルスモードに移行しておらず、不運だったとしか言いようがない。
『クォルガルード』に直接詫びの通信を入れて来た、駆逐艦『ラズシーダ』の新米艦長に、ノヴァルナは「まぁ、色々あらーな。おまえらのせいじゃねーし、気にすんな」と、陽気に応じて回線を閉じた。そしてそのままヒルザードや参謀達を見渡して、「さて、どうしたもんだろな?」と、砕けたままの声で問い掛ける。それを聞き、ク・トゥーキ星系通過を航路に設定する案を出したジークザルトが、珍しく神妙な口調で告げる。
「申し訳ありません。このように早く、ク・トゥーキ家に発見されるのは、想定外でした」
これに対しノヴァルナは、いつもの不敵な笑みを浮かべて言葉を返す。
「言ったろ、“気にすんな”って。それよか、こっからどうするか…だ」
するとここで、ヒルザードが進み出て打開策を口にした。
「見つかってしまったであろう事は、どうにもできませんからな。こうなればク・トゥーキ家を味方につけ、堂々とヤヴァルト宙域へ向かいましょう」
「中立勢力のク・トゥーキ家を、味方につけるだと?」
ノヴァルナが問うと、ヒルザードが双眸をギラリと光らせて言う。
「はい。つきましては、このヒルザードがク・トゥーキ家に赴き、交渉して参りましょうぞ…」
▶#23につづく
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